第147話、乙女達の計画。
「ふふっ。今頃タケさんどうしていますかね」
「麗華さん、大丈夫ですわ。きっとサラフィナさんとうまくいきますわ」
「しかし人族は面倒なのじゃ。好いた男なら強引に行けばいいのじゃ」
タケたちが大樹の神殿に足を運んでいる頃、侯爵家では女性陣が仲睦まじくお茶会に興じていた。執事を排除して部屋にいるのは女性だけだ。
「それにしても良かったんですの」
「えっ、何がですか?」
「サラフィナさんをお嫁さんに加える事ですわ」
アロマさんに言われて私は、気付いたあの日を思いだしていた。
私はこれまで親友と呼べる友達がいなかった。日本での学生時代は卑劣な嫌がらせばかりで、我慢していたから。フランスに留学してから同じ寮生の友人と仲良くはなったけれど、日本に帰国してからは忙しくて付き合いは途切れた。
そんな時に、思わぬ出来事でここへ飛ばされた。不安だらけだった私を最初に温かく迎えてくれたのは、サラフィナさんだった。
サラフィナさんは、『迷い人様を守るのがエルフの勤め』と言っていました。でも、それだけで私たちの信用は得られません。
何度となく繰り返したお茶会で、私はサラフィナさんの内面を推し量った。
その結果分かったのは、サラフィナさんは不器用。日本でいうところのツンデレだったのです。ツンツンしている態度も、気恥ずかしさを抑えるため。
年齢は私たちよりもずっと年上なのに。見た目も相まってかわいく思えるようになっていました。
そんな時です。私は気付いてしまった。タケさんを見る私たちの視線とサラフィナさんの視線が同じ事に。それにタケさんは気付いていませんでした。
そこで、私たちは相談しました。どうすればタケさんに気付いてもらえるか。
試行錯誤しましたが進展させるのは難しい。ブラッスリーちゃんに対してのタケさんの反応から、幼い容姿では厳しいのだと考えました。
そんな時に、エルフの特性について知ったのです。エルフは女になると成長すると。そして、母になって初めて成人の女性の外見に変化すると。
さすがに一線を越えなければ母にはなれません。タケさんに既成事実を作るためにどうしたら良いのか。私たちは毎日話し合いました。
そんな時に、エルフの里へ行くことが決まりました。これしかない。この機会を逃せばいつになるか分からない。幸い、エルフの里では迷い人を歓待するという名目で、飲み会が開かれると聞きました。
私はタケさんがお酒に飲まれるのを知っています。何度か寝る前にお酒を飲んだ事があったから。お酒の力を借りるのは卑怯かもしれません。でも、妻である私たちが望んだ事ならきっと、分かってくれる。そんな確信もあります。
ただ一つ気がかりだったのは、エルフの美女たちから迫られた時のタケさんの対応でした。お酒に飲まれた状態で、他の子に手を出さないか。
そこで、前もってエルフたちに情報を流しました。タケさんは巨乳が好みだと。
エルフには死んだスライムを使った、偽装のバストを作る秘術があると聞いていましたから。それを利用できないか。迫られている最中に、その計画が瓦解すればきっとタケさんは怒るでしょう。
ウソとか人を騙すといった行為を嫌う人だから。
タケさんの会社員時代の話で私はそれを知っている。
だから――。
私たちはそれを利用する事にした。
タケさんを欺くようで、気は引けるけれど。サラフィナさんのために。
キスまでいけばいい。もし、その先までいってもサラフィナさんなら許せます。
とにかく既成事実を作る事が大事です。
責任感の強いタケさんなら、きっと受け入れてくれるから。
ブラッスリーちゃんの強引な押しですら断れなかったのだから。
きっと大丈夫。うまくいくはず。
「私はサラフィナさんの気持ちを知ってしまいました。だからこれでいいんですよ。アロマさんも四人の方が楽しいでしょ?」
「それはそうですが……」
「アロマさんには悪いと思っています。タケさんとの披露宴を先延ばしにした状態で、サラフィナさんを優先させたのですから」
「それは今さらですわね。ブラッスリーちゃんにも先を越されておりますし」
アロマさんは最年長らしくいつも一歩引いてくれる。だからこんなわがままな作戦を立案する事もできた。二度目の結婚だからというのもあるかも知れないけど。いえ、そうじゃないわね。アロマさんは侯爵家の令嬢でありながらも、内気な性格だから。あまり自分を優先した考えをしない。
良い意味で他人を慮る度量のある人。悪い意味では奥手で行動力に欠ける人。
でも、大丈夫。そんなアロマさんをタケさんは愛するはずだから。
「ふふっ。強い男は先に手を出した者の勝ちなのじゃ」
「ブラッスリーちゃん、恋愛に勝ちも負けもないんですよ。特に私たち四人に序列はないんですからね」
そう。私たち四人に序列はない。誰かが飛び抜けて愛情を独占する事のないように、しっかりと私が管理しなくちゃ。
「分かっておるのじゃ。本当に麗華は細かいのじゃ」
「ふふっ。それでいいんですよ。家の中で軋轢が生じるのはタケさんも望んでいませんからね」
英雄色を好むというけど、タケさんはそれに当てはまらないと思う。でも、私たち四人で彼を助け、彼の子供を育てていく。そのために皆が仲良くしないとね。
こんな考え方は、日本にいた時には考えられなかった。
でも、ここは日本じゃない。
生まれた子供に爵位を授け、爵位で序列が決まる世界。
分家も多くなると思う。その時に、家族間の争いなんて絶対にダメだから。
そのために、皆で力を合わせていかなくちゃ。
お読み下さり、ありがとうございます。