第154話、タケ、ザイアーク王都に戻る。
海上を航行して丸一日。目の前には岸壁が見えていた。
「大陸に付いたのはいいけど、ここってどこよ?」
入り江に入ったから、港に着くと思えば、岩、岩、岩。
どこにも船着き場らしきものはなかった。
「エルフが人族の港に堂々と船を着岸する訳ないでしょうに」
「母さんもっと言い方があるでしょ。これでも。ごにょ、ごにょ」
「はいはい。奥さま。タケ様、エルフと人族はそもそも交流を持ちません。それは、私たちが姿を変えてお店を出してる理由でもあります」
うはっ。サラフィナ。奥さまって言われて赤面してるよ。かわええなぁぁ。
なるほど……。交流がなければ、流通するための船が着くことはない。だからサラフィナもエリフィーナも人族の街では変身してると。サラフィナと最初にあった時は婆だったからな。その婆さんも俺の嫁。ムフフ。なんだか感慨深い。
「なるほどなぁ。じゃ、ここからはフライでも使うのか?」
「タケ様にはそれがあるからいいですね。私たちはコレです」
そう言ってエリフィーナが取り出したのは、ザイル。ロッククライミングのロープだった。はは、さすがエルフ。
「あぁ、それ使うなら俺が魔法を掛けるから。一緒にフライで行けば良いよ」
「ふふっ。助かります」
「そんで、ここはどこら辺なの?」
アルフヘイムに行く時に、初めて海を見たくらいだ。現在地の把握はできてない。そもそも、船がどんな航路を通ったのかすら分からなかった。
丸一日外で見張っていれば分かったかもしれないが、俺にそれが務まると?
もっとも、外だけ見てても、太陽の向き程度でしか方向は判断できない。
大雑把だが分かったのは、島から北西の方向に向かったと言うことだけだ。
「はい。ここは来るときに入った洞窟より少し東にある入り江です」
「と言うことは、ここからすぐイムニーに乗り換えって事か」
「そうなりますね」
「ありがとう。サラフィナ」
「いえ。どういたしまして」
「あらあら……」
チッ。エリフィーナめ。二人の仲が深まった途端に、冷やかしかよ。
「んじゃいくよ。フライ」
崖の上に飛ぶと、そこは花畑だった。
「おいおい、ここイムニーで走っていいのか。花畑だぞ」
「大丈夫ですよ。花と言っても、毒花ですから」
うえぇぇ、そうなのか。黄色に紫とか気味の悪い花ではあったが。毒花とは。
そんな事はさておき、さっさと帰るか。アイテムボックスからイムニーを取り出し、俺たち三人は西へ向かう。街道に出たら今度は北だ。
行きはよいよい帰りは怖い。なんて事もなく、六時間後に無事ザイアーク王都に着いた。侯爵家の門を潜り、正面玄関に乗り付ける。
イムニーを止めるとすぐに、俺たちの帰りを待っていた、麗華さん、アロマ、ブラッスリーが飛び出してきた。
「お帰りなさい」「はう……お帰りなさいですわ」「良く戻ったのじゃ」
「うん。ただいま。何か変わった事とかなかった?」
「ただいま戻りました」
「ふぅ、慣れないと疲れるわね」
皆の視線は、少し成長したサラフィナに釘付けだ。この姿だけ見ればもう伝わってると思う。だからあえて留守中の話しを聞いた。
「いえ。特には何も……サラフィナさんおめでとう!」
「ありがとうございます。麗華様」
「良かったですわね。サラフィナさん」
「はい。皆さんのおかげです」
「うむ。わらわの後輩と言うわけじゃな。これからもよろしく頼むのじゃ」
「こちらこそ。末席に加えてもらってありがとうございます」
ふふっ。三人に囲まれてサラフィナも涙目になってる。そんなに嬉しかったのか。ははっ。男冥利に尽きるね。いやぁホント。
「ふふっ。では先に中に入ってますね」
おい、あんたの家はここじゃないだろ。そもそも、ここは俺の家だ。
まぁ、今日ぐらいはいいか。……って。
あれ、サラフィナと結婚したと言う事は、エリフィーナは俺の義母になった訳で、そうすると一緒に暮らさないとダメなんだっけ?
まさか、このまま同居とか。あり得るのか……元は侯爵の王都邸宅だけどさ、アロマと結婚するにあたり俺が住むだろ。で、アリシアも住んでるから、これって世帯数いくつだよ!
面倒くさいから考えるの止めた。
それよりも、女性陣は盛り上がってるみたいだし。今の内に動画でもアップするかな。剛人さんに話もあるし。
麗華さんたちは談話室でお茶会するとかで部屋には俺しかいない。
ふふっ。今の内に……剛人さんに動画を送っちまおう。最近は剛人さんの会社でモザイク処理までやってくれるんで、こちらの手間は激減した。だから、俺はそのままの動画を送るだけで良い。
ON-LINE
「タカトさん、こんにちは」
タカト:やぁ、タケくん。久しぶり。エルフの里へ行ってたんだって。
「はい。片道二日かかりました」
タカト:タケくんのイムニーでも二日掛かったのかい?
「まぁ、そのあたりは動画で確認してください。陸路は良かったんですけどね……」
タカト:その様子だと簡単に行き来できる場所じゃなかったのかな?
「まぁ、はい。そうですね」
タカト:なんにしても、無事に戻って来られて良かった。
「ははっ。無事というか、何というか。向こうで海洋生物の討伐まで頼まれちゃいましたけどね……」
タカト:へぇ。それも動画に?
「はい。かなりの長編なんで時間は掛かってますけど」
タカト:分かった。こちらに届いたらいつものように修正をかけてネットにアップするよ。
「はい。お願いします」
タカト:で、今日はそれだけかな?
「あっ、いえ。もう一つ知らせたい事が……」
タカト:うん? 何の事かな?
「はい、実は……」
エルフの里であった歓待の話。そして、その結果としてサラフィナとそういう関係になった事。嫁の一人にサラフィナも加わった事。全部まるっと話した。
さすがに麗華さんの親族に話さない訳にはいかないと思ったからだ。
タカト:ふぅん。…………そうか。でも、それを麗華も望んでいたんだろ?
「はい。そう聞いています」
タカト:麗華が決めたなら……僕に口を挟む権利はないよ。君たち二人の問題だからね。ただ一つ。麗華を泣かせたら、許さないよ。
「はい。もっともです。それは大丈夫ですから」
タカト:ふふっ。タケくんなら大丈夫だと思ってるけどね。言ってみただけさ。
「はは……分かってます」
タカト:では、私からもお祝いを言わせてもらおう。おめでとう。
「はい。ありがとうございます」
タカト:それじゃ、仕事が立て込んでてね。用がないなら切るよ。
「はい。忙しい所、ありがとうございました」
タカト:動画、楽しみにしてる。それじゃ。
OFF-LINE
「ふぅ、これで解決したかな」
それにしても、剛人さん忙しそうだったな。会社の方は順調そうだし。
もしかしてWooTobeを抜いちゃったりしてなッ。まぁ。それはないか。
さて、次は獣人の国か。不穏な感じの事も言われたから。
気を引き締めて行かねぇとな。
お読みくださり、ありがとうございます。
犬の散歩と食事を先にしたらちょっと遅くなりました。
だいたい一話書くのに二時間掛かるんですけど。このくらいが普通なんでしょうか?
今後とも、応援よろしくお願いします。