第123話、宗っち、亭主関白ぶる。
「さぁ、そうと決まれば行こうか!」
あらら。急に宗っちが元気になった。俺のテンションとは真逆だな。
「それじゃ、行こうか。父上からの命令書はここにあるしね」
用意周到とはこのことか。王子は丸めた羊皮紙を懐から取り出し、兵士に渡した。全く、なんで宗っちの保護者になってんの。俺。
そして、侯爵邸に帰ってきた訳だが……。
「へぇ。意外と安っぽいノートパソコンを使ってるんだね」
ぶっ。余計なお世話だ! だいたいひとの家に上がり込んで最初の言葉が、『パソコンはどこ?』だからな。全く、廃人か!
「へいへい。一流のWooTober様はどんなの使ってるか知りませんけどね。どうせぱちもんですよ」
「うん、これは計算をする箱じゃなかったのかい?」
クッ……王子が懐疑的な視線でノーパソ見てるし。宗っちも余計な事は言わねぇよな。知らねぇぞ。これだけでも利用価値は大きいのに。
「えっとですね殿下、これは計算は勿論ですが……。私の世界では、世界中のありとあらゆる情報を探せる便利ボックスなのです。例えば、こんな風に――」
ば、馬鹿野郎。余計な事を始めやがった。宗っちに使われたら俺が使うバッテリーが不足するんじゃねぇか。しかも、某ニュースサイトを開いて、リアルタイムの映像、情報まで見せやがって。
「へぇ……これはすごいね。というか、世界が違う。ん、当たり前か。だが、なんだこれは、箱がものすごい速度で走ってる。しかもこの女性の服は……なんたるハレンチな。全くもってうらやま……」
「ハドロ様!」
「えっ、フリーシア! これは違うんだ。私は決してやましい気持ちではなくてだな。そ、そう。異世界への好奇心というヤツだ」
ぷっ。ざまぁねぇな。王子でも嫁さんに頭が上がらないとは。
まぁ、俺もハドロ王子のことは言えないけどさ。フリーシア姫に耳を掴まれてハドロ王子は退場していった。
「殿下とあろうものが、尻に敷かれてるとは……何とも」
「ん? 宗っちは違うのか?」
「僕が? そんな訳ないじゃないか。僕は亭主関白だよ」
「マジかよ」
「でなければ三人も妻を娶れないだろ? やっぱり男がリードしないとね」
すげぇ。俺なんて女性陣に囲まれたら反論すら許されねぇぞ。今度から宗っちを先輩と呼ばねぇと駄目だな。
「生憎、僕のノーパソはハマーの中に置いてきたからね。しばらく借りるよ」
「いや、貸さねぇし。それにバッテリーだって無限じゃねぇんだぞ」
「それは困ったな。それだと僕がネットをできない。約束したよね?」
はぁ、約束ね……確かにそんなことを言ったような、言わなかったような。
あぁぁぁ、面倒くせぇ。何でこうなった。おかしいだろ。目の前ではご機嫌な様子でネットサーフィン始めちゃうし。これならさっさと宗っちのノーパソ取ってきた方が良いんじゃねぇのか。
「ところで宗っち」
「なんだい?」
「宗っちのパソコンってどうやってバッテリーを充電してんの?」
俺でさえソーラーパネルで充電してるからな。多分、同じ方法だろうけど。もし、予備のバッテリーとかあるなら俺も使いたい。
「何を言ってるんだい。充電なら車のシガーソケットから急速充電してるにきまってるじゃないか。だいたい、ソーラーパネルで充電とか。ププッ」
くそぉぉぉぉ。何が、『君くらいなものだよ』だ!
ロケ先に電車で通ってた俺に、そんなものがあるかよ。金持ちの宗っちだからできるんだ。何から何まで価値観が違うな。さすがプロ。これがトップとの差か!
「ふぅん、WooTobeではまだ僕が人気ナンバーワンなんだね。ふふっ。しばらく留守にしてたから落ちたと思って心配してたんだが……」
へいへい。どうせ俺は底辺ですよ。というか、もうWooToberですらねぇしな。石神のおかげで。パラパラ動画の一配信者じゃ仕方ねぇけど。だが、見てろよ。いつかは剛人さんとデカくしてみせるぜ。
「それで宗っちさん、先ほどの話ですけど」
「おぉぉぉ、これはエルフのお嬢さん。短い髪がステキだね。僕のタイプとしては伸ばした方がいいかな。僕の四番目の妻になるかい?」
「はぁ。それは……、そうではなくてですね。そろそろ、勇者様、宗っちさんをこちらに飛ばした方の名を……教えていただけませんか」
宗っちすげーな。サラフィナの母親にまで色目使ってるよ。俺なら怖くてできねぇけどな。サラフィナも微妙そうな顔してるし。そりゃ目の前で母親を口説かれたらそうなるか。おっと、そんな事よりも勇者だ。勇者。
「うん。石神くんで間違いないよ。彼が勇者だったのは知らなかったけどね」
「――やっぱり」
はぁ。確定か。部屋の空気が一気に重くなったな。特にエルフの二人が。
当然か。この世界を魔王から救った英雄が、今度は敵なんだから。
聞けば、かなり強かったって話だからな。俺も気合い入れないと危ねぇかも。
「ところでいつまで俺のパソコン使ってんの?」
「うーん、久しぶりだからね。一二時間くらいは使いたいかな?」
「却下に決まってんじゃん。ダメ。バッテリーだって無限じゃないんだぞ」
「そうは言ってもね……さっき約束したよね?」
ぐぬぬ。確かに条件を飲むとは言ったけどさ。やっぱ、宗っちのパソコンを回収すんのが先かなぁ。あれ、なんだか廊下が賑やかになったような……。
「「「宗方さまぁ!」」」
いきなりドアが開いたと思ったら、ドレスに身を包んだ年上の女性たちが入ってきた。それも三人とも二十代後半にしか見えない人たちが。
「やぁ。アンナにミリーにマリアンヌ。よく着たね」
もしかして……コイツらが宗っちの嫁なのか。ロリコンじゃないのは褒められるけど、どうみても全員年上じゃねぇか。もしかして、陛下も王子も行き遅れの女性を……ハッ、だから貴族連中は簡単にこの話に乗ったのか。
おっと、それより。よく来たね、じゃねぇよ。何度も言うが……ここは俺の家で、俺は新婚だ。あ、宗っちもか。
「あらっ、宗方さま。女性の絵なんて見て、どういう事です?」「本当ですわ」「まさか……もう新しい女を見つけたと?」
「いやぁ、そんな訳がないじゃないか。これは彼のパソコンだよ。僕のじゃない」
あれ、亭主関白はどこにいった?
なんだか分からない内に、女性たちに拘束されて宗っちも退場していった。
「…………………………」
「……………………………………」
「騒々しい人でしたね」
「どうしましょう、私。結婚を申し込まれましたけど……」
「それはダメ。お父さんが泣くよ」
「そうよね……」
何なのこの親子も。
とりあえず、頭の中を整理しねぇとな。まず最優先は――宗っちのパソコンか。新婚の部屋に何度も来られたら困るのは俺だ。その次は、勇者だが、あっちの世界にいる以上は手が出せねぇ。と、なると、あとは例の原爆の爆心地を偵察か。
どこまで飛んで、どんだけの被害が出たのか調べないとな。
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