第116話、タケ、結婚報告をする。
「うーむ。確かに城が炎に包まれたのは確認した。だが、後半は砂煙に覆われていてよく分からないではないか」
何を言ってるの陛下は。どう見ても、空爆の影響で崩壊しているだろうよ。城壁の残骸を見てもそれは明らかだ。それとも何か魂胆でもあるのか……。
「でも父上、私には先に床が崩れたように思えま――」
ハドロ王子が俺を擁護しようとすると、陛下がそれを止めさせるように視線で威嚇した。ん、やっぱり怪しいな。何を考えてるんだ。まさか、おまえもか。陛下。
侯爵邸の庭を壊した代償に、借金を背負わされたからな。ここは意地でも無罪を勝ち取るぜ。城を壊した賠償金なんて考えたくもねぇ。
「この城壁といい、どこを見て俺の魔法がきっかけになったと言い切れるんですかね。もしそうだとしても、あのまま放置していれば俺とハドロ王子以外は今頃――瓦礫の山に押しつぶされていましたよ」
「ぐぬぬ……」
フフッ。陛下め、悔しがってるぞ。やっぱり何かたくらんでるな。
「陛下、もう良いではないですか」
「レジアーナ、だが……」
「そもそも姫たちはまだ幼すぎます。この機会に取り込もうとする気持ちは理解できますが、タケくんはまだ新婚。時期尚早ではありませんこと」
へぇ。王妃様はレジアーナって言うのか。初めて聞いたぜ。おっと、そんな事よりもだ。姫たちと言ったときに幼い少女を見たよな。と言うことは、はっ。まさか、そういう意味なのか。おいおい、勘弁してくれよ。
「陛下、王妃様、その条件は飲めません。アロマさんもそう思うでしょ」
「えっ、はい。飲めませんわ」
まさか麗華さんが断ってくれるとは――ちょっと意外だけど、何だか嬉しいような。これってもしかして嫉妬かな。それにしても、アロマは今の話を理解できたのか。さすが貴族の女だな。ってそれはバカにし過ぎか。侯爵令嬢だから、色恋に関して、俺よりも経験豊富なはずだしな。
「それにタケさんはロリコンではないはずです!」
ぶはっ。麗華さん、そっちかよ。焼き餅でも焼いてくれたのかと思えば。
これで成人した女性だったらどうだったんだ。まぁ、陛下に押しつけられても困るだけだからな。確かに、金髪にブルーの瞳の女の子もかわいいとは思うけど。
あっ、もしかして今の会話の流れをこの子も理解できているのか。
一瞬目が合ったけど、思いっきり逸らされた。おっ、頬がほんのり赤くなった。冗談だろ。だとしたらませすぎだぜ。どう見ても小学生じゃねぇか。
「ごほん。まぁ、まだこの子も小さいからな。また次回にしよう」
いや、陛下。ちゃんと麗華さんの話を聞いていましたか。
麗華さんは、もう余計なライバルは要らないって言ったんですよ。
だよね。麗華さん。彼女と視線が合うと、薄く、ほほ笑まれた。
うん。これは良かったですねッ。そんな意味でいいんだよな。それとも、ロリは死ねじゃないよな。薄氷っぽいオーラが出てる気もするけど。うん。気のせいだ。
「とにかく、城が崩壊したのは旧帝国からの攻撃です。良いですね」
「うむ。そういう事にしておこう」
何がそういう事だよ。認めたくないものだな。とか言っちゃうのか。余計な謀略ばかり考えているなら――次は助けねぇからな。
* * *
ゲスト:おっ、始まった。久しぶりタケちゃん。
ゲスト:タケちゃん。最近LIVE配信やんねぇからな。
ゲスト:まぁまぁ、そう言うなって。きっと帝国の侵略の残務処理とかあるんだって。だよな?
ゲスト:それで、今日はなんだ。そこは部屋のようだけど。
フフフ。久しぶりのLIVE配信は楽しいぜ。この感じ。リスナーとの一体感がなんともね。言いがたいものがある。
「よぉ。皆。ちょっとご無沙汰だったけど、俺の動画は見てくれたんだよな」
ゲスト:どの動画だよ。戦車部隊を壊滅させた動画なら見たよ。
ゲスト:映像は小さかったけどな。麗華ちゃんも強くなったものだ。
ゲスト:あっ、そうそう。エルフはよぉ。サラフィナだっけ? 居るんだろ。タケちゃんはいいから。サラフィナ出せよ。
ゲスト:じゃあ俺は麗華ちゃんがいいな。麗華ちゃんはよぉぉ。
タカト:麗華はおまえらにはやらんと言ったろうに。
ははっ。相変わらず女性陣は人気だな。アロマを見たいって言うヤツは居ないようだけど……。無理もないな。魔法を使えないから目立たないし。
「あっ、お義兄さん。昨日送った動画見てくれましたか」
ゲスト:はぁ、誰に言ってんだ。タケちゃん。
ゲスト:まさか……タケちゃん。そういう事なの。お姉さんがいながら――。
ゲスト:えっ、上のひと。それって――。
ゲスト:なんだよ。サッパリ分からねぇぞ。
ゲスト:鈍いな。察しろよ。
タカト:うん――タケくん、あの話は言って良かったのかな。
あっ……。いつもの調子で口が滑った。まぁ、隠す事でもないけど。
「えっと、実は俺、先日――結婚しました」
ゲスト:えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ。
ゲスト:誰とって聞くのはこの流れからじゃ禁句だよな。
ゲスト:まさか!
ゲスト:やっぱり。ニートのタケちゃんに先を越されちゃうなんて。お姉さんショックだわ。
ゲスト:タカトさんをお義兄さんって呼ぶって事は――そういう事か! そうなのか! ざけんなよ。俺の麗華を返せ!
ゲスト:いや。おまえの物じゃないし。
ゲスト:俺にはサラフィナがいるから良いけど……エルフはよぉ。
全く。普通におめでとう。とは言えないのかねぇ。
ノーパソを挟んで正面に腰掛ける麗華さんに視線を向ける。
彼女は今、読書に夢中でそれどころではないな。アロマから借りた、この世界の貴族の恋愛を描いた小説にハマってる様子だ。
「麗華さんとの結婚式はもう済んだんだけど。実は、ちょっと事情があって遅れているけど――。アロマとも結婚する事が決まってる」
ゲスト:えっ。おま何言ってるの。タケが一夫多妻?
ゲスト:おいおい、冗談は髪形だけにしろよ。
ゲスト:はぁ。お姉さんもう立ち直れないわ。まさか、二人と結婚するなんて。羨ましいじゃないのよ!
ゲスト:アロマさんって、アレだろ。アリシアさんの姉の。
ゲスト:そうそう。侯爵家の令嬢だったはず。銀髪のキレイな人。
ゲスト:マジかよぉ。なんでこんな男にいい女が二人も――。
ゲスト:やっぱり異世界だからか! チートだからだろ! くそぉぉぉ。死ね。
ゲスト:タケちゃんが死ぬのは困るぜ。面白い動画が見られなくなるからな。でも、ハゲろ。ハゲて麗華とアロマに嫌われろ!
タカト:それで、今日のLIVE配信の目的は何なのかな?
ゲスト:お義兄さんはいいから。麗華を出せ! 俺が説得する!
ゲスト:説得って、もう結婚したんなら人妻じゃん。
ゲスト:人妻最高じゃん! 萌えぇぇぇぇ。
まったくどれだけ女に飢えてるんだよ。コイツら。フフッ、既婚者の余裕って良いものだな。ちょっとだけ優越感に浸れる。
「おっと、そうだった。これから重要な動画をアップするぜ。昨日、起きた事件の動画な。俺が撮影したのと、侯爵に撮影を頼んだ二つ用意した。内容は、まぁ見てくれ。ちょっと問題の映像だと俺は思う」
一度LIVE配信を停止した。さすがに生中継しながら動画のアップはノーパソのスペック的にヤバいからだ。よし、俺は十分に区切って分割した動画を、パラパラ動画にアップした。
そして、一時間後。
「どうだ。早い人は見てくれたかな」
タカト:これは爆撃機かな。まさかここまでするとは――。
ゲスト:これ、城が消し飛んでるんだけど。王族とか全員死んだの?
ゲスト:ちゃんと動画を見てこいよ。ナンバー八の動画に、タケちゃんが魔法で王族を救ったのがあったろ。
ゲスト:あの真っ暗な空間って何?
ゲスト:あれは宇宙だ!
ゲスト:バカかよ。宇宙だったら呼吸できる訳ねぇだろ。
ゲスト:それじゃあ何?
ゲスト:あれは――無だな。
ゲスト:結局分かんねぇのかよ。だっせぇ。
「あの動画の黒い世界は、俺の魔法で移動した異次元だ。俺もとっさの事で、他に手が見つからなかった。で、ありったけのマナを使って飛んだら、アソコにいた」
タカト:ふむ、異次元の世界か。どんどん人間離れしていくな。君は。
ゲスト:だな。殺人も慣れてきたじゃん。
ゲスト:殺人禁止な。あれは迷彩服のヤツらと、デブが悪人だからだろ。
ゲスト:あのデブが前に言ってた、ヤツか? 第四王子だっけ?
ゲスト:侯爵家でタケちゃんにケンカ売ったバカな。
「まぁ、俺の事と魔法の事はどうでもいいんだけど。問題は、ヤツらがザイアーク王城に対して空爆を行ったって事なんだけど……」
ゲスト:そう言われてもな。俺たちにはスケールが大きすぎて。
ゲスト:なんていう飛行機なのかアレだけでは判断できないからね。
ゲスト:映像のプロなら拡大して分かるんだろうけど……。でも、空爆されたのは分かったよ。
ゲスト:んだ。タケちゃんが生きてるからな。無事で良かったじゃん。
タカト:確かに画像を拡大しないと判別は難しいね。うちの機材でもそこまでは無理だろうから。いつものように世界中に拡散しとくよ。
あぁ。やっぱりか。望遠機能の使い方なんて侯爵には教えていないからな。
コレばかりは仕方がない。でも、映像のプロを介せば――情報は伝わるはずだ。
世界中にWooTobeの悪行が伝わればいい。黒幕を誘き出すために。
お読み頂き、ありがとうございます。
ちょっと長くなってしまいました。後一話書いたら修正の続きか、かおなしに取りかかります。