第156話、タケ、獣人の国へ行く。②
「おーい。ブラッスリー。大丈夫かぁ?」
結構な重量の玉につぶされたからな。それにしても力負けするなら行くなよ。竜の体じゃないとこんなに力が弱いのか。
「わらわなら大丈夫なのじゃ。じゃが、悔しいのじゃ」
「ふふっ。ブラッスリーちゃんは無理しちゃダメね」
今のはいったいどういう事だ。何か罠でも踏んだのか。いや、そんな感じは受けなかった。それだとこの道を進んだ事で発動したのか。とにかくこっちの道は不正解だったって事だな。そうと決まれば……。
「この先にまた罠があるかもしれない。一度引き返して別の道を進もう」
「そうするのじゃ」
玉の上に跳躍して見下ろす様にブラッスリーは言ってるけど、おまえ、さっきの事もう忘れてるだろ。次につぶされたら先頭は俺だからな。
来た道を引き返し、分岐でもう一つの道へ入る。うん、罠らしいものはない。
「今度は当たりなのじゃ」
いや、当たりもくそもないからな。ギャンブルじゃないんだからさ。
「今度は大丈夫でしょうか?」
「任せるのじゃ」
ははっ。皆に生暖かい視線を向けられてるが、ブラッスリーは気にしない。
自信ありげに一人で先へ進む。俺たちも遅れないように追いかける。すると、前からガシャン、ガシャンと足音が聞こえだした。
この展開だと今度はアレか。ホーリーライツの出番だな。間違いなく。
「来たのじゃ! ブレス!」
「はっ?」
フルプレートの骸骨が視界に入った途端、ブラッスリーの口からブレスが吐き出された。それはまるで、スプレー缶に火をつけたような弱々しい炎だった。
そんな炎で魔物が倒せるわけもなく、近づいてきた骸骨兵は剣を振りかぶる。
「させるかッ。ホーリーライツ!」
普通は天空から矢のごとく降り注ぐ魔法だが、ここは狭い。よって前方向に指向性を持たせた。その結果、光の奔流は前方の骸骨兵をなぎ払う。
「ふう、危なかったな」
「……わらわのブレスが……」
「ブラッスリーちゃんは最後尾に居ましょうね」
「竜族は人型に変化すると火力も力も失うのですね……知りませんでした」
皆に諭されブラッスリーはサラフィナの後ろに。俺が先頭に立った。まさか、ブラッスリーがここまで使えないとはな。以外だったぜ。
塵と化した骸骨兵の来た方向にずんずん進む。すると、【カチッ】と何かを踏んだ音が聞こえた。しばらくして、ゴゴゴゴゴーっと、水が押し寄せる。
「タケさん」
「また罠なのじゃ」
「ドリルワーク!」
さっきと同じく通路に穴を開ける。しかし、水の量は予想外に多かった。穴を飛び越えた水流は、そのまま俺たちを巻き込む。
「「「「あぁぁぁぁぁぁ」」」」
濁流に流される人の気持ちをここで味わうとはな。ははは……。
水流の高さは腰ほどしかない。しかし、水圧には勝てなかった。直線の通路を流された俺たちは、階段の手前まで戻される。
「「「「……………………」」」」
幸い皆にケガはなかったようだ。
「いやぁ、参ったね」
「タケさん……」
「タケ様……」
「あはははは、旦那様も一緒なのじゃ」
一緒じゃねぇだろ。あれ、ブラッスリーと同じか。もしかして……。
「これは私が先頭の方が良さそうですね」
ここで満を持してサラフィナの登場か。エルフの直感がどこまでこのダンジョンに通用するのか見せてもらおうじゃないか。
水の勢いは収まり、流された通路を戻る。俺の掘った穴を飛び越え、その先へ進んだ。しかし、そこに階段はなかった。行き止まりとは……。
「ふっ。ここではなかったようですね」
「だから言ったのじゃ。最初の方向で合ってたのじゃ」
「ブラッスリーちゃん……」
「はぁ。また戻るのか……行き止まりだったらさっさと戻ろうぜ。それともこの壁を壊して進むか?」
ここまで骸骨兵の通った穴も、水を流した配管も見つかってない。という事は、どこかに抜け道がある可能性だってある。そう考えた訳だが。
「タケ様、何か嫌な予感がします。ここは引き返した方が」
「まぁ、まぁ、そう言わないで。もしかしたらショートカットできるかもしれないじゃん」
俺は壁に向けてドリルワークを使う。ほら見ろッ。反対側は空洞だ。壁に大穴が開くと、中からカサカサ、カサカサ。と、虫の足音らしきものが聞こえてきた。サラフィナが穴の中にライトを飛ばす。すると――。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ。虫、虫です!」
こんなサラフィナの悲鳴は初めて聞いたな。中は夥しい数のゴキブリがいた。
「フフフ……ブリザード、ブリザード、ブリザード、ブリザード……」
「麗華さん、麗華さん、おーい、麗華さん。もう大丈夫だから。ねッ」
サラフィナの悲鳴に共感した麗華さんは穴の中に何度も魔法を放つ。穴に群がったゴキブリの群れは、一瞬で白く染まった。壁にはゴキブリたちの標本ができあがる。俺の開けた穴は、すっかり氷に埋め尽くされてしまった。
何度目かのかけ声でようやく正気を取り戻した麗華さんは、氷の世界に閉じ込められたゴキブリを見てほほ笑む。
「フフッ……」
それにしても女性陣はゴキブリが苦手なんだな。俺も好きじゃないけど、普通ここまではしねぇぞ。せっかく穴を開けたのに、埋まったじゃねぇか。
このままじゃ先には進めないぞ。
「はぁ。戻ろっか?」
「……はい。そうしましょう」
「はい。タケ様」
「ぎゃはははは、麗華もサラフィナも面白いのじゃ」
楽しんでるのはおまえだけだよ。ブラッスリー。
また一から出直しかよ。とほほ……。最初の分岐まで戻り、玉が転がってきた場所へ戻る。すると、俺の掘った穴も、玉も消えていた。何でだ?
「これはアレなのじゃ。ダンジョンの自浄作用じゃな」
「それって、自然界で汚れた川とかがキレイになるっていうアレですか?」
「そうなのじゃ。麗華は博識なのじゃな」
「でも、ここはダンジョンですよね?」
「もともと、ここの神殿からマナは供給されてるのじゃ」
なるほど……ここはもう神殿の一部というわけね。前に樹海の神殿を原爆で吹き飛ばして破壊したはずが、元に戻ったのと同じ原理という訳だ。ということは。
「おい、また玉が転がって来るんじゃねぇのか?」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。ほら見ろ。やっぱりな。一度防いだ石の玉は復活して転がってきた。
「ドリルワーク!」
だが大丈夫。さっきはこれで防げたからな。今度もこれで防げる筈。玉は予想に違わず、穴に入った。途端、二発目の玉が転がってきてそれを押し出した。
「はい?」
「タケさん、呆けてる場合じゃありませんよ」
「う、うん。ドリルワーク!」
続けて穴を作る。ゴトン。押し出された玉は見事にホールインワン。もうないよな……。よし、音はしないな。障害を排除する事に成功した俺たちは、石の玉によじ登ると、先へと進んだ。
「ありましたねッ」
うん、そうだね……サラフィナ。
まだ地下二階だというのに、精神的に疲れた感じがする。
これどこまで続くの?
お読みくださり、ありがとうございます。
また、誤字脱字報告、ありがとうございます。
ちょっと愛犬が騒がしいので散歩してから続きを書きますね。