第138話、タケ、勇者のマナ事情を知る。
「タケ様、それで頼まれ事というのはどういった……」
「うん、サラフィナの故郷に大樹があるって言ってたよね」
「はい、アルフヘイムが大樹ですが。それが何か?」
へぇ。アルフヘイムという場所に大樹があるのではなく、大樹がアルフヘイムなのか。普通の感覚では巨木と言えば直径十メートルくらいの感覚だけど。それだと村の規模の人が暮らすことは不可能だ。どんだけ大きいんだか……。
「うん。そこの最上階に神殿みたいな物はあるかな? 女神様の依頼はそこの神殿にマナを注ぎ込む事らしいんだけど」
「さぁ、私はハイエルフ様にお会いしたことはないので知りませんね」
「ふふっ、やはりそうでしたか……。先日あの像を見た時に、何処かで見た覚えがあったのですけど。ハイエルフ様の祈りの部屋でしたか」
サラフィナは知らないようだけど、エリフィーナは知ってるんだな。
「で、その祈りの部屋に行きたいんだけど」
「タケ様がハイエルフ様に直接お会いすれば、可能かと。私たち一般のエルフでは滅多に立ち入れない場所ですので」
へぇ。ハイエルフね。エルフの上位種みたいなものだっけか。それにしてもこんなに早くエルフの里へ行く機会に恵まれるとはね。ぐっちょぶだぜ!
「女神様の後ろ盾があれば大丈夫だと思うけど、問題は勇者なんだよね。俺が居ない間にザイアークにちょっかいを出さないとは言い切れないからな。
『それはありませんよ』
「「「えっ……」」」
今、言ったの誰だ……。少なくともここにいるメンツの声じゃない。でも、確かに誰か女性の声が聞こえてきた。俺は部屋を見回す。うん、この部屋には……麗華さん、ブラッスリー、アロマ、エルフの二人、侯爵しかいない。うん? 何で皆して俺の肩を見てるんだ。
俺の守護霊とかじゃねぇよな。女神様は、俺の先祖は俺だとかほざいてたし。
俺の守護霊は俺でした! なんだろ……想像するだけでキモいんだが。
全員が俺を見て固まってる事に訝しみながら、背後を振り返る。
そこには、小さなフィギュアのような女神様がいた。しかも、俺の肩を椅子にして座っている。
「うぉぉぉ?」
『何を驚いてるのです?』
「いや、何をって。いきなりそんな所に現れたら驚きますって!」
「タケさん、もしかしてこの方が?」
「うん、麗華さんの想像と違わないよ。この人が女神様です」
「「「はうッ」」」
なぜか全員、お辞儀をしてるし。俺が偉くなったように感じるな。
「それで、今日は何の用だ?」
「タケさん、さすがに女神様にその聞き方は……」
「そうですわよ。いくらタケさんでも、失礼にも程がありますわ」
「タケくんはタケくんと言うことですかな」
女神様の顕現中に口を挟むのも失礼だと思うけどね。実際、サラフィナたちとブラッスリーは一言も声を出していない。さすが女神信仰が根強いだけある。
『ごほんッ。では先ほどの疑問に答えましょう。勇者は現在マナの枯渇状態にあります。この時代に転移できるとしてもだいぶ掛かるでしょう』
「えっ、そうなの? というか、なんでそんな事が分かるわけ?」
もし、女神様の言ってる事が正しければ、ザイアークに留まっている必要はないかもしれない。ブラッスリーに乗せてもらえば、移動時間だって少なくてすむ。
『私が誰かは夢の中で教えましたね』
んあ……あれってただの夢じゃなかったのか。それにしても男神が女神とか言われてもな。まさか女神様は両性なのか? 胸もあって、下は息子が付いてたり?
『ええい! イヤらしい妄想はやめなさい! 汚らわしい!』
「いてッ……何もどつくこたぁねぇだろうに」
『あなたがイヤらしいのがいけないのです。少しは自覚なさい』
「タケさん、まさか……女神様に……」
「さすがタケさんですわ」
くそっ。サラフィナもブラッスリーも言葉には出さないけど、完全に冷ややかな視線だし。侯爵なんて顔が引きつってるぞ。麗華さん、そんな変な妄想はしてないからね。アロマも。勘違いしないでよね!
「で、勇者が今は動けないってのは確実なのか?」
『彼らが体内へマナを取り込むのは時間を要するのです。この世界の様に、一日眠れば回復するといったものとは違います』
へぇ。それも先日の話と関連があるのかねぇ。酸素がどうたらっていう。
『詳しい話を聞きたいですか?』
「あっ、いや。ちんぷんかんぷんなんで止めときます」
『そうですか……』
何でそんなガッカリしてるわけ。もしかして聞いてほしいのか!
『そういう訳ではありません。ただ……勇者の力は万能ではないと言うことです。特に未来においては』
へぇ。俺も未来に飛べたら、同じくマナが枯渇状態になるのかねぇ。
『……………………………………』
ちッ。肝心な事はだんまりかよ。
「それじゃ、エルフの里へ行っても問題はないって事なんだな?」
『はい、余計な事に時間をとられなければ大丈夫な筈です』
具体的にどの位の時間を向こうで過ごしたらとかは、教えてはくれないんだろうな。その後に、獣人の国にも行くんだっけか?
『はい。獣人の国へはブラッスリーが案内できますからね』
へぇ。どう見ても幼女なんだが、長く生きてるだけあっていろんな場所を知ってそうだな。これで俺の嫁とか……マジかよ。
『そう言えば、祝福がまだでしたね』
女神様がそう言うと、ブラッスリーと俺に光の粒子が降り注いだ。もしかして、結婚式で光の粒子を降らしたのは……おまえか! 女神!
「女神様、祝福感謝するのじゃ」
「おぉぉ、女神様の祝福であったか……」
「もしかして、私たちの結婚式のも……」
ちょっと、アロマとサラフィナ。なんで、羨ましそうな顔してんだよ。
『そこの娘の時は……祝詞に乗せられてしまいましたからね』
麗華さんの時はノリかよ!
「で、この祝福の効果は? まさか、ただの飾りじゃないんだろ?」
『ふふっ。魔法の使える者にとっては効果が少し上がる程度ですね』
道理で結婚式の前と後では、麗華さんの魔法が強くなった気がした訳だ。まさか、あの時から女神様に目を付けられていたとはね……。あの祝詞のせいかよ!
『では、頼みますよ。堕天使が復活する前に……』
好き勝手に話して女神様の姿は消えた。
「「「「…………………………」」」」
ふぅ。あんなのに毎回出てこられたら、心臓に悪いぜ。この部屋に立ちこめた雰囲気どうしてくれんだよ。ここは俺と麗華さんの愛の巣だぞ!
お読みくださり、ありがとうございます。
またポイントが上がって232pになりました。
二年前から書き始めて、初快挙です。本当にありがとうございます。