第117話、タケ、氷の微笑に敗れ去る。
I:Dさん、あれはマズいですよ。映像のプロが拡大したら、B-52だってバレちゃいましたから。Fさんもカンカンでしたよ。
D:ええい、うるさい。これというのも君があんな魔法師を寄こしたせいじゃないのかね。日本では有名だと言っても、しょせんはあの程度の男だったという事だ。名案があるなら聞くが――。
I:名案なんて、あれだけ強くなられるとありませんよ。僕がそっちに行くのが名案と言えば名案かなぁ。でも、気が乗らないんですよねぇ。
D:君が来られないと言うのなら――アレを使うだけだ。
――OFFLINE
「あらら。またハゲのお爺ちゃん怒っちゃったよ」
「あはは。甘く見すぎなのよね。魔法師を」
「うーん、それもあるけど――現代の化学兵器に固執し過ぎなんだよね」
「そんな事よりも、ゲームの続きやろ。今度は負けないからッ」
「だねぇ。フェローのお爺ちゃんも面倒は見切れん。なんて言ってたし。ハゲのお爺ちゃんは死んじゃったりしてね」
愉快そうに物騒な会話をしていた少年と少女は、手に持つコントローラーのスイッチを入れた。大きな画面には対人格闘のキャラクターが映し出される。
「じゃあエリーは旋風拳の使い手ね」
「それじゃあ僕は――魔法使いかな」
少年の選んだキャラは、タケが得意とする炎の魔法の使い手だった。
* * *
「それで、なんでこの部屋にハドロ王子が来てる訳」
全く、油断も隙もあったものじゃねぇな。俺が少し街へ出ている間に、部屋に入り込むんだから。
「タケさん、一応お断りしたんですけどね」
「うん。麗華さんの責任じゃないから。悪いのはこの王子だから」
善意で泊めているというのに、この王子は。出がけに、充電のために窓際に置いたソーラーパネルとノーパソに気づきやがった。勝手にノーパソのモニターを開くし。帰宅したら電源まで入ってたなんて悪夢だろ。
「それで、これはどう使うんだい?」
どう使うじゃねぇよ。教えて簡単に使いこなせる訳がないだろうに。文字だってこっちの言葉と違うし、アイコンだってどれを開いて良いのか。それすら分からないのに、どうやって教えろと。でも、留守の間にいじられるのも面倒なんだよな。
はぁ、早く城の建設終わらねぇかな。まだ部材すら運ばれてないけどさ。
「これはいろいろな計算をする道具です」
これなら興味もなくなるだろ。小学生だって勉強に使うと聞けば、興味を失うからな。
「ほうほう、それでどんな計算を――」
あちゃ、失敗かよ。なんだよこの優等生は。計算なんて問題がないとできないし。普通に電卓を出せば良いのか。さっさと飽きてもらおう。うん。
「これが計算する機能です。銀貨千八百五十枚を八回支払うといくつです?」
「むっ、それは難しいね。ちょっと待って――」
「いや、いいですよ。すぐ答えは出ますから」
俺は電卓を使ってサクッと計算した。これで納得して帰ってもらおう。
「答えは一万四千八百です」
「えっ――本当に?」
疑うくらいなら来るなよ。面倒くさいな。
「本当ですよ。なんならご自分の計算と比べてみたらいかがです」
うはっ、懐から羊皮紙とか出して計算し出したよ。にしても、いつもペンと羊皮紙を持ち歩いてんのか。この人。おっ、意外と早かったな。
「おぉ、本当だ。すごいね。こんな複雑な計算を一瞬で解くなんて」
いや、別に複雑でも何でもないでしょうに。ただのかけ算だし。
「それじゃあ。次はこれを計算してみて。大理石が白金貨二万八千枚。石材が白金貨三万九千枚。工事費用が白金貨一万二千枚。その他……」
「全部で白金貨が十三万七千六百三十。で金貨が五万九千三百。銀貨が五十三万八千九百二十ですね」
なんだ……これ。
「おぉ、なるほど。助かったよ。さっそく父上に提出してくるね」
あっ、なるほど。察したわ。城の建築費用の計算を任されてたってことね。
クソッ。いいように使われただけかよ。しかし、マズい物がバレたな。これからも頻繁に来そうじゃねぇか。
「ふふっ。タケさんもお人よしですね」
「麗華さんはそう言うけど、ノーパソの本当の使い道なんて複雑過ぎるでしょ。全部教えるのに何年掛かるか――」
「だからですよ。これは動画を保存するための機械です。そう説明すれば、きっと興味を失いますよ。動画は先日も見せましたから」
そうかな。それはそれで、「他の動画も見せてくれ」とか言われそうだけど。
「いろいろ動画を見られるのはチョットね」
「あぁ。Mのフォルダーに入ってるエッチな動画とかありますものね」
「えっ……………………………………」
いつバレたんだろ。そんな動画を見せた事なかったはずだけど。やべぇ。汗出てきちゃった。俺の顔が真っ赤なのに、麗華さんは涼しげだな。
「えっと。いつ?」
「はい? 私これでも秘書検定の資格を持ってて、パソコンも得意なんですよ」
あはは、さいですか。俺の命とも言えるノーパソの中身は全部チェックされてるっぽいな。ハッ、まさか……。
「あのぉ、麗華さん」
「何でしょうか? 旦那様」
うわぁぁぁぁ。この流し目、誰かに似てると思ったらサラフィナかよ!
余計な事を教えやがって。麗華さんの目つきが、冷たい。
「もしかして、Mのフォルダーは……」
「はい。一緒に見てたサラフィナさんが不潔です! と仰って、削除されてました」
削除されてました。削除されました。削除されました。削除……削除……。
削除されました。で、思いっきり笑顔だよ。怖えぇぇぇぇぇぇ。
これじゃあ何でそんな事を。なんて言い返せねぇ。下手したらノーパソがフリーズじゃないフリーザーにされそうだ。何か良い言葉は――。これしかないか。
「う、うん。ありがとう」
「いえ、どういたしまして。もうタケさんには必要ないですからね。私もアロマさんだって居るんですから」
「はい、その通りです」
死ぬ前に処分したい第一位がパソコンの中身とは良く聞くけど、嫁にバレて中身を消されるとはね……。女って結婚すると強いのね。はぁ。
お読みくださり、ありがとうございます。
後は、夜に書けたらアップしますね。今日も暑いですが、体調にはお気を付けて。