第113話、タケ、空爆に巻き込まれる。
「所で、その首から下げてるのは何かな?」
「えっ、あぁ。別に気にしなくてもいいですよ。ただのお守りです」
「それにしては、丸いガラスがはめ込んであるけど……」
「あぁ。そういうもんなんです」
俺はハドロ王子の案内で、地下通路を歩いている。侯爵邸で話を聞き、何か作戦でもあるのかと思えば、何もなし。城門が閉じられている以上、潜入するのは空か地下の二択になる。だが、空から潜入するのに発見されれば、人質の命に関わる。という訳で、俺たちは地下道からコッソリと潜入する事になった。
ちなみに王子には教えていないが、俺が首から下げているのはデジカメだ。
面白い動画を撮れば、またパラパラ動画にアップできるからな。
義兄になったタカトさんへの配慮を欠かさないのだよ。フフッ。
ちなみに女性陣は今回お留守番だ。別に銃相手なら俺一人で十分という事もあるが、女性陣は豚がお気に召さないご様子。視界に入れたら即処分しそうな勢いだったので、断ったのだ。
思えば、この王都に来た時からの因縁があったよな。特に侯爵家はアリシアの件で、王家に弱みを握られ豚を仕方なくムコ入りさせた。その結果、――侯爵は心労で倒れ、アロマという者がありながら妾や商売女を家に入れまくり。アロマは処女なのに豚は浮気で子供を量産と好き勝手してたもんな。終いには侯爵の病気を治した俺にケンカを売る始末。
侯爵家から籍が抜けた後も、麗華さんの身請けを巡って一悶着あった。
うん。これを因縁と呼ばずに何と呼ぶってヤツだ。さっさと始末して後腐れのないようにしないとな。フフフッ。
「えっと、さっきから何をニヤニヤしてるのかな?」
「えっ、何でもありませんよ。どうやって陛下たちを助けようかなぁって思ってただけですから」
「本当に?」
「ええ。本当ですって」
「あまり派手に壊さないでくれよ。これでも前回の帝国からの侵略で、市壁と門の修理費がバカにならない金額なんだから」
「それなら大丈夫ですって。ちゃんと全員眠らせますから」
「あぁ、そういった魔法も使えるんだったね」
「はい。他の魔法は内緒ですけどね」
第一王子もこの国の王族だからな。俺の使える魔法が多岐に渡るなんて知らせるつもりはねぇ。実際は五十近い魔法を使えるが、今ひとつ使い所が微妙というか。
自分でも、過剰だと思う訳よ。魔法は魔法師の内包するマナによって効果は変わる。俺の場合、どの魔法を使っても殲滅力があるからな。
おっと、前から何か来たぞ。
銃を構えた傭兵か……。俺はユニオンサークルを詠唱しサクッと拘束した。
「あれっ――」
「もう拘束しましたよ。足手まといだから、コイツらはここに置いていきますね」
恐らく王子を探して地下通路に入ったのだろう。傭兵二名を拘束し、さっさと先へ進む。俺は王城までの道を知らないからな。だから、王子に結界を掛けて先に進んでもらっている。
王子を見つけたら即射殺。そんな命令が出ているかは知らねぇけど。目の前で殺させるつもりはないからな。結界は保険というヤツだ。
「ここを曲がれば王城の下に出られるよ」
王子の案内で出た場所は、荷物が置けるように広く作られた空間だった。雪深い時期に、商人から購入した荷物を搬入する入り口だから当然か。
周囲を見回しながら階段を上ると、調理場の隣の部屋に出た。普通なら仕込みを行っている時間だが、当然誰も居ない。どこかに集められているのか?
それから陛下の部屋に向かって歩いているが、誰ともすれ違わない。普通、使用人や見回りの兵士とすれ違うものだが、それもなかった。
「随分しんみりとしてるな。人質はどこにいるんだ?」
「さぁ、王宮か、父上の部屋か、謁見の間か。ちょっと分からないかな」
全く、使えねぇな。俺の魔法のレパートリーにも検索系の魔法はねぇぞ。
一から探すしかねぇのかよ。と思っていると、いいタイミングで傭兵が歩いてきた。俺は兵士の後ろにテレプスで移動する。
「うぐぐっ――」
「動くな。動いた瞬間に消し炭にするぞ」
傭兵の背後に瞬間移動で飛んだ俺は、首に腕を巻き付け倒す。ゴブリンを初めて倒した時の絞め技だな。
傭兵の視界に入るように、もう片方の手に生活魔法のフィアで炎を付けた。
使い方次第では、生活魔法でも人は殺せる。うつぶせに倒され、鼻の頭を火で炙られた傭兵は首肯した。さてと、さっさと吐いてもらおうか。
「王族はどこにいる」
俺の問いかけに最初は被りを振るった傭兵も、炎の勢いを増すと口を開いた。
「ぐっ、王家の者は皆、謁見の間に集めた……」
炎を消して傭兵がホッと一息ついた所で、スリーピで眠らせる。後で拘束すればいいかな。今は人質の解放が先だ。
「謁見の間か……」
「ん、謁見の間だと何か問題でもあるのか?」
「あ、いや、あそこは入り口が二つしかないんだ。王族の出入りする奥の入り口と、謁見を申し込んだ者たちや貴族、兵士が入る謁見の扉だね」
「なら奥から入ればいいんじゃ?」
「カサノーバが玉座に座っているなら、どちらから入ってもすぐに見つかる」
うん、別に問題はないな。最悪、俺が姿を消して――あっ。さすがにそれはマズいか。今後の事もあるからな。姿を消せるなんて知られたら、後々厄介だ。
ならどうするか……。王子を先に中へ入れて、扉が開いた瞬間にテレプスで飛べば――よし。それでいこう。
「じゃあ先に王子が扉を開けて中に入ってくれれば、後はこっちで何とかするよ」
おいおい、何で懐疑的な視線を向けられてるんだ。別に囮にしようって訳じゃないんだから。そんな顔すんなよ。それに最悪、王子が攻撃を受けても結界がある限りはケガはしねぇよ。
「大丈夫なんだよね」
「ああ。大丈夫だ」
「はぁ、分かった。じゃあ、行くよ」
煮え切らない男だねぇ。キグナスみたいにドンッと行こうぜ。
そして歩く事しばし。俺と王子は謁見の扉の前まで来た。ここまで誰にも会ってない。今まで拘束した傭兵は三人か。中には後、何人居ることやら。
「それじゃ、開けるよ」
王子の号令に首肯する。王子はゆっくりと扉を押した。よし、右端の垂れ幕の陰に飛べるな。皆の視線が王子に集まっている間に、俺はテレプスで飛んだ。
その瞬間――ゴゴゴゴゴーっと航空機のジェット音が鳴り響き。あぜんと立ち尽くす俺を嘲笑うかのように、次々と爆発が始まる。激しく揺れる王城は、次々に崩壊が始まり、俺の立っている場所も足場が消えうせた。
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