第141話、タケ、アルフヘイムへ向け出発する。
「タケさん、いってらっしゃい」「旦那様、さっさと終わらせて早く帰ってくるのじゃ」「タケさん、お帰りをお待ちしておりますわ」
麗華さん、ブラッスリー、アロマの三人に見送られエルフの里へ向け出発した。街で宗っちがハマーを乗り回しているおかげで、以前のように物珍しさで取り囲まれる事もない。王都の道はあっさり進むことができた。宗っちさまさまだな。というか、俺よりも異世界生活を楽しんでやがる。
正門を出てからの道案内は、同行者のサラフィナ、エリフィーナに委ねる。
「それで、この先はどう行けばいいんだ?」
王都を出てすぐに西と東への分岐がある。俺は助手席のサラフィナに尋ねた。
「はい、ここを東に。サラエルドの街の方へ行ってもらえれば良いですよ」
「サラフィナ、王都からなら左から行った方が早いわよ」
「母さんは来るときに海岸線からきたの?」
「ええ。その方が早いですからね」
どっちだよ。
サラフィナは直接サラエルドに向けて出発したから、東からザイアークに入ってきた。でも、エリフィーナは西からやって来たという。サラエルドの街から王都まで八時間近くかかるからな。できるだけ走行距離は走りたくない。というか、ガソリンだって無限じゃないからな。少しでも近い方を選択したいわけだ。
「んで、結局どっちなの?」
「はい。タケ様、母さんの言ってる方で……」
「了解!」
んじゃ、西の方向ね。麗華さんを特訓する時に使った街道をずんずん進む。この辺りから見ると、右には樹海が、左には森が見える。麗華さんの特訓で通ったのはその森だ。特に目立った建物もなく、間もなく森も途切れ一面林に変わる。
「所でこっちは海だよな? エルフの里っていうのは海沿いにあるのか?」
この世界に来て初めての海だ。島国日本と比べて、こっちの海はどんな感じなのか興味がある。太平洋と日本海の海でも違った趣があるからな。
「そうですね。海沿いというか……」
「サラフィナ、ここは黙っていましょうね。ふふッ」
なんだよ。隠里だから現地まで内緒ってか。この道は樹海基地へ行くときに使ったが、もう少し行くと左に折れる街道があったはず。だが、その道の先は侯爵領だったはずだ。小さな漁港と、大麦の産地だと以前侯爵から聞いた。
侯爵家にムコ入りする身としては、一度見ておくのも悪くはない。しかし、公爵に陞爵されるにあたって、領地替えがあるって陛下は言ってたからな。下見する意味はないか。
ちなみに王都から侯爵領までは馬車で三日の距離だ。時速十数キロしか出ない馬車と比べればその道程は五分の一で済む。六時間も走れば到着する訳だな。
俺たちを乗せたイムニーは、砂煙を上げひたすら街道を進んだ。
途中、すれ違う馬車もあったが、前方から不審な砂煙をあげる物体を視界にいれると大抵は止まって様子を見ている。すれ違う際、日本ではクラクションを鳴らして挨拶するが、この世界では窓から手を出して合図する。
「今の御者さん驚いてましたね」
「あ、うん。王都では珍しくなくなったけど、ここは辺境だからね」
サラフィナとたわいもない話をしながらずんずん進む。これが宗っちだったらもう寝てるからな。やっぱ助手席に乗る人はこうじゃねぇとな。
「それにしても、この車ですか、これは速いですね。もうこんな所まで来たんですか……」
「あ、ああ。エリフィーナは初めてだったっけ?」
「ふふっ、ええ。サラフィナは何度も乗せてもらってるみたいですけど……私は初めてですね」
初めてなら無理もない。
そんな会話をしながらも、エリフィーナは移り変わる景色から目を離さない。助手席のサラフィナよりもエリフィーナの方が楽しそうだ。
今回のアルフヘイムへの訪問では麗華さんは同行しない。理由は、『ブラッスリーちゃんが一人でお留守番じゃかわいそう』そんな麗華さんの気配りからだ。
ハイエルフと交渉して許可が出れば、次に行くときは麗華さんも一緒にいく事になっている。当然、ブラッスリーもね。
「この先、海が見えたら左ですよ」
「ほい」
サラフィナにこの先と言われても、道路標識なんてこの世界にはない。立て看板すらないから気を付けていないと素通りしてしまいそうだ。
しばらく走ると丘が見えてきた。両側の景色は、林からお花畑に変わり春模様に彩られた風景を見せ始めている。
丘を越えると、視界一面に濃紺の海が広がった。
「うぉぉぉ。海だ! 海だよ!」
「あれ、タケ様の国は確か海に囲まれた島国だったのでは?」
さすがサラフィナ。良く覚えてたな。まぁ、散々動画で見せたから当然だが。
「そうなんだけど、俺の住んでた所は内陸だったからな。海を見るのは数年ぶりなんだよ」
丘を下り始めると分かりにくいが、左へ分岐した場所があった。
「あっ、ここです!」
「了解! にしてもやっぱ標識はほしいな」
「標識ですか?」
「あぁ。俺の世界では道を間違えないように必ず分岐する街道に立て看板があるんだよ。それがないと初めて訪れた人は道を間違うだろ」
「なるほど……確かにそうですね」
サラフィナが納得している後ろで、反対意見が飛び出す。
「それだと、侵略者に正確な場所を知らせる事にりますよ」
「ん? もしかして、この世界に標識がないのは……ソレが原因なのか?」
「恐らくですが、そうだと思いますよ」
「へぇ……」
数カ月前まで帝国からの侵略に怯えてたからな。ザイアークは。
平和な日本だから問題はなかった。でも、戦争や侵略が頻繁に起こりうるこの世界ではそんな細かな事にも注意が必要な訳だ。そういえば、日本なのに外国人向けの標識が多くて問題にしていた掲示板を見たことがあったな。侵略された場合、官庁の場所を教えるようなものだとか何とか……。この世界の事情を当てはめれば、そんな意見も納得できるか。
「でも、北のサラムンド帝国は竜の攻撃で滅亡したし、東のファシア王国とザイアークは友好関係にあるからもう心配はないんじゃないの?」
俺の知ってる隣国はその三国だけだから何とも言えない。でも、俺が女神様から見せられたこの世界の地図では少なくとも敵対国家はなかったはずだ。
「世界は広いんですよタケ様。この大陸でも他にいくつもの国はあるんですから」
「へぇ。ちなみにエルフはその全てに人を?」
「勿論です。どこに迷い人様がやって来てもいいように、散らばっていますからね」
さいですか……。どんだけ迷い人に固執してんだよ!
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