第134話、麗華、母性本能に目覚める。
「それで、どうしてタケさんと結婚する話になったんですの?」
「それはさっきも話したのじゃ。旦那様がわらわの鼻を抱擁して、そのお返しにわらわがキスしたのじゃ。竜族の鼻に触れるということは、求婚を意味するのじゃ」
あれを抱擁と言い切るのはどうかと思うが、はぁ。手首に、こんなもん付けられたら断れないんだろうな……。
「旦那様。これは何という食べ物なのじゃ?」
「ふふっ。それはケーキですね。小麦粉とバター、砂糖で作ってるんですよ」
「そうなのか。これはうまいのじゃ!」
ははっ……。なぜか麗華さんの膝の上にちょこんと座り、ケーキを頬張るブラッスリー。それを優しげな瞳で見下ろす麗華さん。一見すると心温まる光景だが。一つ言わせてもらおう。その隣に座ってるアロマも含めて俺の嫁だと……。
麗華さんって、もしかして面倒見が良いのか。わざわざブラッスリーのために自作のケーキまで食わせてるよ。
「麗華さん」
「はい? 何でしょう。タケさん」
「もしかして妹がほしかったとか?」
「ふふっ、良く分かりましたね。お兄様はいますけど、妹はいなかったので……」
やっぱりな。王城跡地では剣呑な雰囲気になったけど、歩いて侯爵家に来るまでになぜか意気投合してるし。そんな事じゃないかと思ったよ。
アロマはアリシアという妹がいるから、そんな雰囲気はないけど。
「麗華さん、ブラッスリーちゃんも……タケさんの奥さんになるんですよね。本当によろしいんですの?」
うーん、この子が奥さんね……全然実感はねぇぞ。だって誰が見ても父親と娘にしか見えないし。ぐふふ。もし麗華さんとの子供ができたらこんな感じなのか。
今晩あたり頑張っちゃうか!
「アロマさん、ブラッスリーちゃんはかわいいですよ。それに、二人も三人も大差ないですから。英雄色を好むと言いますし……」
すげぇ。麗華さん。独占欲とかないのかな? でも、俺の秘蔵のビデオは消されたよな。何か麗華さんの中で許容できる部分があるのか。
「なんだ。おまえも旦那様の嫁なのか?」
「えっ、ええ。まだ披露宴は済んでいませんけど……その予定ですわ」
麗華さんは名実共に嫁だから堂々としてる感じだ。アロマは……まだ自信なさげな感じだな。こうなったら早い所、アロマとも済ませねぇとな。
「そうなのか。旦那様はモテモテなのじゃな」
「えっと、ブラッスリーちゃんは一夫多妻でも平気なの?」
「何じゃ、その一夫多妻っていうのは?」
「だから、男一人に対して嫁さんが複数いる男の事だけど」
「あぁ、わらわの一生は長いのじゃ。人族の旦那様はどうしても先にあの世へ行く。そのあとでまた婚姻を結べばいいのじゃ。今の時間は旦那様だけのものなのじゃ」
へぇ……。
達観してるというか、これでブラッスリーに惚れてたら悔しくて泣きたくなる発言だな。俺が死んだらそのあとに違う人とか……。チッ。
「すごいのね……ブラッスリーちゃんって」
「本当ですわね」
ほら見ろ。女性陣なんかドン引きじゃねぇか。でも、竜族の営みなんて知らねぇからな。これが普通なのかも知れねぇな。
「おまえは麗華だったな。おまえの作ったケーキはうまいのじゃ」
「ふふっ。良かったわね」
何だかんだ言っても、皆が仲良くしてくれるなら良いかな。
「ブラッスリーちゃん、こっちの料理も美味しいですわよ」
「うむ。これもうまいのじゃ。おまえはアロマだったな、覚えておくのじゃ」
食い物に釣られてんのかよ! やっぱまだまだ子供だな!
「それで、その神殿は……」
「うむ、破壊されたが数日で元に戻ってたのじゃ」
はぁ? 何だそれ……。
「直したんじゃなくて?」
「うむ。勝手に直ってたのじゃ」
へぇ。すげぇな。異世界の技術力なのか、それとも神の力か。
やっぱり一度調査は必要だよな。どうせ樹海へは行く予定だったし。
「ブラッスリーちゃん、明日そこに行ってみたいんだけど……案内してくれるか?」
「うむ。旦那様が行くと言うなら案内するのじゃ」
「楽しみですね。どんな所なのか……」
* * *
ふふっ。昼間、あんな麗華さんを見せられたからな。母性本能全開の麗華さんは色っぽかったぜ。ぐふふ。風呂でちゃんと洗ってきたし。
準備万端。今晩は寝かさないぜ!
あっ、明日樹海に行くんだったか。まぁ、何とかなるでしょ。
それにしても麗華さん遅いな。先にベッドの中に入ってるか。湯冷めするしな。
おっ、誰か来た。
「それは良かったですね」
「うむ。温かい風呂は久しぶりなのじゃ」
えっ……何でブラッスリーの声が。
「あれ、タケさんもう休んでたんですか?」
「えっ、う、うん。ちょっと……ね。それで、何でここにブラッスリーちゃんが?」
「はい、一緒にお風呂に入って。楽しいから寝るまでお話する事になったんです」
「そうなのじゃ。麗華は楽しいのじゃ」
「そ、そうなんだ………………」
「タケさんは疲れてるみたいですし、先に寝ててくださいね」
「あ、うん。分かった」
あれ……新婚だったよね。えっ、ブラッスリーとも婚姻の契約したばっかじゃん。子供相手にそんな事はしないけどさ……でも、あれ……。
「そうなんですよ。私とタケさんは地球からきたんです」
「ほうほう、それは興味深いのじゃ」
「それで、これが地球の動画なんですよ」
「ふむふむ……すごいのじゃ。わらわより速いのじゃ」
「ふふっ、人類は月にも行ったんですから」
「ほぉ。これがその映像か……不思議なものなのじゃ」
俺が寝付くまで、こんな会話が繰り広げられていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
短いですが、まず二話目です。




