第131話、タケ、竜の猛威にさらされる。
俺たちが外へ出ると、樹海方面の空が真っ黒に染まっていた。
「あれ……蝗害だっけ?」
「タケ様、何をバカなことを言ってるんですか。あれは竜です」
「えっ、だって空を真っ黒に埋め尽くす程の竜だよ。そんなに多いの、聞いてないんだけど……」
「少なく見積もっても千はいますね……大丈夫でしょうか?」
「うん、麗華さんはヤバかったら地下に隠れててもいいんだからね」
えっ、なにその視線。逃げる気はありません。最後まで付き合いますみたいな。
しかし予想外だぜ。まだ距離はあるけど、ん……距離がある方がいいのか。
「街に結界は掛けておくから。とりあえず各自無理しないようにね」
「えっと、タケさんは?」
皆不安そうなまなざしを向けてる所悪いが、あんだけ固まってんだ。今を逃すとチャンスを失う。
「うん、ちょっと試したい物があるから先行くよ」
俺は、一気にフライで王都上空まで飛び上がる。そして、王都にエグザガーダルを掛けると飛来してくる竜の中央へと――テレプスで移動した。
突然、現れた俺に竜たちは混乱することもなく、鋭利なかぎ爪を使って襲いかかる。そして、ブレスを吐き出そうと口を開いた所へ例のモノを突き出した。
そして再度テレプスで王都の上空まで退却した瞬間――竜の吐き出したブレスがそれを焼き尽くす。『どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』まるで太陽がもう一つ出現したかのような閃光が上空を埋め尽くす。
しばらくして激しい暴風が王都を襲った。
堅牢に積まれた石壁が音を立てて軋む。細かな石はその威力で吹き飛ばされ、家々を襲うが、結界のおかげで無傷。
また、崩れかけていた市壁は脆くも崩れ去った。
空は真っ白に染まる。俺も視界を遮られ、思わず視線を背けている。
輝きが収まった時には、竜たちがいた場所にキノコ雲が立ちのぼっていた。
「ひゅー。さすが科学の結晶だ。にしても、かなり減らしたと思ったがまだ多いな」
科学の結集である。タカトが聞いたらそう突っ込んだだろう。
空を埋め尽くしていた竜の群れの中に、ぽっかりと穴が開いている。
さすがに素材を気にして戦う余裕はないからな。
竜たちは、今の爆発で躊躇していた。しかし、墜落していった仲間の死体を視界に納めると、『ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー』凄まじい大音量の叫び声をあげた。竜の威嚇は王都を包み込む。
「まさか、そんな切り札があったとはね」
地上にいる宗っちもさすがにドン引きだ。耳を押さえながらそんな事をのたまう。だが、これで終わりじゃない。いきり立った竜たちは陣形を整えると、王都と俺の二方向に分かれて向かってくる。
「チッ、空中戦じゃ使える魔法は限られる。厄介な相手だぜ」
俺は襲いかかる竜にミーテイアを詠唱するが、上空から隕石が降り注いだ途端にバレルロールであっさりかわされた。
「チッ……これじゃダメかよ」
地上では宗っちがグラビティを行使している。竜を確実に地面に落とす作戦のようだ。落とされた竜に麗華さんのブリザードが襲いかかり、刹那の間に氷の彫像へと姿を変えていく。
サラフィナも地上からサンダーオプトを使い、次々と竜を撃ち落としていた。
「皆もやるじゃん。んじゃ、俺もっと。ワーダードレイン」
極細の水流砲が竜に突き刺さるが、鱗が硬すぎて貫通までいかない。
「マジかよ。地面に落としてからなら余裕なんだけどな……やっぱ飛びながらだと威力が落ちるのか……」
子竜から情報を得ているのか、竜たちは地上戦では相手をしない。
「それならこっちにも手はあるってね」
俺はサーチアイスペリオンを放つ。これは氷魔弾の追跡バージョンだ。まさに空中戦には持ってこいの魔法である。範囲魔法ではないために、各個撃破になる。だが、一度放たれた魔法は当たるまで追い続ける。必死に逃げる竜はムーンサルトを繰り返すが、それが速度を落とす原因になり着弾する。一瞬で凍り付いた竜はそのまま急降下。地面に巨体を打ち付けると、バラバラに砕け散った。
「へへっ。使えるじゃん」
「タケ様、危ないッ!」
俺が調子に乗っていると、サラフィナから注意を促す声が飛び交う。即座にテレプスで距離を取ると、さっきまでいた場所に上空からブレスが吐き出された。
ふぅ、ヤバかった。結界を掛けてるとはいえ、直撃は避けたいぜ。
地上からは宗っちのグラビティ、麗華さんのブリザード、サラフィナのサンダーオプトが引っ切りなしに放たれる。俺も、サーチアイスペリオンを連発する。
それから三〇分後、かなり撃ち落とした筈だが、竜の勢いは収まらない。
王都に張った結界に穴が開いた瞬間を狙われ、街にも影響が出てきている。
俺も次第に押され、ついに王都上空まで侵入を許してしまっていた。
下を見れば、肩で息をしている麗華さんの姿が見える。
ブレスが街を襲った時に、傷ついたのか兵士たちが倒れていた。
サラフィナとエリフィーナは、穴の開いた結界を修復しようと躍起になっている。しかし、次々に繰り返される竜のブレスに次第に押され出す。
宗っちは地道にグラビティで竜を落としている。こんな時でも宗っちはブレない。さすがだぜ。認めざるを得ないな。
街を覆っている結界が抜かれだしたと言うことは、俺のマナも心許ない証拠だ。
何かないか、何か……。
俺は焦っていた。最初の原爆で数を減らして調子にのっていた。だが、まさか数の暴力でここまで疲弊させられるとは。考えていなかった。
最初はトカゲだと思った。確かに一体だけならトカゲだった。
でも、コイツらはただのトカゲじゃねぇ。誇り高き竜の一族だった。全滅か勝利か、二者択一しか残されていない様子がそのギラつく視線から垣間見える。
俺は空中戦を止めて地上に降り立つ。これでマナ不足で落下する事はねぇ。
逆に言えば――それだけ追い込まれてるって事だ。
「きゃぁぁぁッ……」
その時、麗華さんの悲鳴が聞こえた。振り向くと、麗華さんに掛けられた結界が消滅していて革の防具がボロボロになっていた。エリフィーナが、急いで麗華さんに結界を掛けるが、その最中に今度はエリフィーナをブレスが襲う。
「――っ」
「母さん!」
サラフィナが援護するように、ブレスを吐いた竜に魔法を行使する。しかし、威力が足りない。全身に雷を浴びた竜は、仲間たちの後方へと後退していく。
「ははっ。何がトカゲだよ。滅茶苦茶強いじゃねぇか!」
傭兵たちを相手取った戦いが赤子を捻るような戦いと称すれば、竜との戦いはまさに乾坤一擲。もはや、神に祈りを捧げたいくらいに厳しかった。
「神に祈りを……か。我、時空の女神シャンテリーナに願う。我の前に立ちはだかる強敵に次元の理を示したまえ――エグザグラビティ!」
魔法は神の名を冠してこそ威力は増大する。エルフの教えは連続技としては有効で、膨大なマナを所持する迷い人には十分だった。だが、その分、威力は抑えられていた。俺は破れかぶれになって――それを無意識に行使した。
創造魔法でグラビティを改変させた上で。
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