第155話、タケ、獣人の国へ行く。①
「おーい、みんな大丈夫か?」
「ちょっとだけ焦りましたけど大丈夫です」
「わらわも大丈夫なのじゃ」
「それにしても、落とし穴とは……あの狐は何を考えているんでしょう」
アルフヘイムから戻った翌日。
早速、獣人の国へブラッスリーに乗ってたどり着いたまでは良かった。良かったのだが、獣王との謁見の最中に問題は勃発した。
謁見の間で獣王の狐にお目通りしている最中、足元の床が突然消失。そのまま地下深くへと落とされたのだ。
まさか獣人が敵対行動を取ってくるとは考えていなかった。誰も結界なんて掛けていない。焦った俺はとっさの判断でグラビティを使った。いつもとは逆の浮遊させる方向で。その甲斐あって、麗華さん、サラフィナ、ブラッスリーと俺は落下の途中で漂ってる。そう、ぷかぷかと宙に浮いてる訳だ。
下を見ても暗くて良く分からない。というか、下に何があるのか考えたくもない。少なくとも言える事は、地下からは吐き気をもよおす臭いがする事だけだ。
このまま魔法を解除すれば、ソレにぶち当たるのは必須。
だからといって、まだ完全に敵と決まった訳ではない。獣人を相手に戦う選択肢は取れない。誰かがケガでも負えばやり返したが、今の所は無傷だからな。
「獣人って竜族、エルフと敵対してるんだっけ?」
「そんな事はないのじゃ」
「敵対しているという話は聞いたことがありませんよ」
へぇ。それじゃ、これにどんな意図があるんだろうね。下手したら死ぬ可能性だってあった。麗華さんとサラフィナだけだったらそうなっても不思議じゃない。
少なくとも消失した床から三十メートルは落下した。それでもまだ下は見えない。要するに、この穴はかなり深いと言うことだ。
「ったく。重力系、もしくはフライが使えなかったら死んでるぞ」
「わらわもこの体では自信がないのじゃ」
「それでタケ様、どうされますか。ひと思いにやりますか!」
「サラフィナさん、それはまだ早いかと」
「何でですか。麗華様」
「うーん、あの獣王の目でしょうか。敵意のある人の目には思えなくて……」
うん。俺も麗華さんと同意見だな。だから呆気なく落とされた訳だが。敵意を向きだしだったら警戒した。それを感じさせない温和な空気だった。
まぁ、結果はコレな訳だが……。
「下に何があるか分からないけど、一応、行ってみようか?」
「うーん、何か嫌な臭いがするのじゃ」
「お化けとか出そうですけどね」
「大丈夫です、麗華様は私が守りますから」
確かにどんよりと濁った空気というか、気色悪い感じはする。
「まぁ、死霊の類いならホーリーライツもあるから大丈夫。行ってみよう」
不穏な空気は感じられるが、皆、俺に判断を委ねる。重力を少しずつ掛けて、ゆっくりと下がり始める。サラフィナと麗華さんはライトの魔法で下を照らした。
穴はかなり深かった。二百メートルは降りた所で、やっと地面が見えてきた。
「特に剣山とかはないですね……」
「麗華さん、それ何の知識?」
「はい。失われたアークの……」
「うん。分かった」
麗華さんの知識の大半は、映画によるものだな。興信所の時といい、スパイといい。おまえは映画女子か!
「でも、死体の山ですね」
サラフィナが悍ましいものでも見たようにそう言う。
「何か来るのじゃ」
ブラッスリーの警告で、全員結界を張る。ドスン、ドスン。と地鳴りを響かせやって来たのは、コモドオオトカゲ?
「何だ。トカゲなのじゃ」
ブラッスリー。おまえも考えようによってはトカゲだからな!
「動きを止めましたけど……」
「麗華様、不用意に近づいてはいけません」
「はは、大丈夫なのじゃ。この者どもは力の強いモノには逆らわんのじゃ」
実際に、コモドオオトカゲは俺たちを素通りして奥へと進んでいった。
どうやら俺たちの落とされた場所は、通路の途中だったようだ。
「なぁ、もしかしてここって……」
『そうです。ここはダンジョンです。この最下層に祠はあります』
また急に現れやがった。小女神。
それにしてもやっぱりダンジョンかよ。なるほどな。獣王は俺たちの来た理由を知っている。この程度の落とし穴では死ぬはずはない。だから、直通のルートで案内してくれたって訳か……。もう少しやりようはあっただろうに。
ははは、獣人は脳筋って事か!
「女神様さぁ、唐突に現れると皆が萎縮するから止めてくれない?」
『ふふっ、気にする事はありませんよ。面を上げてください』
畏まってた三人が一斉に顔を上げる。
「で、洞窟がどうとか前は言ってたと思ったけど?」
『獣王が気をきかせてくれたのです。ならば、それに甘えなさい』
「と言うことは……」
「うん。麗華さん。獣王に悪気はないよ。ただの脳筋なだけだから」
「獣風情がわらわを落とすとは、おかしいと思ったのじゃ」
「それじゃあ……」
「そそ。サラフィナの想像通り。面倒くさい説明を省いて、直通の落とし穴から案内してくれたって訳」
『獣王に悪気はありません、後で会っても虐めちゃダメですよ』
うっさいわ!
脳筋なら力比べでぎゃふんと言わせちゃる!
『ふふっ、では頼みましたよ』
勝手に現れて、言いたい事だけ言って消えやがった。相変わらずだな。小女神。
「それにしても、どちらに進めば良いんでしょうか?」
「わらわが案内するのじゃ。こっちじゃ」
ブラッスリーは来た事があるのか。それは心強いな。案内してくれるって言うなら頼むか。この世界でダンジョンなんて初めてだからな俺たちは。
「じゃあ、ブラッスリー。頼むよ」
「任せるのじゃ!」
コモドオオトカゲのやって来た方向へと俺たちは歩き出した。
ここの作りはレンガを組んだような立派な通路だ。誰がこんなモノを作ったのか分からない。少なくとも人の手で作られた事だけは確かだ。その証拠に、ライトの魔法が使えない俺でも不自由しないように、一定の間隔で備え付けられた松明がある。
時折、正面からコモドオオトカゲが歩いて来る以外に不安要素はない。
少なくとも今の所は……。
「あっ、階段がありますね」
さすがサラフィナ。目が良いな。
「あれを下りるのじゃ」
上りがないんだから下りるしかねぇだろ。ブラッスリーよ。
階段を下りると、また通路が広がっている。さっきまでは一本道だったが、今度は二股に別れていた。まさかな……。俺はこの時点で不安がよぎる。
「とりあえず右なのじゃ」
何だよ、とりあえずって。道を知ってんじゃないのか。
ブラッスリーを先頭に、右の道へ入ってしばらく歩いた所でそれはくる。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
「何の音だ?」
「さぁ……」
「タケ様、何か大きなモノが転がってきます!」
「何だって!」
俺の視認できる範囲にそれが来る。
「うぉぉぉー玉じゃねぇか!」
「何でこんなモノが……」
「こんなモノはわらわ一人で十分なのじゃ」
ブラッスリーはそう言うと、果敢に向かう。通路を通れるギリギリの大きさの玉に。手を触れた瞬間、ゴンッと、つぶされた。
「はぁ?」
「ブラッスリーちゃん!」
玉はブラッスリーを乗り越え、俺たちへと迫る。だが、勢いは確実に遅くなった。これはあれだ。あの玉を止めるしかねぇ。俺は、通路の床に手をかざす。
「ドリルワーク」
床に大きな穴が開くと同時に、ゴトン、と玉は穴にはまった。ピンボールの球が、版の途中にある穴の溝に入るがごとし。三分の一だけ埋まると停止した。
お読みくださり、ありがとうございます。
昨晩、多くの誤字脱字報告をいただきました。ありがとうございます。
もっと気を引き締めて見直さないとダメですね。痛感します。
修正も途中ですし、他の方の作品を読む時間をそっちにあてるしかないかな。
今後とも、ご指摘いただけたら幸いです。