第122話、タケ、やり込められる。
ネットがしたいね……やっぱり日本のWooToberだな。
ネットがないと何もできない。時間もつぶせねぇ。それは俺も同感だよ。
でも、この魔法陣のある部屋でそんな事はできねぇ。
「まず、外で何が起きてるかは話せる。次にネットをしたいってのは……気持ち的には理解できる。出来すぎるんだけどさ、この部屋では魔法は使えねぇ。宗っちが知ってるかどうかは知らねぇけど、異世界から日本へネットをつなぐには魔法を使う必要がある。だから無理だ。で、最後のここから出たいっていうのは――動乱に加担しておいてそんな都合良く行かない事は分かるよな?」
「んーそれだと答えられないね。君たちがここに来たって言うことは、また負けたんでしょ。デスチルドさんは」
んあ? 誰だ、デスチルド?
「なぁ、そのデスチルドってのが宗っちの上司なのか?」
「それについては傭兵たちの証言と一緒だね。その、デスなんとかが指揮しているとは僕も聞いてるよ」
チッ。王族は情報を隠してやがったのか。首謀者の名前を知っているなら教えろよ。最初から分かってるなら、動画で暴露してやったものを……。
「まぁ、そう言うことだね」
こんな事は柄じゃないけど、やってみるか。
「宗っちたちをこの世界へ送っているのは――石神明だな」
ん、いま、眉が少し動いたか……もうちょい揺さぶるか。
「石神明は、この世界の元――勇者だ!」
おっ、今度は分かり易いくらい眉があがったな。やっぱり宗っちは石神について知ってるみたいだな。ただ勇者だったとは知らなかった。うん、きっとそうだ。
「今の宗っちの反応で聞きたいことは終わった。協力的じゃなくて残念だよ。宗っち……」
おいおい、そんな絶望的な顔すんなよ。動画の中じゃもっと自信たっぷりじゃねぇか。だがまてよ、今の表情を動画にアップしたらウケるかな。この面会は全て動画で撮影している。万一、石神と宗っちが友人関係だった場合、宗っちは無事だよ。引き取りたいなら異世界へ来い。そんな誘いの意味を含めた撮影だ。ただし、カメラの解像度は低い。性能面では劣るスパイカメラだからな。
「ちょっと待ってくれ。話す。話すからネットをさせてくれ!」
「あのさ、俺の話聞いてた? ここで魔法は使えない。だからたとえ異世界からネットにつなぐことができても無理なんだって。魔法を使ってネットに接続する事くらい知ってるんだろ?」
おっ、意外そうな顔してるな。まさか、知らなかったのか?
「あははは。そうか。そうだったんだな」
うん? 何でこの状態で高笑いしてんだ。全く理解できんな。
「何に気付いたって?」
「君は異世界から日本への――ネット接続に成功している! 違うかい?」
あぁ。それな。
「違わねぇよ。確かに俺は成功させたし、日本ともやり取りはしてるよ」
えっ、今度は目をキラキラさせてるぞ。期待したって無駄だって。宗っちはこの塔から出られないんだからな。
「分かった。僕は全面的にこの国、ザイアーク王国に協力しよう!」
「だから、そんな簡単に――」
「よし! 契約は成立した。じゃあ、タケくんそういう事だから彼を引き取るよ。彼には死んだ国家魔法師の代わりにここの筆頭魔導教授になってもらう」
はぁ? もしかして、ハドロ王子が付いてきた理由って……コレか!
いや、でも大丈夫なのか。ここで宗っちを解放して、万一、外で暴れたら。
「なぁ、ハドロ王子」
「――なんだい」
「宗っちをここから出して、万一、寝返ったらどうすんだ?」
この世界に隷属の首輪なんてネット小説に出てくるアイテムはない。いわば、リードの外した犬と同じだ。その個体の気分次第で人に害だって与える可能性はある。自由になって逃げ出さないとも言えない筈だ。それをこの王子は――。
「うーん、大丈夫だと思うけどね。だって彼の奥さんがこの国の人だから」
「えっ…………………………」
何それ。俺でさえ最近結婚したばかりだというのに。
ほら見ろ。女性陣がドン引きしてるぞ。空気がシラけちゃったじゃねぇか。
というか、いつの間にそんな事になってんだ?
「いやぁ、同郷の者に知られるのは恥ずかしいね」
恥ずかしいねじゃねぇだろ。だいたいこんな塔の中で、どうやって相手見つけるんだよ。俺だって身近の人としか知り合う機会はなかったぞ。
別に悔しい訳じゃねぇけどさ。何て言うか、そう。判然としない。
「あのさ、宗っち。いくら監禁されてるからって……妄想の世界に入り込むのは良くないと思うんだ。俺」
なに、この小馬鹿にしたような視線は。俺、間違ってんのか。
「あははは。タケくん、彼は正真正銘。この国の女性と結婚してるよ。それも三人とね。フリーシアしかいない僕でもチョット焼けちゃうね」
「何だって……そんなうらやま――」
「タケさん」「タケ様」
うわっ。背後からすげぇ殺気が……。別に羨ましいなんて、少ししか思ってないよ。それより、宗っちがザイアークに来てまだ一月たってないよな。俺でも来て一月だったら、キグナスが死んで、アリシアが宿に引きこもって――。治療院でバイトに明け暮れながらサラフィナに魔法を教わってた時期だぞ。そんな恋愛する余裕はなかった。いつそんな時間あるんだよ。まさか、おまえか王子!
俺は王子を睨む。あっ、視線逸らしやがった。
「ははっ。タケくんが待遇を良くしろって言ってたからね。よほどの人物だと思った訳さ。それで、父上と相談して年頃の貴族の娘を数人紹介したら――思いの外飛びつく子が多くてね。あはは。本当に彼、モテモテで羨ましいなぁ」
おい、何この展開。宗っちも、『いやぁ、そんな事は……』とか言ってるし。
「そこまで話が進んでるなら、宗っちをここで拘束する意味ねぇよな?」
というか、王族が宗っちを取り込んだのなら、ここまで来る必要性も感じない。
「うーん、そうなんだけどね。一応、保険というか……カサノーバの例もあるからね。だから万一が起きた時のために……タケくんが押さえるっていう保険がね」
あぁ。なるほどね。そういう事かよ。王族だけの判断で、宗っちをここから出して事態が悪化したら――俺も、サラフィナも、麗華さんだって呆れるわな。
最悪は、もうこの王族死んだって良いんじゃね? って思うかも知れない。現に豚は女に飢えてるフリをして、簒奪を試みた。
さすがに二回目となれば、侯爵だって、他の貴族だって黙っちゃいねぇ。でも、宗っちを確実に押さえつけるヤツがいれば……。この場合は俺たちか。ここから解放しても文句は出ないと言う訳ね。そして、三人の娘の実家は優秀な魔術師の血統を残せる。少なくとも王家にその貴族たちは取り込まれたって訳だ。全く、裏でいろいろ動いてくれるぜ。陛下も王子も。
「さぁ、僕の出した条件を飲んでくれるかな?」
クソッ。宗っちと王家にしてやられた。最初から出来レースじゃねぇか。
宗っちがまさか芝居まで得意だとは思わなかったぜ。さすがWooToberの日本一だな。ついでに女ったらしでも俺の上を行きやがった。
認めたくねぇ。でも、認めるしかねぇ。
「分かったよ。さすが宗っちだな。要求は全部飲む、いや、飲むしかねぇだろ」
あれ、何だか俺だけ損してねぇか?
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