第119話、タケ、死にそうになる。
「タケさん、この鐘の音はもしかして」
「うん。前回、王城を爆破された時の経験を踏まえて、街中の教会に上空監視を頼んでたんだ」
おっと、屋敷の中も慌ただしくなってきたな。
「タケ様」
「タケさん――」
サラフィナと麗華さんも部屋に飛び込んできた。
「さて、先日の仕返しと行きますか!」
前回は城の中にいて対応が遅れたからな。今回は、ああは行かねぇぞ。
俺たちは全員で外に出た。既に王族たちも外に出て上空を見ている。
「おぉ、タケよ。あの空に浮かんでいる黒いヤツがそうなのか?」
陛下に言われ、俺も空を見る。うん、まだ距離はあるけど、飛行機雲を引いてるな。この世界にあんなものはねぇ。あれはジェットエンジンだ。
「あぁ。陛下、あれが飛行機だな」
「サラフィナ、俺は空から倒す。サラフィナたちは地上から援護を頼むよ。結界だけは忘れないようにな」
「タケさん、ご武運を」
「あぁ。麗華さんも無理しないように。最悪は地下に逃げ込むんだよ」
「タケ様、こちらはお任せください」
「うん、頼んだ」
俺はサラフィナたちに地上の事は任せて、フライで一気に上空へ飛んだ。俺が空を飛べるのは、工作員の件でバレてる。今更だから、隠し事はなしだ。
飛行機と同じ高度まで上がってみると、初めて向こうの機体のすごさが分かる。高度一万五千メートル。
普通の旅客機が三千メートルくらいだから、その五倍の高度だ。
「なるほどねぇ。高度が高い分だけ速度も速いって事か」
二機の機体は、すぐに近くまでやって来た。
フライを使うのが遅れてたら間に合わなかったぜ。既に腹は開いてる。という事は、いつでも爆撃を行えるって事か!
先頭のB―52からパラパラと連続して爆弾が投下されてしまった。
――っち。間に合わねぇ。
「ホーリーライツ!」
急いで詠唱したが、その間にもグングン近づいてくる。上空に黄色いマナの塊が集まり、先頭の機体にレーザーの雨が降り注いだ。次々に焦げ目がつきだし、穴が開いていく機体。レーザーのどれかが燃料タンクを直撃する。
黒煙をあげた瞬間、どぉぉぉん――、機体は爆発した。
「さすがに投下された爆弾まで追いつかねぇ。くそっ」
機体が一機だけなら、このまま地上に飛んで爆弾は処理できた。だが、まだ一機残っている。こっちをつぶすのが先だ。俺は次の機体にも同じ魔法を使う。
「ホーリーライツ!」
だが、上空にマナが集まる前に、一機目と全く違う塊が投下された。
投下された爆弾から――落下傘が開く。そうしている間に、ホーリーライツが機体を焼いた。黒煙をまき散らしながら、地上へ落ちていく二機の機体を確認する。
俺は王都を見下ろした。侯爵邸から次々に稲妻の魔法が放たれ、最初に投下された爆弾を空中で破壊していた。
「サラフィナもやるじゃん。ん、誰だ――あれ」
侯爵邸から魔法を放っているのはサラフィナで間違いない。だが、もう一方の商店街の方からも似たような魔法で迎撃している人がいた。少なくとも、麗華さんではない。麗華さんは風の結界を使って侯爵邸を守っている。
何にせよ、援護してくれるなら甘えた方が得策だ。
最初の一機目が落とした爆弾はどんどん数を減らしていく。この調子なら地上からの攻撃だけで回避できそうだ。
ホッ、と一息つき、落下傘に吊された爆弾を良く見ると、そこには核のマークが入っていた。
「げっ、マジかよ。ウソだろ………………」
マズい。あれはマズい。あんなもの空中で爆発させたら、被害が余計に広がる。
俺は急いで落下傘の付いている爆弾までテレプスで飛んだ。落下傘の影響でゆっくりと落ちてくる。まだ少し時間はあるな。俺は急いで王都全体を包み込むイメージでエグザガーダルを詠唱した。サラフィナは予定外の行動に迎撃を止める。
「良く気づいたな。さすが師匠だぜ。だが、もう一カ所のヤツか……」
サラフィナは魔法を放つのを止めたが、商店街から魔法を使っているヤツの迎撃は続いてる。クソがッ――。このまま原爆に魔法を使えば――。やべぇ。鳥肌たった。とにかく、何とかしねぇと。
俺も落下傘の降下速度に合わせて降りる。人間の三倍はあるデカい塊だ。
何としても、地上からの魔法が届く前に処理しねぇと。
黒光りする爆弾に手を触れ、アイテムボックスへ収納した。
ホッ。なんだ。余裕じゃねぇか。と思った瞬間――、二発目の爆弾の落下傘が絡まった。絡まった事で落下速度が速くなる。
「――ヤバい。ヤバい。ヤバい。追いつけ、追いつけ」
テレプスで先読みして飛ぶが、思った以上に落下速度が速くて追いつかない。
もう一度、テレプスを繰り返すがタイミングがずれる。
ちくしょぉぉぉ。魔法の詠唱に対して、この速度だと追いつかねぇのか。
俺は回収するのを諦めて、地上に降り立った。
連続して落とされた爆弾はまだ残ってる。そして、一番厄介なデカブツも。
何かないか。何か――。
とにかく、アレを空中で爆発させたら負けだ。
俺は、はやる気持ちで思考を回転させる。
水はダメだ。火は絶対ダメだ。土で何とかできるとも思えねぇ。
結界で――ダメだな。戦車の砲撃でさえ反動がキツかった。原爆相手に結界がどこまで効果があるのか試してる余裕はねぇ。
異次元に――そう考える。あぁぁくそっ。異次元ってそもそも何だよ。
先日、初めて使った魔法だ。万一、原爆と一緒に街まで巻き込んでしまったら。
あぁぁぁわかんねぇぇぇ。どうする、どうすれば。
あっ、良い魔法があるじゃねぇか!
でも、できるのか。このコンマ数秒しか余裕のない中で……。
ええい。やるしかねぇ。
脳内で、次々と魔法を構築する。
最初はこれで、次はこれ。最後はこれだな。
――――いっけぇぇぇぇぇ。
「タイムブレイカー」「テレプス」
俺は原爆に対し、一秒だけ時間停止を行う。そのまますかさず、その場所まで瞬間移動した。が、思ったよりもタイミングが合わない。
手で触れようとしたが、あっという間にすり抜けた。
――チッ――次だ!
「ウインドワーク」
落下速度がマックスになる前に、横風を操作した。ゴォォォォォォーッ。ものすごい風圧が原爆を横殴る。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」
気合い一閃! 体内のマナを全部出し切るイメージで原爆にぶつける。
ハリケーンが横に吹き荒れ、そのままの勢いで原爆を吹き飛ばしていった。
「あれ……どこまで飛んでいくんだ…………」
原爆は、王都から遙か北の彼方へ飛んでいった。そして、数十秒が経過する。
遠くの景色が真っ白に染まると、キノコ雲が上がった。
風圧が市壁を揺らす。ゴゴゴゴォォーー。しかし、それもすぐに収まる。
「フッ……やってやったぜ」
マナを出し切った俺はそのまま商店街へと落下していく。
「ははっ。クソッ。アロマとの結婚も残ってるのに。俺死ぬのか……」
体内のマナを使い切り、俺を包んでいた結界も、王都に張った結界も切れた。このまま地上へ落下すれば――即死する。
ふらふらの状態で視線を地上へ向けると、誰かが俺に魔法を掛けた。
重力魔法で操作された俺の体は、ゆっくりと地面に着地した。
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