第126話、タケ、追い込まれる。
「やぁ、タケくん。早かったね」
公爵邸に戻り、最初に俺を出迎えたのはハドロ王子だった。俺の留守中にノーパソいじって遊んでないよな。壊れたら泣くぞ。マジで。
「ああ。それで、何で王子がここに?」
「嫌だなぁ。君たちが戻ったって早馬が、市壁の門番から来たからに決まってるじゃないか」
それは、ウソだな。軍用トラックや飛行機、戦車で自動車の存在はバレてる。だから、気にしないで門からここまでハマーで乗り付けたのだ。確かに、物珍しい車をひと目見ようと大衆は集まってきたが……。ん、でも早馬の方が早いのか?
「もしかして、本当に早馬が?」
「ウソを言ってどうするんだい?」
すげぇな。車よりも馬の方が早かったなんて。ちょとしたカルチャーショックだぜ。確かに、ハマーはデカいし、石畳が整備された王都では走り難かったけどさ。 それでも、馬に負けたのはな。イムニーなら勝てたんじゃねぇか。
馬とイムニーを比べたら日本の自動車業界が泣くかな。うん、考えるのやめよ。
「ちなみに報告だが……基地に人はいなかった。あ、違うな。正確には一人を残して全員死んだ」
おいおい、何だよその視線は。別に俺は殺してないぜ。
「疑ってる所申し訳ないが、俺じゃねぇぞ。俺たちが行った時に、赤竜、青竜がいたんだよ。証拠もある。なんなら動画もあるぜ」
こんな事に役立つとはな。毎回デジカメ持ち歩いて正解だな。そう考えると、ドライブレコーダーって必須な気がする。イムニーに付けてぇな。
「へぇ。それは興味深いね。で、後ろの人は誰なんだい?」
あっ、すっかり忘れてた。宗っちに腕を捕まれた状態で連れてきたんだった。
「コイツは……ハゲだ!」
「……………………………………」
えっ、ハゲだよな。間違ってはいないはず。
「くふっ、全く君というヤツは……デスチルドだと何度も話しただろ」
そんな名前はしらない。なんだよその死を冷やすって。
宗っちがハドロ王子にデスチルドを突き出す。そして、『これが異世界侵略の黒幕です。好きにしてください』と。ほざいた。
宗っちの言葉を耳にしたデスチルドは、激しく抗議する。しかし、ミューチの効果が続いているために口パクだった。
「彼はなんて?」
「さぁ? どうせ、拘束をとけ! 私に手を出したらただではすまさんぞ! とでも言ってるんでしょ。さっさと処刑でいいですよ。世のため人のため。俺の幸せな家族生活のために」
「くふふっ。部下の幸せは私も考えてるが……同郷なんだろ?」
えっ、言われるまで気付かなかったぜ。でも、白人は同郷なのか?
宗っちなら同じ日本人だから同郷だと言われれば頷ける。しかし、白人はなぁ。別に人種差別する訳じゃないけど、俺、グローバリズムじゃねぇし。
「好きにしていいぞ。コイツの罪はコイツが償う問題だ。城を破壊したのもコイツの指示だからな。あっ、ちなみに、コイツからは賠償金なんて取れないぞ。向こうの世界では大金持ちらしいが、こいつに異界渡りの魔法は使えねぇ」
「ん、向こうから来た人間は魔法が使えるのでは?」
「それはねぇな。もし魔法が使えるなら、傭兵だって使用できた筈だ。コイツを拘束した時もなんの抵抗もなかった。と言うことは……ここからは俺の推理だが、日本人しか魔法は使えねぇ」
うわぁぁ。また懐疑的な視線かよ。なんだかんだ言っても、信用がねぇな。俺。
「殿下、それに関しては僕も同意ですよ。僕とタケくんの種族は魔法が使える。でも、白人種には使えないと思います。そもそも、そのために僕は来た訳ですしね」
「なるほど……分かった。信じよう」
ぶっ。俺の言葉より宗っちの言葉だと簡単に信じるのはいただけねぇ。
「なぁ、ハドロ王子」
「なんだい? タケくん」
「なんだか扱いが違うくねぇか?」
なにを意外そうな顔してるんだか。宗っちといい、ハドロ王子といい。この二人むちゃくちゃ似てないか?
「くくっ。タケくんはこれまでの前科があるからね。王族への敬意だってないみたいだし……。それに、秘密が多いよね? あの箱に関してもだし、基地へ向かう時に乗っていた車もだし。もしかしたら、以前王城に運ばれてきた箱を見た時に……君は気付いていたんじゃないの?」
ドキッ。今それを言うのか。まさか、ずっと根に持つタイプじゃねぇよな。タクシーの事まで持ち出されるとは思わなかったぜ。ここは、穏便に済ませる。
「ん、なんの事だか……知らねぇな。ノーパソとイムニーに関して黙っていた事は詫びるが、他は知らねぇぞ」
ハドロ王子と、俺の間で火花が飛び散る。
「まぁ、良いではないか」
「父上!」「陛下」
そんな所へ陛下はやって来た。これ以上、根掘り葉掘り聞かれないならいい。ナイスタイミングだぜ。
「その代わり、基地から持ってきた物を……あとは言わずもがな分かるなタケよ」
食えねぇ王様だぜ。結局、俺が損するだけじゃねぇか。
「まぁ、どうせ燃料がなければ動かせないからな。いいぜ。あとで王城跡地に持っていく。ただし、竜の素材は買い取りだ!」
「竜だと……」
なに、この陛下の狼狽えようは。なにかマズいことでも言ったのか。俺。
「あぁ。基地に着いた時に五体の竜が暴れてた。まぁ、そのおかげで基地は全滅。ついでに宗っちと俺で討伐もしてきたと言うわけだ」
あっ、明らかに安堵したって顔だな。竜ってそんなにヤバいのか?
「退治したのならいい。万一、手負いの状態で逃がせば危うかったがな……」
「へぇ。手負いで逃がすとどうなんの?」
「過去の文献では、遠方にあった国が一夜で灰になったそうだ。無数の竜に襲われてな……」
うはっ。竜ってそんな賢いのか。というか、討ち漏らしはなかったよな。あんまり考えるのは止めよう。妙なフラグが立つからな。
「へぇ。視界にいた竜は全部倒したから大丈夫だ」
「そうだね。確かに六体倒したから」
「えっ、五体だろ?」
「うん? 僕が二体、君は四体倒したんじゃないのか?」
あれ……そんなにいたのか? 記憶にないが……そうだ。動画に映っているかも知れないな。あとで確認するか。それにしても、陛下の顔が真っ青になってるな。ただのトカゲだぞ。ただし、吐き出す息はめっちゃ熱いけどな。
「タケよ……」
「なんでしょうか?」
「後始末は任せた。公爵の責任でしっかり頼むぞ」
はぁ。まだ決まった訳じゃねぇよ。宗っちの見間違いって事もあるだろうに。
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本日はここまでかな……。いつのまにか204ポイントになってました。本当にありがとうございます。