第124話、樹海基地燃ゆ。
「で、この道をこのまま真っすぐ進めばいいのか?」
「あぁ。M1のおかげで道も固まってるし、都合がいいだろう?」
こんな天気の良い日に男二人でドライブとか。異世界にきてまでこれじゃ先が思いやられるぜ。おっと、話に戻ろう。宗っちの滞在先を決める際、ネットができる事を理由に侯爵家預かりになりそうだった。宗っちが駄々をこねた格好でだ。
それを拒否したい俺は、宗っちのノートパソコンを取りに行く事に決めた。昨晩宗っちは嫁の実家に引き取られていった。だが、去り際に向けた宗っちの表情ったら、未練がましい目を向けて……うん、実に愉快だった。
三人も嫁をもらったんだ。うまくやり過ごすくらいの甲斐性は見せてほしい。
その翌日、朝から嫁の家を飛び出した宗っちに急かされ冒頭に戻る。
「悪くはない。悪くはないけどさ、基地にはまだ傭兵だっているんだろ? 陛下が派遣した部隊もまだ戻らないって愚痴ってたし」
「うーん、それはどうかな。少なくとも僕たちが出てくるときは、数人の警備と作業員しかいなかったけどね。万一、交戦になっても――君なら問題はないだろ?」
「それはそうかもしれねぇけど」
また銃を持ったヤツらと戦うのかよ。そいつらを拘束しても、その後始末がな。
俺はさっさと終わらせて、気になってる場所へ行きたいんだが。
WooTobeから補給を受けられない以上は、ガソリンだって有限だからな。その補給基地とやらにスタンドがあればいいけど。
――チッ。俺に運転させて隣で居眠りかよ。本当にいいご身分だな。一応、公爵位が決定している俺の方が立場は上の筈なんだが。聞いた所によれば、宗っちの嫁は皆、伯爵、子爵家の令嬢だって話だ。いくら筆頭魔導教授になっても公爵位には並ばないはず。
そうして走ること数時間。ザイアーク国境もさっき抜けて、今は樹海に並走する道をひたすら走ってる。それにしても、なんだか樹海がざわついてるような。
「なぁ、宗っち。この道で良いんだよな?」
良い気分で寝てやがるから起こした。んぁ? とか呆けながら目を覚ました宗っちは、周囲を見回す。おいおい、よだれとか零すなよ。一応新車だぜ。
「あ、あぁ。もう少し走ると右側に舗装された道路があるから。そこ右ね」
へいへい。それにしても異世界に道路まで敷いたのか。本格的だな。
でも待てよ。その基地、こっちで奪うことは出来ねぇかな。ザイアークまで道路を敷けば、移動も楽だし。好都合だ……。ただ、結局は今ある分だけしか手元には残らない。石神が転移させないと補給は途絶えるから。
悉く石神の計画を邪魔しちまったからな。
「あっ、ここだね」
うはっ。すげーな。コンクリートのまともな路面だぜ。しかも、両側は分厚い壁ときてやがる。これなら強い魔物でも入れねぇ。全く、すごいものを作ったな。
やっぱWoogleの資金力か。
舗装に変わり少し走ると、門というより、ゲートと言った方がしっくりくる入り口が見えてきた。中では何か作業でもしているのか、砂煙が上がってる。
「よくこんなデカいもの作れたな。あそこだろ、基地って」
「世界最大の企業が絡めばね――ん?」
やっぱり資金力かよ。それよりなんだ、宗っちの表情が険しくなったぞ。
「どうかした――――――――なぁ!」
口を開いてる俺の視界に飛び込んできたものは――巨大な竜だった。それもあちこちに散らばって、建物を壊してた。
「おいおい、何が起きてる!」
「いや、僕に聞かれても……こんな筈じゃ」
恐らく飛んで侵入してきたのだろう。赤色、青色の竜が辺り構わずにブレスを吐きまくってた。次々に炎上する建物。鉄筋コンクリートが熱をもち溶け出す。
「ははっ……さぁ。ドライブはおしまいだ。帰ろうか。宗っち」
「いや、でも、僕のパソコンが……」
パソコンを気にしてる場合かよ。小型ジェット機くらいの大きさの竜だぞ。しかも複数の……。そんなもの相手に、戦えと? いやいや。あり得ねぇだろ。俺だって一番強い魔物は、ゴブリンとオークしか倒した事はねぇぞ。
ゲートの前でUターンをしようとしたら、宗っちがイムニーから飛び降りた。
「ゲッ。まじかよ」
「我、時空の女神シンデレーナに願う。かの者へ無限の重さをかけまえ。グラビティ!」
「やりやがった――」
宗っちはゲートの外側から赤竜に対し魔法を使った。魔法は竜の上空に広がると、ズンッ、と地面が音を鳴らす。
「うぉっ、まさか効いてるのか!」
一体の異変に気付いた他の赤竜が、こちらを睨む。そして口を開いた。
「ブレス、ブレスが来るぞ! 結界、結界はれぇぇぇぇ!」
「我、光輝の女神ヒキコモリーナに願う、かの者を守りし神の――」
「おせぇぇぇ。それじゃダメだ! エグザガーダル!」
俺と宗っちを結界が包み込む。ゴゴゴォォォォー。ぐっ、ものすごいマナの波動が俺たちを襲った。しかし、あれ……暑くねぇ。実はたいした事ないとか?
後ろを振り向くと、両端のコンクリートの壁が灼熱に彩られ溶け出した。
「はぁ? 俺のイムニー……」
ふぅ、辛うじて結界の範囲内に入ってて無事だったか。よかった。
赤竜はブレスで俺たちを消し飛ばした気になってる。ブレスが収まり、俺たちを視認すると、グォォォォ、今度は威圧し始めた。でも、この威圧ならサラフィナの方が凍り付く。あっ、最近の麗華さんもだな。
「やっほーい。魔法の効果も確認できた。宗っち、やるぞ!」
「何だか急にご機嫌になったね」
当然だろうに。死なないと分かれば、後はゴブリンと同じだ。しかも異世界でお約束の竜ならなおさらのこと。デジカメで撮影してて良かったぜ。本来は、こんなものを異世界に作ってたんだぜ。と、報道するためだったけどな。
基地は、ドロッドロに溶けちまったから仕方ねぇ。竜討伐動画に切り替えだ。
俺はイムニーを仕舞うと、フライで空に上がった。上空からなら良く見える。竜の数は全部で五体。さすがに戦車も役に立たなかったみたいだな。溶けた鉄の塊が所々に見える。建物は、ほぼ全壊か。宗っちの言ってたハマーってのはどれだ。
おっと、まだ使えそうな車があったぞ。
「ちょっと補充してくるから、宗っちは魔法で牽制しといて。よろしく」
「よろしくって――何で空を飛べるんだ!」
ふっ、宗っちが良い子にしてたら、エリフィーナが教えてくれるかもな。
俺は、炎上していない車を選んで、次々とアイテムボックスに収納していった。
「おっ、アレなんかも良さそうだな」
建物の陰に隠れて止めてある一台のオフローダーを見つけた。すぐ側に近づいて、収納しようとしたら――入らなかった。あれ……何でだ。まさか容量の限界か。それはあり得ないはずだ。それだと無限収納の意味がないからな。
良く見たら、後部座席に人が乗ってた。ちっ。生存者がいたのか。
――んじゃイラネ。
後部座席から視線を移し、助手席を見るとノートパソコンを発見した。
「もしかしてこれがハマーなのか?」
俺がハマーの前で考えてる間にも、宗っちは奮闘している。今は、三体目の竜を重力魔法で押さえ込んでいた。さすがにコレを忘れたら、宗っち怒るだろうな。というよりも、これからも家に来るって事だろ。それは避けたいな。
コイツだけ下ろせねぇかな。やってみるか。
「おい、爺。降りろ。今すぐにだ!」
ドアにロックは掛かってない。手で引いたら簡単に開いた。
「早く降りろ――」
「何だ貴様は! ぶひゃ――」
鬱陶しいな。貴様とか偉そうだったんで思わず手が出ちまった。鼻血を出して、地面に転がる爺さんを横目に、ハマーに手を触れる。よし、今度は収納できた。
さて、それじゃ宗っちの応援に行くかな。
再度、上空に上がる。
「へぇ。宗っちもなかなかやるじゃん。ただ――詠唱はおせぇけど」
まずは宗っちが足止めした竜からだな。『ワーダーギラー』
俺が魔法を唱えると、赤竜の足元に水が停滞しだす。そして、赤竜を挟み込むように柱ができた。『まだまだぁ』俺のかけ声とともに、柱は鋭利な刃物に変わる。次の瞬間――両脇から竜を切り刻んだ。
真っ二つに切り刻まれた赤竜から、赤い血が噴き出し竜の足元を濡らす。
「まずは一体」
絶命したのを確認した俺は、次の獲物に取りかかる。
「さすがに火属性の赤竜に炎はねぇよな。んじゃ、これだ。ミーティア!」
上空に夥しい数の隕石が発生し、それがもう一体の赤竜に襲いかかる。宗っちに拘束されたままの赤竜は、呆気なくつぶれた。
「君の戦い方は美しくないね。素材として再利用できないじゃないか」
おっ、そう言えば、竜の素材は高く売れるのか。すっかり忘れてたぜ。
「分かってるよ。次からはキレイに倒す」
ヤレヤレといった面持ちで俺に視線を向ける。だが、刹那の間には赤竜は氷の彫像へと変わっていた。ちっ、お手本って訳か。
でも、俺の魔法は威力が高いからな。アイスペリオンだと全身を凍らせた後にバラバラに崩れる。ダメだな。やっぱ、これしかねぇか。『ワーダードレイン』
俺の指先から極細の水流が生まれる。それを、ブレスを吐き出そうとしている青竜の頭に叩き込んだ。グワァァァァ。大地を揺るがす雄たけびを上げた青竜は、力無く倒れる。さぁて残り一体だな。
そう思ったら、宗っちが魔法を放った後だった。
結局、宗っちが二体、俺が三体倒した。ちっ、素材集めとしては宗っちに負けたか。少しだけ残念だが、当初の目的は達成できた。
車三台と宗っちのノーパソも回収できたし。さて、帰るか。
俺が宗っちの所に戻ると、さっきの爺さんと宗っちが言い争いをしていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
本日はここまでにします。午後からは新作を書きます。