第144話、タケ、歓待を受ける。
巨大樹の根元には、人が数人並んで歩ける空間がある。サラフィナに手を引かれ中に入ると、そこにはいくつものブースが広がっていた。
これだけ高層の木を支えるために、根元付近は支柱がないと倒れるはず。
なのに、ただの空洞に見える。遙か遠くまで続く通路。いくつもの部屋。どんな建築技術でもこれ程のものは現代にはない。鉄筋でもなければコンクリートでもないのだ。
天井の高さも目を見張る。天井まで二十メートルはあるだろうか。
俺は祭りの屋台でも見るかのように、キョロキョロと忙しなく辺りを見た。
「ふふっ、こんなものじゃありませんよ」
さらに奥へと進むと、巨大樹の中心に着く。そこには円形の大理石が敷かれ、天井はない。大理石には切り株のような椅子がまばらに置かれている。
あ、わかった。これエレベーターだ。何となくそんな事を思う。
巨大樹の中心に憩いの広場があっても不思議ではない。でもそれなら天井はあるはず。なのに天井はない。ということは、きっとそうなのだろう。
「好きな椅子に腰掛けてくださいね」
サラフィナに誘われるまま俺は開いてる椅子に腰を下ろした。全員が座ると、フワッとした浮遊感とともに大理石の床が上昇し始めた。
感覚としてはエレベーターと変わりはない。ただ、どうやって浮上させたのか、どこで止まるのか。一切が謎である。サラフィナもエリフィーナもただ座っただけなのだから。階を指定する板のようなものもなかった。
なんて滅茶苦茶なんだろう。
「これどうやって動かしてんだ?」
「勿論、魔法ですけど」
「いや、そうじゃないな。浮上させるタイミングとか、何階で止まるとか、そんな準備なかったよな?」
「あぁ。それはですね……」
サラフィナの説明では、大理石に乗った人数が腰掛けると自動で上昇する仕組みらしい。そして肝心の階数指定は【中央街】までの直通らしい。それなら階数の謎と勝手に上昇しだした仕組みは理解できる。
ただし、これにどれだけのマナが必要とされているのかは不明だ。
大理石はかなりの高さまで上がるとゆっくり停止した。
「ここがアルフヘイムの中心都市です。まず最初に宿を取りますね」
うへぇ。本当に街があるよ。木の内部とは思えねぇ。しかも近くに見える店の中では木の内部なのに火まで使って調理してやがる。まさに謎空間だな。
いかにも物見遊山ですって感じで観察する。すれ違うエルフたちから生暖かい視線を送られるのもそれが原因だろう。最初は驚いた表情で俺を見るが、すぐに優しげな面持ちに変わる。
へぇ。優しい人が多いんだな。そう思ってた時期が俺にもありました。
「今日はここに泊まりましょう」
そう案内されて入った宿は、一言で言えば遊郭。昔、映画で見た花魁のいるような建物だった。中の手すり、柱は赤い塗料で彩られ、おまけに三階建てになっている。あれ、ここって木の中だよな? そんな錯覚すら起きる。
屋根こそないものの、通路から見えた階は三階建てだ。各部屋から通路を見渡せるように各階に手すりが設けてあるから間違いはない。
受付でサラフィナが何やら記入しているが、俺の視線はバリアフリーになっている三階に釘付けだった。上から俺たちを見下ろすキレイなエルフの女性たち。
薄い生地に身を包んでいる女性陣の視線は俺を見ていた。いや、勘違いじゃないよ。さすがにこの距離で間違うはずもない。どの女性を見ても視線が合う。
これは間違いなく――――――ハーレムだ!
そして、サラフィナ、エリフィーナとの差は、全員巨乳である。
コレ大事。巨乳なのだ。
うはぁぁぁぁ。すげぇ。動画撮影したままで良かったぜ。首に下げたデジカメは正面を向いてるけどな。意味がない? あるじゃん。俺の脳内に記憶した。
「さっ、お部屋はとりましたから行きましょうか」
「それじゃ、私はここから別行動で」
サラフィナに手を引かれ、階段を上がろうとした所でエリフィーナは宿を出て行った。まぁ、地元に戻ってきたんだから、旦那にでも会いに行ったんだろう。あれ、そういえば、サラフィナはいいのか……俺に付き合ってて自宅に戻れないとかだと悪いよな。ちょっと聞いてみるか。
「なぁ、サラフィナはいいのか? 久しぶりの実家なんだろ?」
「はい。別に帰ってもする事もありませんから。それに……」
「ん、なんだ。それに?」
「いえ。何でもありません」
まぁ、俺なら別に居にくい実家に寄りたいとは思わないからな。実家が息苦しいことだってあるか。そう思って気にしなかった。
サラフィナに案内され通されたのは二階の部屋だ。ちゃんと部屋ごとに仕切られていて、壁は厚い。坂の上の林檎亭とは比べものにならない。広いダブルのベッドが一つと四人掛けのテーブルにチェア。他にはなんと浴槽まで付いている。
ザイアーク王都でも風呂の付いている宿はない。何という贅沢か。
俺とサラフィナは向かい合って椅子に腰掛けた。
「「ふぅ」」
やっと腰を落ちつけられた安堵から思わず吐息をもらす。疲れていたのは俺だけだと思ったが、サラフィナもほぼ同時に息を吐いた。
「ここまで二日か。やっぱりサラフィナも疲れた?」
「いえ、疲れたという事はないのですが……」
うん? ここに来てから語尾が濁るようになったような。
「久しぶりの里だもんね。そりゃ疲れるか」
「はい、まぁ……」
なんだ……いつものサラフィナらしくないような。まぁ、あの日かな。口に出したら殴られそうだから言わないけど。
しばらくすると、宿のご婦人が温かい紅茶を持ってきた。帰り際、『お食事とお酒は雅の間で行います』と言っていった。この時の俺は、食堂の部屋が雅の間なのだと思ってた。修学旅行の時でも、食堂はそんな感じの名前だったからな。
似たようなものだろう。そう思ったんだ。
そして、その時がきた。
晩ご飯を食べに案内役の女中に連れられ入った部屋は、予想に違わなかった。
大広間で間違いはない。間違っては居ないが……そこに大挙していたのはうら若き乙女と思われる三階にいたエルフたちだった。
あくまでもサラフィナの例もあるから本当に若いかどうかは知らん。
席は俺を取り囲むように組まれている。最初、サラフィナが隣に座ったが、他の女性に追いやられ端に移動させられた。なんで?
見知らぬエルフの女性が次々に箸を口元へ近づける。勿論、多くの料理を箸でつまんだ状態で……。これは、アレだな。お座敷接待。
「あら、お肉がいいのかしら。ならこっちを……」
「あぁーん。私のもた・べ・てッ」
「こっちの方が美味しいわよ。アーン」
俺は次々に出される料理を文句も言わずに食す。
うん。こんな扱いは初めてだ。これが接待かぁ。くそっ、日本の金持ちはこんな扱いを毎回受けてるのか。うらやま……。
ある程度、食事が済むと次は酒の出番だ。
「はい。これは里で取れた葡萄から作ったワインですよ」
手を使わなくても勝手にグラスが傾いていく。うん、便利だ。
「あら、案外いける口なのねッ。ならこっちはどうかしら」
芋焼酎のような透明な酒で舌を潤わせる。うむ、良い気分だ。右の腕は巨乳に挟まれ、左の腕も巨乳に挟まれ。頭の上にはやはり巨乳が乗せられる。
すげぇ。これが迷い人を歓迎すると言うことなのか……。
独身だったら永住を考える所だ。えっ、蛇とか蜘蛛がでるから住むのは止める? なんの事でしょう……。これ程の歓待は一生ないよ。
酒に酔った勢いで、俺は揉みまくった。差し出されるおっぱいは全て揉んだ。
そして、気付いた。何かがおかしいと……。
お読みくださり、ありがとうございます。
またまたポイントが上がってました。自己ベストです。本当にありがとうございます。
調子にのってもう一話書いちゃおうかな。なんて思ってます。昨日、一昨日と歯茎の腫れが痛んで集中できないのでサボってしまいましたし……。