第146話、タケ、大樹の神殿に入る。
二度目が終わった頃合いで、部屋にエリフィーナが入ってきた。
「あらあら。タケ様がサラフィナを選んでくださるとは予想外でしたね」
は、何を言ってんだ。サラフィナだって……そもそもサラフィナは幼女じゃねぇか。俺の隣で真っ赤に赤面して俯いてるのは美少女だぞ。身長もサラフィナより高いし胸だって……。似ている部分は髪が白銀色なのと、緑の瞳だけだ。それだけ見れば、昨日の歓待に集まった女性たちと何も変わりはない。
「タケ様……」
かわいらしい唇から発せられた声にドキッとする。
この声は……確かにサラフィナと同じ。いや、まて。でもそれなら何で成長してんだ。おかしいだろ。胸は相変わらずAカップだけど、幼女じゃねぇ。
俺は現実逃避に走った。それでも、サラフィナから伝わる体温は温かい。
何が起きてる。確かに目の前の美少女を俺は抱いた。だが、それがサラフィナだと。こんな事が麗華さんたちに知られたら、半殺しにされそうだ。でも、釈然としない。どうして成長してる。
「サラフィナ、その姿はどうしたんだ?」
「ふふっ、サラフィナは話していなかったんですね。エルフは女になるときに成長するのですよ」
うん……という事は、俺が最初に抱いた時は幼女だったということか。
俺の記憶に一度目は残っていない。二度目はハッキリと脳内に記憶したけどな。
「なるほど、そうだったのか。サラフィナを抱いた筈が、別人に変わっていたから驚いたぞ」
これならどうだ?
これならサラフィナを傷付ける事もあるまい。
「ふふっ、良かったわね。サラフィナ」
「…………はい」
女とは一度寝ると変わる生き物だ。あれからエルフの街を案内してもらっていたのだが、その間、サラフィナはずっと俺と腕を組み甘えてくる。
うーん、不思議だ。冷ややかな眼差しで計算高いサラフィナとは思えん。
これが同じ女なのか。麗華さんは夫婦の営みでタケ婦人が板に付いた感じだ。だが、サラフィナはその逆。これほどべったりと寄り添われるとは。
思えばサラフィナと会った時からそんな予感はあった。ただ婆の格好が俺を不安にさせていた。そして幼女の姿も……。それが消えた今、俺の中に蟠りや罪悪感はない。はぁ、もしかしてブーケをアロマより先に取ったのは運命だったのか。
まぁ、あの女神様ならありえるな。
『ふふふ、新たな伴侶を得たようですね。おめでとう』
「出たなッ、小女神!」
コイツはいつも突然現れやがる。ここは街中だぞ。大樹の中だけどな。
「女神様、ありがとうございます」
「サラフィナ、礼なんて言わなくてもいいんだぞ」
「そうはいきません。タケ様と夫婦になれたのも女神様のおかげですから」
『そうですよ。中々進展のしない二人にはやきもきさせられました』
はい? どういうこと……。
『分かりませんか。この事は、あなたの奥さまもご存じなのですよ』
えっとそれって……。そういう事なのか!
「タケ様、お茶会の席で麗華様から言われたのです。『サラフィナさん、タケさんを好きなら気にしなくてもいいんですよ』と……。今回の旅に同行されなかったのも……」
えっ、そうなの。ブラッスリーを一人にしておけないからじゃなかったのか。
『ふふふッ、私もその席にお邪魔していたんですよ』
はめられた、いや。はめたのは俺の方か。まさか、麗華さん、アロマ、サラフィナ、ブラッスリーまで絡んでいたとは。道理で仲がいいと思ったぜ。毎日、お茶会でどんな会話をしているのかと思えば。俺の事だったのか!
モテモテはつらいなぁ。悪い気はしねぇけどさ。
「なるほどな。そういう段取りだったって事か。じゃ、何で昨晩、他の女たちに席を譲ったんだ?」
「それは……私が煮え切らないからです」
ん、サラフィナが俺にアプローチできないからだと。でもそれだと変じゃねぇか。もしあの席で俺が他の女を選んでいたらどうしたんだ。そうなっていた場合、サラフィナの芽は消えた可能性が高い。
「もしかして、エルフの里であんな歓待を受けることを前から知ってたのか? 麗華さんたちも」
「はい。迷い人様を迎えるにあたり儀式のようなものなので」
『もう良いではないですか。丸く収まったのですから』
まぁ、確かに。サラフィナとこういう仲になったのに文句はねぇ。ただ女性陣の手のひらの上で踊らされたのが悔しいだけだ。
「もしかして、堕天使の結界の話もウソなのか?」
『ウソではありませんよ』
一石二鳥って訳ね。はいはい。分かりましたよ。
「それでタケ様、この後はハイエルフ様に会っていただく訳ですが……大丈夫でしょうか?」
「あぁ。任せとけ」
『その前に、あなた方お二人に祝福を授けましょう』
「ちょ、こんな所で」
「ありがとうございます。女神様」
サラフィナと俺に黄金色のマナが降り注ぐ。街行く人々が何かと立ち止まり、次の瞬間に盛大な拍手が俺たちを包み込んだ。
気恥ずかしい思いを残しつつ、俺とサラフィナは移動を開始した。
大樹の頂点に住まうハイエルフの階までは、直通のエレベーターで向かう。
中央街の時よりも二回り小型のエレベーターで最上階に着くと、周囲の景色は一変していた。空は雲一つなく青く、心なしか太陽も近く感じる。周囲は透明なガラス張りになっていて展望台のようだった。展望台の奥には白亜の神殿があった。
「ようこそおいでくださいました。女神様に迷い人タケ様」
神殿の前には一人のエルフが待ち構えていて。その姿は一言で表すと異様。
真っ白な腰までのストレート。瞳は翡翠だが、吸い込まれそうな感じを受ける。そしてもっとも異様なのは、その肌だ。人間には見えない。真っ白な人形。
思わず人形が喋っているんじゃないのか。そう思うほど生気がない。
おっと、それよりも女神だって。チッ。いつの間に。この階に着くと同時に俺の肩に姿を現していやがった。
『エルフの長よ、久しいですね』
「はい、二千年ぶりでしょうか」
………………二千年ぶりだって。何てことだ。目の前の人形は最低でもそんだけ長生きだと言うことか。その割に、見た目は二十代半ばにしか見えない。
もしかして、エルフって老化しねぇのか。
『こら、神殿で邪な考えを浮かべるでない』
「はいはい、で、俺は何をすればいんでしたっけ?」
「それでは私が案内いたします。サラフィナはここで待ちなさい」
「はい」
やっぱこの人形が一番偉いんだな。サラフィナが大人しく従うとは。これが人族の王様相手だとこうはいかない。
俺は、人形の後に続き神殿に入った。
何だ。ここは。展望台は広くなかった。なのに、神殿の中はかなり広い。
これも魔法の力か。それとも既に神界なのか。俺が今立っている場所は、オペラハウスの壇上のような場所。そう、樹海の中にあったものと瓜二つの場所にいた。
「私はここで待ちます。迷い人様は先へ進んでください」
「ああ。分かった」
これは女神の像まで行けと言うことだな。というか、また気を失うとかねぇだろうな。勘弁してほしいぜ。今回は力持ちのブラッスリーはいない。倒れたら面倒な事になるぞ。サラフィナの肩を借りながら歩く俺。おっ、以外といいかも。
『心配しなくても大丈夫です。あなたのマナを分けてもらうだけですからね』
「はいはい、さいですか」
女神像の前にたどり着く。というか、小女神がここに来られるなら俺が来る必要はなかったんじゃねぇの?
『分身体にはそこまでの力はありませんよ。それは助言専用です』
「へぇ。その割に散々、頭とかどつかれたけどな」
おっと、さっさと終わらせないとな。女神の像に手を触れた瞬間、体内から血液が流れ出すような寒気に襲われた。
お読み下さり、ありがとうございます。
ブックマーク、評価ありがとうございます。お陰様でモチベーションがあがります。
前回の話で年齢制限を気にしたんですけど、元々R-15指定にしてあったので大丈夫そうですね。