第150話、タケVS海洋生物。②
異次元でシーサーペントを四体倒したのはいいが、まだまだ序の口。
仲間を殺された恨みから、ヤツらは一斉に大口を開いた。異次元で液体を吐き出したらどうなんだろうな。器用に真空遊泳しながら、右よ左よと動き回る。
そして、それは放出された。紫の液体が吐き出された瞬間、テレプスで回避。
目的を失った液体は、泡となってぷかぷかと浮いている。
「あれ……もしかしてこれヤバいんじゃね?」
液体の側にいるシーサーペントがそれに触れると、ジュワッ、と煙が漂った。
「あれ強酸かよ! アレに触れたら大やけどじゃねぇか」
戦闘が始まった時に結界は掛けている。しかし、強酸に対してどこまで耐性があるのか実験した事はない。
「とにかく、アレに触れないようにした方が良さそうだ」
今もくねくね動いてこちらの様子を窺っている。自分たちの吐き出した強酸で仲間の体が溶けたのだ。迂闊には吐き出してこなくなった。
うん。これはチャンスだな。
炎の魔法がこの空間で使えるのは確認した。なら、これも使える。
「ファイアドラゴン!」
闇の空間に炎の竜は顕現する。
熱の放射は俺には向いていない。炎の竜はシーサーペントを睨むように鎌首を持ち上げ、一気にブレスを吐き出した。絶叫をあげながら塵と化すシーサーペント。 なんだかいい匂いが漂ってくるが、今は戦闘中だから我慢だな。
あっという間に、仲間の半数を焼かれたシーサーペントは再び大口を開ける。
炎の竜に対し、強酸で争う構えだ。
「そんな隙、与えるかよ!」
炎の竜はシーサーペントが大口を開いた刹那、ブレスを吐き出した。苦悶の声が響く。空中に漂っていた強酸も一緒に蒸発していく。
自由を奪い、身動きを封じられたシーサーペントになす術はない。異次元に収納したシーサーペントは全て消し炭となった。
「さてと、戻るか」
スプリルボイドを解除し、海上へ戻ってくる。そこには島へ向け侵攻を開始した魔物たちの姿があった。恐らく俺のマナの気配が消失した事で、次の獲物に標的を変えたのだろう。この場合は、サラフィナたちと言う事か。
「サラフィナたちも結界は掛けてるが、ぼやぼやしてらんねぇな」
俺は背後を見せる魔物の群れに、サンダーオプトを放った。
超高圧の稲妻が降り注ぐ。その気配に気付いた魔物たちは一斉に潜水を始める。 だが、間に合わなかったラミアたちに雷光は当たった。クラーケンの頭に乗ってる分、回避は間に合わなかったのだろう。
一瞬で消滅するラミア。というか、人型の上半身に下半身が蛇って……。
「結局、どんな攻撃を仕掛けてくるのか分からずじまいだったな」
神話の世界では人間を惑わすとかだった気がする。でも、大勢の魔物に囲まれてる状態で、ラミアを直視する余裕なんてこっちにはなかったからな。それが功を奏したとも言える。意思の疎通はできるか試してみたかったな。
海中に潜った魔物の動きは予想できない。一見、静けさを取り戻したかに見える。さてと、次はどの魔法を使うか。今の攻撃で雷光も通じないのは分かった。
あとは……。おっ、これがあったじゃねぇか。次はコレだな。
静まりかえった海をジッ、と見つめる。
穏やかな波の音。潮の匂いを味わう。この匂いはいつの時代でも変わらない。
その瞬間、背後から波を叩き付けるような音が聞こえた。
今の高度は五十メートル。ここまで物理攻撃は届かないはず。そう思っていた。だが、背後から現れたクラーケンの触手は確実に俺を捕らえる。デカい吸盤に殴られた俺の体は、海へ叩き付けられた。
「ぐっぷっ――」
海中に沈む俺を追って、一斉に群がる魔物たち。
チッ、潮が目にしみて目を開けていられねぇ。やっぱ結界も万能ではないな。
そんなどうでもいい事を考えてしまう。薄目を開くと、目の前にシーサーペントの巨体が。その隣にはクラーケンの触手が迫っていた。
一か八かやってみるか。
目的をしっかり捕らえるために、俺は目を開く。うぉぉ、染みる。染みるぅ。
数体の魔物を視界に入れた状態で、肺に残るわずかな空気を吐き出した。
「ごぼっ、フライ」
俺の体と数体のクラーケン。シーサーペントが一気に浮上する。海水ごと食らおうと、襲いかかっていたシーサーペントの口が空を切る。
ははっ。やってやったぜ。
今、俺の目の前には飛行魔法によって空を漂う、クラーケンとシーサーペントがいる。マナの察知は得意でも、こんな経験はないだろう。
異次元空間と同様。動きを制御できずに藻掻いてる。そこにサンダーオプトを叩き込んだ。シーサーペントの目は怯えたように忙しなく動く。クラーケンはバタバタと暴れる。しかし、ここは空中。それだけでは進まない。空に黒い雲が浮き上がった瞬間、轟音とともに稲妻の光が魔物たちを確実に貫いた。
空中で粉微塵に砕ける魔物。それは、さらさらと海上へ降り注いだ。
「タケ様ぁぁぁぁ」
崖の上からはサラフィナの声援が聞こえる。ふふっ。少しはカッコいい所を見せられたようだ。そう思った瞬間。またしても俺の体は海へ叩き付けられた。
ちっ。今のは注意を促してたのかよ。しくったぜ。
俺をまたしても水中へ招待したのは、クラーケンだった。コイツだけは消滅させてやらねぇ。ぜってぇ食ってやる。だが水中にいたのではいい的だ。フライで飛び上がろうとした一瞬の隙に、ついにクラーケンの触手に捕まってしまった。
「ごぼっ……」
体を締め付けられ、肺から一気に空気が漏れ出す。
何かないか、何か……。さすがに何度も大技は使えねぇ。
女神様の寵愛で魔力が底上げされたと言っても、たかだか二割だ。
クラーケンは俺の捕獲に成功し、海底へとぐんぐん潜り始める。水圧が体にかかり余計に苦しくなる。あぁぁぁぁくそっ。
「タイムブレーカー、テレプス」
たった一秒の時間停止。だが、それだけで十分だ。クラーケンが動きを止めたその一瞬に、光りの当たる海上目指して俺はテレプスで逃げた。おまけ付きで。
ザバーン。飛んだ先は海面すれすれだった。大きく息を吸い込んだ俺は、次の魔法に移る。ワインドブレードで海上に飛び出した触手を切り裂く。よし、これで自由になった。次に、ユニオンサークルで俺を拘束していない触手を縛った。
「ははは。これでてめぇは俺の晩ご飯決定だ!」
身動きを封じたクラーケンの頭に、ドリルワークで大穴を開ける。苦痛からぶるぶる震えた後、力無く頽れた。俺は死体と化したクラーケンを、フライを使ってサラフィナたちの側へ飛ばす。
「なっ、何するんですかぁぁぁ。タケ様!」
驚いたサラフィナから苦情が叫ばれる。
「ゴメン。それ晩飯にするから置いといて!」
『こんなもの食べられませんよ』とか何とか言ってるが話しは後だ。だいぶ数は減らしたけど、まだ残ってる。マナの残量メーターでもあれば便利だけど、そんなモノはない。俺は、マナを節約しながら次々に魔物たちを蹂躙した。
お読みくださり、ありがとうございます。
昨日、あの話。話した。といった動詞、名詞の使い方がなっていないとご指摘いただきました。
ありがとうございます。意識していなかった部分なので勉強になりました。
第一話から全て見直し、今は直っていると思います。が、またお気づきの事があればご教授くださると助かります。ありがとうございました。
また、評価、ブックマークもさらに増えてます。これも皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも、至らない部分はありますがよろしくお願いします。