第133話、タケ、異世界の歴史を垣間見る。
なんだ、この入れ墨は。俺は入れ墨なんて入れた覚えはねぇぞ。
それなのに、なぜか俺の手首には漆黒のどぎつい入れ墨が入っている。
「うはははは。旦那様もその入れ墨を気に入った様子なのじゃ。さて、詳しい話は旦那様の家でするのじゃ、案内してたもれ」
俺は放心状態から抜け出せない。どうしてこうなったのか、低スペックの俺の頭では処理できていない。なのにブラッスリーはどんどん話を進めていきやがる。
「はぁ。これはちゃんとお話をする必要がありそうですね」
「まさかタケ様が竜族の姫をたらし込むとは……サラフィナ一生の不覚」
「まぁ、まぁ。竜族の姫が認めたと言うことは、タケ様の将来は安泰というもの。これではエルフの保護は不要ですね」
えっ、俺はエルフの里にも顔を出して動画を撮影するつもりだったんだけど。どうなっちゃうのこれ……しかも、麗華さんもアロマもなぜか諦めムードだし。サラフィナはなぜか悔しそうだ。つーか、サラフィナよりもロリだからな。こんな子供に何を期待すればいいのやら。
「それで旦那様の家はどこなのじゃ?」
「あっ、それならこちらですわ」
ちょっとアロマ。マジでブラッスリーを家に招待するつもりかよ。こんなナリでもデカい黒竜だぞ。いきなり変身とかされたら屋敷が吹き飛ぶんじゃねぇのか。
「まぁ、タケくんに三番目の奥さんができたのはめでたいじゃないか。これなら僕もあと一人くらい娶っても問題なさそうだ」
「いや宗っち問題あるだろ、だいたい俺にそんな甲斐性はねぇぞ。今だって侯爵家にお世話になってる身だからな」
* * *
俺たち一行は、王城跡地から侯爵家の談話室に移動した訳だが。
「ほう、それでその方が竜族の姫だと申すか!」
侯爵家には当然、陛下がいるわけで……仮設の玉座に深々と腰掛ける国王と、その正面に仁王立ちで偉そうに腰に手を当てるブラッスリーの姿があった。
「陛下の御前でなんたる態度!」
いつもの様に、宰相の一人が口を挟むが、ブラッスリーの威圧を受けてあえなく失神した。近衛兵に守られているとはいっても、相手が悪すぎるだろ。俺ですら押された竜だぞ。ちっちゃい身なりでは想像できないかもしれないが。
「おまえ。偉そうだな。わらわを誰と心得る。わらわこそ竜族の長の娘のブラッスリーなのじゃ。頭が高いのじゃ」
ほら、言わんこっちゃねぇ。ブラッスリーが指先をチョイと下に向けると、玉座が崩壊した。その場に陛下が四つん這いの形になる。
「うむ、これでいいのじゃ」
「良くないからね。ブラッスリーちゃん。これでも俺の上司に当たるわけだし」
「そうですよ。ブラッスリーちゃん、タケさんを立てるのが妻の役目です」
「そ、そうですわ。陛下はこの国の王ですわよ」
「あははは、全くタケくんの奥さんは規格外だなぁ」
この場には、王族全員と侯爵家の主だったメンバーがいる。そして成り行きで宗っちも。ブラッスリーの行いに対し、麗華さんとアロマが口を挟むが。
「タケ様、人族の王などしょせんはお飾り。竜族の姫の方が立場は上です」
「そうね。竜族がその気になれば人族など――ふふふっ」
いや、サラフィナ。そうかも知れないけど、ここは空気を読もうぜ。そして、エリフィーナおまえが原因か! サラフィナの人族嫌いは!
「な、な、なんたる無礼。タケよ、この者を――」
「捕らえろとか言うなよ。外にいる竜が暴れ出すぞ」
ブラッスリーの護衛のつもりか、俺たちの移動に合わせて大勢の竜が侯爵家に集まっていた。人族に変身するでもなく、庭に巨体のままで……。
陛下たちは外に目を向ける。ははっ、血の気がうせてやがる。まぁ、仕方ねぇか。竜一体ですらこの世界の人族にとって厄災だ。それが無数に集まってればな。この時点でザイアーク王都は陥落したも同然。
あれ、それって俺が王でもいんじゃ?
「ブラッスリーちゃん、とりあえず俺の顔を立てて大人しくしてくれよ」
「うむ、旦那様がそう言うならそうするのじゃ」
仮設謁見の間もとい談話室から食堂に移動して会話を再開する。ここには王族はいない。さすがに王族にも矜恃があるんだと。『父上がこの様子だから……あとで話は聞かせてもらうよ』と、退席する時に王子が言ってたからな。
「それで、話を戻すけど……何で竜たちは樹海の基地を襲ったんだ?」
「モグモグ。これ美味しいのじゃ」
「う、うん。お代わりね」
「人族はズルいのじゃ。こんな美味しいものを食べてるとは……で、何だったか。あ、そうじゃ。十日くらい前じゃったか、樹海が攻撃を受けたのじゃ。それで神殿が破壊されたことの仕返しをしたのじゃ」
へぇ。あいつら樹海を一掃するつもりだったのかよ。環境破壊って向こうだけの言葉じゃねぇだろうに。あんな道路まで築いてたからな。さもありなん。
「それって……まさか」
「うむ。旦那様がわらわの眷属に使った魔法と同じなのじゃ」
「……ぶっ。それって原爆の事かよ!」
ハゲの爺さんたちがやったのかと思ったら、俺が吹き飛ばしたアレが原因とは。
「原爆というのか。あの攻撃は……あれは凄まじかったのじゃ。おかげで樹海に穴が開いたのじゃ」
ちょっと、麗華さん。俺のせいじゃないからね。俺はザイアークを守るためにやったんだから。だからそんな視線を向けないで!
「へぇ……。それは災難だったな。で、その神殿っていうのは?」
「神殿は神殿なのじゃ。太古の昔に神々が築いた神殿なのじゃ」
えっ、神様って実在してたの? 確かに魔法を詠唱する時に神の名を使えば威力は上がったけど。そもそも太古って何年前だよ。
「樹海にそんなものがあったとは……エルフにも伝わっていませんね」
「当たり前じゃ。お主たちエルフが崇める大樹、アルフヘイムができた時の話じゃからな。もう数万年前になるのじゃ」
「「「数万年前って……」」」
俺も麗華さん、アロマも絶句する。そんな昔の話だとは思わなかったからな。
そもそも地球でさえ数万年前といえば、日本の旧石器時代あたりか。日本列島の誕生が二千五百万年前といわれてたからな。竜族にはそんな太古の歴史まで伝わってるのか。さすが……長寿の一族。
「それで、その神殿が破壊された事に腹を立てて基地を襲ったと? そもそも何でそんな所に神殿があったんだ?」
「うむ。そもそも昔は世界中が樹海に覆われていたのじゃ。それを人族が生まれ、田畑を耕し、木を伐採したのじゃ。わらわも詳しくは知らぬが……太古には大樹で溢れかえっておった。エルフの守っている大樹はその一つという訳じゃな」
へぇ。そう言えば地球も昔はデカい木で溢れてたってネットで見たな。アメリカにはその名残で残ってる木があるらしいし。確か全長二百メートルはザラだった。
まさか、異世界に来て歴史の勉強をするとは思わなかったぜ。
お読みくださり、ありがとうございます。
今日は暑かったですね。おかげで日中は捗りませんでした^^;
涼しくなってきたので夜書きます。