第149話、タケVS海洋生物①
サラフィナと大樹の下に降りると入り口に、エリフィーナがいた。
「早かったな」
「はい、長からの連絡を受けてすぐに降りてきましたから」
ウソつけ。んな訳あるかよ。俺たちだってすぐに来たのに。まぁ、そんな事はどうでもいいか。それよりも、見晴らしのいい海岸線だ。
「で、この島で魔物を討伐するのに適した海岸線はどこだ?」
来た時に通った岩の島しか知らねぇからな。どんな地形なのか、そもそも本当に島なのか。この島は謎が多すぎる。
「それでしたら、こちらです」
エリフィーナに続いて駆け出す。それにしても走り難い。これだから森は嫌いなんだ。特に、蛇とかムカデ、蜘蛛、毛虫。数えたら切りがねぇ。
それにしても、さすがエルフだな。二人ともこんな場所でも速い。置いて行かれないように必死に走る。えっ、飛行すればいいって?
ここで無駄なマナを使いたくないんだよ。相手は伝説級の魔物だよ。竜の時を考えれば、下手にマナを使わない方がいい。
走ること数分。森を抜けると目の前に濃紺の海が広がった。
「ここです」
エリフィーナの声で一同足を止める。
そこは断崖絶壁だった。もしかしたら、この島には砂浜なんてものはないのかもしれない。難破した船が間違ってたどり着く可能性すらない島。
そんな想像が頭をよぎる。コソコソと隠れ住むエルフらしいじゃないか。
そんな事よりも、魔物はどこだ?
俺は海岸線を見渡す。うん、何で波の泡ができてんだ。
そもそも厳冬の海に発生する現象のはず。プランクトンがどうたらとかネットで見た覚えがある。季節的に春だからあり得るのか。
そんな事を考えていると、波の泡の付近から海水が噴き出した。
「はぁ?」
呆けた声をあげると、海面にその正体が姿を現した。巨大な蛇だった。うねうね動く様相は俺の恐怖心をかき立てる。
視線を反らすと、そこには坊主頭のクラーケンがいた。うん、これはタコだな。 数体のクラーケンの頭にちょこんと腰掛けるのは下半身が蛇だが、上半身は美しい人型のラミアだ。数はそれ程多くはないな。上半身だけ見れば、好き好んで殺したい相手ではない。
そのいずれもこの島に向かっていた。
「うえぇぇぇ。見たくないものを見ちまった感じだな。シーサーペントって蛇かよ」
「あら、タケ様、蛇はかわいい生き物ですよ」
「いや。全然かわいくないからね!」
「母さん、今はそれどころじゃないですよ」
チッ、エリフィーナのヤツ。俺が蛇を嫌いだって知ってて言ってるな。
これでサラフィナの母と言われると、あれ、しっくりくる。
あ、あれだ。言葉に毒のあるところが似てるんだ。なるほど。さすが親子。
それにしても、結婚したらエリフィーナが義母になるのか。まぁ、それも麗華さんたちへの報告のあとだけどさ。
「タケさん、来ましたよ」
「了解。んじゃ、この断崖絶壁なら登っては来ないと思うけど、気を付けて」
「タケさんもご武運を……」
「あらあら。若いっていいわね」
戦闘前に、拍子抜けするから止めてくれる! まったく。
さて、どうやって料理するか。氷系の魔法って苦手なんだよな。
そもそも海の上で火魔法って使えるのか?
俺は一気に空へと飛び上がる。しかし、前回の竜の時とは違って高度は取らない。海水の中でしか生きられない生物だろ。なら百メートルも上がれば余裕。
そんな余裕ぶってる時期はすぐに壊された。
俺の接近に気付いたシーサーペントから、紫色の液体が吐き出されたのだ。
しかも、数十体から一斉に……。
とっさに海上に顔を出してるクラーケンの頭の上に瞬間移動した。俺のいた場所を紫の液体が素通りする。
「うひゃぁぁ、気持ち悪ッ。なんだあの液体」
正体が分からない以上食らうわけにはいかない。とっさの判断でクラーケンの頭に乗ったが、それに怒ったクラーケンの触手が鞭を振るうように襲いかかる。
「ワインドブレード」
それを風の刃を放って切り裂いた。接続を絶たれた触手は力無く落ちていく。切られた事に驚いたクラーケンが海中へ沈んでいく。俺は海中へ引き込まれる前にフライで飛び上がった。その瞬間を狙ったように、また紫の液体が飛んでくる。
「そんなもん当たるかよ」
今度は、紫の液体を吐き出している最中のシーサーペントの背中へと転移した。
俺の姿を見失い、口を閉じた所へドリルワークを打ち込んだ。これは土属性の魔法で通常は土を掘り進める魔法だ。だが、対象は土じゃなくてもいい。
ドリルで大穴の開いたシーサーペントは、苦悶の絶叫をあげて海中へ沈んでいく。やっと一体か。意外とキツいぞ。これは。
仲間を殺されたシーサーペントから次々に液体は吐き出される。それをかわしながら、固まっている一帯にファイアースパークを放った。しかし、さすがは伝説級の魔物だ。炎の塊が空中に浮かんだ瞬間海中に潜りやがった。
「チッ、マナの反応に敏感なのか。こいつら」
それだと大技は厳しい。火魔法は回避される。重力魔法もおそらく潜られたら意味はねぇ。水属性の魔物に水攻撃はもっとねぇ。あれ、これ攻撃手段がかなり絞られたんじゃ。ヤバい。ヤバい。長期戦になって不利なのはこっちだ。
地形の操作も海上じゃ意味はない。
こうなったらコッソリと姿を消して、ついでに消音を使って接近して単体打破するしかねぇか。
「オプトフラージュ、ミューチ」
俺は姿と音を消した状態で、ゆっくりとサーペントに近づいていく。
あと十メートル。五メートル。もうちょい。と思ったら、周りのシーサーペントが大口を開けて襲いかかってきた。
「げっ。やっぱマナで俺の位置を探ってやがる」
ちょっと距離を取るか。サラフィナたちと魔物たちの間まで一気に飛んだ。
「タケ様ぁぁぁ。大丈夫ですかぁ?」
ははっ、俺の女になった途端、サラフィナの言葉がかわいく聞こえるな。前なんて、ざけんなよ! とか思ったものだが……。
「うん。大丈夫。あの紫の液体が掛かるといけないから離れててね」
「はーい」
ふふっ。初やつめッ。
ちょっと気分も良くなったことだし。さて大技でもかますか。
俺はテレプスでシーサーペントの集まっている場所に転移すると、その場でスプリルボイドを発動した。一瞬で周囲の景色は暗転する。
「よし! 成功!」
今使った魔法は王城が崩壊する寸前に使った、異次元へ入る魔法だ。
無重力の中で必死に蛇たちが蠢く。うへぇ、やっぱ気持ちわりぃ。さっさと片付けないとなッと。
一番近くにいたシーサーペントが尻尾を振るってくる。それを察知してテレプスで飛ぶ。この中でも魔法は使える。ならこれでどうだ。
「ワーダーギラー!」
無重力の空間に炎の柱が立ちのぼり、ギロチンを形成する。刃の間には少なくとも四体のシーサーペントがいた。その刃が閉じた瞬間、真っ二つに切断した。絶叫をあげて四体は絶命した。
「まずは四体。さっさと全滅させて向こうに戻らないとなッ」
お読みくださり、ありがとうございます。
今日はここまでにしますね。
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本当にありがとうございます。
先ほど、誤字脱字報告に、話と話しの指摘を三件連続で頂きました。まさかこんなに多かったとは。私はダメな物書きです。アホですね。それで、全話見直しをかけて先ほど終了しました。
お目汚し申し訳ありません。