第129話、タケ、窮地に立たされる。
「さて、盛り上がってる所、水を差すようだが。今回のメインイベント、ハゲの登場だ! さぁ、みんな盛大な拍手でお迎えしろ!」
ゲスト:なんだよ、その日本語。
タカト:上の人の言うとおりだぞ。タケくん。せめてお迎えくださいだ。
ゲスト:パチパチ。それで、どこにいんの?
ゲスト:パチパチ、早く黒幕出せよ。
俺は兵士に囲まれ、廊下に待たせておいたハゲを中に引き入れる。ミューチの影響で雑音は聞こえない。まったく、口を開けば文句しか言わないからな。毎日、魔法を使うこっちの身になってほしいぜ。
「さぁ、連れてきたぜ。こいつが黒幕のハゲだ」
ゲスト:何だか口をパクパクしてるみたいだけど……どうなってんの?
ゲスト:これってもしかして舌を切ったとか?
ゲスト:いやいや、声帯は残るから声は出るって。出てないから魔法だろ。
「おっと、ごめん。消音魔法で喋れなくしてあったんだった」
ゲスト:早くしろよ!
タカト:……………………。
ゲスト:で、この人誰なの?
ゲスト:知るわけがないだろ。有名人か?
ゲスト:さぁ、知らねぇ。チョット待て。この顔を保存して、ネットで調べるから。
ゲスト:おっ、その手があったか。画像のURLで類似の人を探すアレだな。
ゲスト:おっと、出たよ。何々、デスチルド。世界長者番付のナンバー三位で、世界中の大手企業の株主。その資産は個人の物でも数十兆ドル。はぁ?
ゲスト:個人資産がそれ? マジ?
ゲスト:危険を冒して異世界へ行く意味がわからん。
ゲスト:金持ちの考えなんて分からないって。
へぇ。すげーな。リスナーの情報網を舐めてたぜ。この爺さんめっちゃ金持ちじゃん。数十兆ドルって日本円でいくらだ……。
「私をここから出せ! これ以上の無礼は許さんぞ!」
「無礼も何も、あんたの国じゃねぇよ。ここは。あんたはザイアークの法に照らして処罰される。少なくとも王城を消し飛ばしたんだ。斬首が相当だろうけどな」
「ふ、ふふ、ふざけるな! そんなマネを許せると思うのか! 弁護士を連れてこい! 徹底的に裁判で争うぞ!」
裁判なんてある訳がねぇ。ここはザイアーク王国だ。裁判員制度もなければ、弁護人もいねぇ。全ては陛下のお心次第。そのくらい分かるだろうに。
ゲスト:弁護士だって……どうすんの?
ゲスト:異世界に弁護士派遣とか、ウケるッ。ププッ。
タカト:ふむ、タケくん、この人の身柄はどうなるんだい?
「はい、罪状はザイアーク王国への侵略行為。並びに、民衆を動乱した罪、そして、王城を爆破した罪があります。兵も数人死んでますから、この国の法では斬首で確定です」
「…………ひぃぃっ」
今さら驚いてどうするよ。ハゲのじいさん。当然だろうに。コイツが帝国でやった事は俺たちには関係ねぇ。だからそれに関してはいい。けど、ザイアークに手を伸ばしたのは失敗だ。ここには俺が居るからな。しかし、変な気分だぜ。地球からやって来た人間を、俺が捕まえてんだから。
ゲスト:なんだか見てるとかわいそうになってくるね。
ゲスト:おいおい、同情なんていらねぇだろ。犯罪者だぜ。
ゲスト:確かに……。
ゲスト:でも、そっちでそいつを処刑して、タケちゃんは大丈夫なの?
ゲスト:どういう事だよ?
ゲスト:あっ、いや、タケちゃんだって日本に親族とかいるんじゃ?
ゲスト:あぁ、そういう。大丈夫なのか? タケ。
はぁ?
そんな事は考えた事もなかった。日本は平和だから大丈夫だろ?
確かに、両親もいる。親戚だって多い。でも、この数年、孤立してたからな。
「さぁ。確かに日本には親戚もいれば、両親もいるよ。でも、それとコイツとどんな関係があるんだ?」
ゲスト:タケちゃん、タカトさんの会社がどうなったのか知ってるだろうに。
ゲスト:だな。日本は資本主義だ。外資系の企業なんてたくさんある。株主も。
ゲスト:例えばさ、タケの親が働いてる会社が圧力をかけられたらどうすんの? まさか、関係ねぇとは言わねぇよな?
ゲスト:あぁ、察し。
ゲスト:えぇぇ、日本だぜ。平和な日本でそんな事があるはず――。
ゲスト:ないと言い切れるか? 企業買収、株価の操作、外資の資金力を舐めすぎだろうに。それに個人資産数十兆円なんだろ?
ゲスト:数十兆ドルな。
ゲスト:それに……裏でマフィアとつながってたら……最悪ころ……。
ゲスト:ここまでにしとけよ。タケの顔青くなってるぞ。
「フフッ、おまえより、ここのヤツらの方が分かっているじゃないか。さぁ、分かったなら私を解放したまえ!」
はぁ、何だってこんな事に……。これならLIVEに出さないで処刑した方がマシだったんじゃねぇか。浅はかだった。考えなしだった。日本にいる親族の事なんて考えてなかった。ちっ。ふざけやがって。
「解放なんてする訳がねぇだろ。俺はザイアーク王国の貴族だ。陛下の意向に背く行為は御法度なんだよ。分かったらあっち行ってろ。ミューチ、スリーピ、ユニオンサークル!」
くそっ、頭来てたから使える拘束系の魔法は全部使ってやった。冗談じゃねぇ。
タカト:タケくん………………。
ゲスト:うーん、俺たちは匿名だから好き勝手言ってるけどさ。タケはな……。
ゲスト:俺も今ほど匿名で良かったって思えたよ。
ゲスト:その匿名もハッキングされてIPアドレスで追跡されたらバレるけどな。
ゲスト:俺、関係ないし。
ゲスト:お姉さんの会社、親会社が外資なのよね……。
ゲスト:うちも金融だけど、外資だわ。
ゲスト:俺は日本の企業だけど、輸出で儲かってる会社だからな。
ゲスト:うちの会社の筆頭が外資なんだよね。
ゲスト:俺、しらね。
ゲスト:タケ、ご愁傷様。
――LINE OFF
ちっ。金持ちには逆らえないって事かよ。嫌な世の中だぜ。
この時、俺の肩に手が置かれた。この部屋に残ってるのは麗華さんしかいない。
「タケさん…………」
「う、うん。大丈夫だから。俺は大丈夫。あっちで何かあっても……チッ」
俺はリスナーが書き残したレスを呆然と眺めていた。
お読みくださり、ありがとうございます。