第121話、タケ、宗っちに会いに行く。
この人、今なんて言った? 『アキラ・イシガミ』
『ソウジ・ムナカタ』じゃなく……。誰だ。それは。少なくともそんな名前は聞いたことはない。ん、でも麗華さんの顔色が悪いぞ。何でだ……。
「麗華さん。どこか体の具合でも悪いの?」
「えっ、いいえ。何て言うか……いろいろあって忘れてたんですが……。あの、エリフィーナさん」
「はい。何でしょう」
「その石神明という方はこの世界にいらっしゃるのですか?」
うん。麗華さんの知り合いなのか?
「今はどこにいるのか分かりません。三百年前に忽然と姿を消してしまいましたので……」
はぁぁぁぁ? 三百年前って言えば、勇者がいた時代じゃねぇか。
まさか、その石神ってのが勇者なのか?
「もしかして、石神って人は勇者か?」
「はい。サラフィナからその話は聞いていると思っていましたが……」
エリフィーナが頷きサラフィナを見つめる。
「はい、私はお名前までは存じませんが、タケ様にはお伝えしました」
あらら。話がややこしくなっちまった。麗華さんも勇者と聞いてあぜんとしてるし。麗華さんと何の関係があるんだ。
「麗華さん、その石神って人と知り合いなの?」
同姓同名って事もあり得るからな。
「いえ。知り合いではありません。以前話した、興信所に依頼して教えられた名前です」
興信所って言うと、麗華さんの両親の事件か。ハッ――ウソだろ。まさか、両親を殺したのが、勇者。――なのか。
「ちょっとストップ! これ以上、ここで話してても埒があかねぇ。アイツに問いただすのが一番だ」
エリフィーナが『アイツ』とは、とか言ってるが。それに答えている場合じゃねぇ。もし、勇者が地球に戻っているなら。WooTobe側の魔法使いは魔族じゃなく、勇者って事だ。やばッ、滅茶苦茶鳥肌立った。
「そうですね。あの方をこちらに飛ばしたのが石神なら――」
「あぁ、そうだ。麗華さん。宗っちなら知っている可能性が高い」
「えっと、その宗っちとおっしゃる方が、勇者様の居場所をご存じなのでしょうか?」
うーん、エルフはどちらかと言えば、勇者崇拝だからな。話していいのか……。
エリフィーナの言ってる石神と、麗華さんの調べた石神。それと、宗っちが石神を知っていたら……点と点がつながって一本の線になるな。
それにWooTobeが異世界へ人と物を送れるのは確定してるからな。
かなりその線は濃厚だ。というか、もう確定なんじゃねぇのか。
なぜ、麗華さんの両親を自殺に見せかけて、殺害する必要があったのかは謎だけど。なんともきな臭せぇ。プンプン臭ってくるぜ。
「ともかく今は言えねぇ。陛下の許可を取ったら宗っちに会いに行くよ」
陛下からの許可は呆気なく取れた。
俺、麗華さん、サラフィナ、エリフィーナ、そしてハドロ王子の五人で王城跡地へ馬車で向かっている訳だが……。
「で、何でここに王子がいんの?」
「何でとは、ごあいさつだなぁ。タケくんの希望を聞いて、彼には悪くない扱いをしているのだけど……ただし、強力な魔法師ということで、監視も多いんだよ。そんな中に君たちだけで行かせられるとでも?」
あぁ、そういう事ね。要するに、仲間はずれは嫌よって意味か。
俺たちだけなら、宗っちが暴れても取り押さえられる。だけど、弱い王子に居られる方のが問題な気もするんだよな。
更地になった城内に馬車でずんずん入って行く。
「塔まで馬車で直行便とは、随分楽になったじゃねぇか」
途中にあった庭園も、茶屋も何もかも吹き飛んだからな。石畳じゃない分、馬車はだいぶ揺れるが歩きよりマシだ。
「フッ……、半分は君のせいでもあるんだけどね……」
何だよ、そのシラけた顔は。前回の話し合いで解決しただろうに。またぶり返すのか。この王子は。なんならここで原爆使ってもいいんだぜ。
あっ、それは侯爵邸も吹き飛ぶから無理か……。
「おっと、着いたようだね」
ちっ。王子と視線の応酬をしてる間に着いたか。それにしても仕事を失った兵士が多いんだな。塔の下に兵士が五人もいやがる。
「これは殿下。どうしてこちらに?」
「ああ。監視の任務お疲れさま。今日は上の魔法師に聞きたいことがあってね。それで護衛を連れてやって来たって訳さ」
『護衛ですか』と言いながら、俺たち四人を兵士が見る。
「少しお待ちください。上の者にも合図を送りますので」
何だか俺の時よりも厳重だな。まさか、俺より強いとか思われてんのか。ちょっと心外だぜ。俺の時は三人しか居なかった癖に。
しばらく待たされて、上から案内役の兵士が降りてきた。
「では、私が案内いたします」
あっ、コイツ見たことあるな。俺に剣を突き立ててここから謁見の間まで連れてったヤツだ。生きてたのか。チッ――。
「これは、タケ様。その節は大変失礼をいたしました」
プッ。俺の視線に気付いて慌ててあいさつしてきたし。分かり易いな。
「あぁ、その事は気にすんな」
ふふっ。俺も大人になったものだぜ。
そうしている間に、頂上に着いた。ここは前と同じか。最初の鉄格子があって、その次の鉄格子の中に当直の兵士が座ってる。が、王子の到着で慌てて直立した。
その後、宗っちの監禁されている部屋に通され、中に四人が入った。
「じゃあ、タケくん。何かあったら知らせてくれ。僕はここから話を聞かせてもらうから」
何だよ。結局中には入ってこねぇのか。
まさか、俺たち四人を中に入れて鍵閉めるとかねぇよな。そんな事しやがったらコレでドアを吹き飛ばすぞ。俺は、服の中に忍ばせた塊を握る。
魔方陣のある部屋に入る前に、アイテムボックスから手榴弾を出しておいた。妙なマネをしないとは思うが、保険というやつだ。
「おや。これは珍しい人が尋ねてきたね。元気そうじゃないか」
あぁ。宗っちは随分髪もひげも伸びたな。飯はちゃんと食えても、刃物の持ち込みは許可されてない。当然だな。自害されたら困るし。でも、俺が口添えしたからちゃんとした布団もあるんだな。これなら俺の時よりも好待遇だ。
「ああ、宗っちもな」
「最初にここに入れられた時は死にたくなったけどね。土のベッドとツボしかなかったからね」
「あぁ、知ってる。俺もこの城に初めて来た時に入れられたからな。もっとも、丸一日しか居なかったが……」
「あはは、君もかい。ウケる。くくっ」
やっぱ宗っちは大物だな。こんな生活でも笑っていられるんだから。
「でだ、今日来た要件なんだが……」
「聞きたい事は分かるよ。でも、それを教えるなら交換条件を飲んでほしい」
チッ。簡単には口を割らねぇか。さっきまでと雰囲気がガラリ変わりやがった。
やっぱり出たいよな。俺だってこんな牢獄に長くは居たくねぇ。
「で、交換条件とは?」
「うーん、そうだね。まずは外で何が起きてるのか知りたい。それと、ネットがしたい。可能であれば出たいかな」
はぁ。すんなり許可できると思ってんのかねぇ。
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