第108話、ザイアーク王の企み。
ザイアーク王の執務室では、五〇代後半の武芸に練達した男が陛下と謀略にいそしんでいた。彼は、この国の軍事関連を取り仕切る、軍務卿のルジアースである。
「陛下、あのような者に公爵位を与えて本当に良かったのですか」
タケが侯爵家と縁組みするにあたり、不服を申し出た貴族は少なくない。この軍務卿もその一人であった。タケの実力を知っても、それだけで王家に継ぐ権力を持たせるには、いささか所か、かなり品位に欠ける。面子を重んじる貴族であれば尚のこと、タケを嫌う者がほとんどだったのだ。
「またその話か。魔法適性の継承は行われないというのが常識。であるならば、タケ一代だけ我慢すれば良い。アイツの子孫に魔法適性がなければ、難癖を付け降格させればよいのだからな。それよりも、民主主義国家となった帝国がこれ以上ちょっかいを出してこないようにするのが先決であろう?」
拘束した宗方と傭兵部隊に取り調べを行った。その結果、先日拘束した者の中に、最高責任者はいなかったという。逃走を謀ったデスチルドが健在である以上、楽観視はできない。それの対策として、今後もタケを有効的に使おうとザイアーク王は考えていた。
「で、傭兵といったか。あやつらが使っていた武器の使い方は分かったのか」
タケとの謁見の時にタケは知らないと答えた。であれば、直接使用者に聞けば良い。と、数人を拷問にかけ、銃の使い方を吐かせていた。
「はっ。最初は渋っておりましたが、ヤツらの目の前でカサノーバ様が拷問した所、あっさり吐きましてございます」
カサノーバが行ったのは拷問ではない。殺されるなら、カサノーバに取り入っていい思い(女遊び)をした方が得策だと考えただけである。
「はっはっは。まさかカサノーバにその様な適性があったとはな。で、その銃を使ってみてルジアースはどう感じた」
「はっ。魔法攻撃であれば、単発での攻撃を複数人で行う所でございますが、あの銃は――一つで数十人分の魔法師の働きをするものでありました。また、射程距離が、五百メートルはあるようです」
M二十七-IARが一分で発射する発射速度は七百五十から八百発である。
ただし、今回の傭兵が使用した銃は、マガジンが三十発のものだった。
魔法師が使う攻撃魔法の連射は早い者でも、一分に二発であることを考えれば、十分脅威である。しかもトリガーを引くだけなので疲労感も魔力切れもない。
では、魔法師よりも連射のきく弓兵の方がいいのでは。そう考えるが、実際は魔法と比べ、天候や風向きに左右されやすい弓兵は魔法師よりも格下の扱いだった。
「ほう、射程距離がそんなに――」
「はっ。実際に王都の市壁で距離を測り、試してみましたが、供述通りでございました」
弓矢の射程は最大二百メートル弱。魔法は魔法師のマナによって変動するが、それでも弓矢とそう大差はない。それから考えても銃の威力は破格だ。あの銃と戦車があれば、この世界を統一する事も可能だろうと王は考える。
「銃か……では銃を三十台王家の預かりとし、残りをその方たちの預かりとする。で、例の戦車といったか。あれは動くのか?」
「はぁ、それが……傭兵の中でも修理を専門に行うものに見せましたが、電気系統というものが破壊されているために使えないとの事です」
「そうか。チッ」
タケからは銃と戦車、それと捕虜の身柄を好きにしていいと言質を取っている。異世界では修理できないから不要だとタケは考えた訳だ。それを知らない王は、戦車を何としてでも動かせるようにしたかった。
「ですが、電機部品とやらを交換すれば使用出来ると申しておりました」
「何、それは真か!」
「ただし、修理のできる場所は、帝国領の樹海の中だそうで……」
王はしばし考えた後、ルジアースに命じる。
「――構わん。傭兵の話では帝国に強力な武器は残ってないと言っておった。傭兵数名とともに、グスタフ将軍に向かわせろ」
これで戦車が動くようになれば、こちらから帝国に攻め込む事もできる。タケが侵略に手を貸せば早いが、首を振ることはなかった。だが、今回の件は、圧倒的に帝国側に落ち度がある。ザイアーク王国から攻め入っても、問題はない。
王は銃の威力と戦車を見て、その力を過信した。力に溺れる者は、力に滅ぼされるいい見本になるとも知らずに。
王の命令を受けたルジアースは、懐柔した傭兵数人と兵士を連れて軍用トラックに乗り込んだ。この軍用トラックは、傭兵たちがザイアークに来るときに乗ってきたものだが、拷問の中で、王家はこの存在を知った。後になってタケも知らされたが、今回の侵略戦争で帝国側が使用した物の所有権を破棄していた。そのため、王国軍の預かりとなったのである。
「それにしてもこのトラックといったか、便利なものだな」
ルジアースはご機嫌な口調で運転席の傭兵に言う。
「はい。まぁ、俺の世界ではこれが普通なんですけどね」
傭兵たちは、今すぐ斬首刑か、王国のために働くのか、どちらか選べと二者択一を迫られた。その結果、ほぼ全員が王国の兵士に志願したのである。この者もその一人であった。もともと傭兵であった彼らにすれば、戦う場所と相手が変わるだけなのだが。王国の軍人であるルジアースの知るところではない。
「ふむ、異世界か。興味はあるが、攻め込む気にもなれんな」
ルジアースは手に乗せた銃に視線を落としてそう話す。この世界より高度な文明の世界に興味はあっても、決して手を出していいものではない。そう思う。
今の地球の文明で、より高度な宇宙人と接触する事が望ましいのかと聞かれれば、興味はあっても、距離を置くべきといった意見が出るのと同じだろうか。
そう言う意味では、ザイアーク国王とは違い、ルジアースは保守的であった。
「こちらの世界から向こうへ行けるかは別として、それが無難だと思いますよ。なんせ向こうには戦車を一撃で破壊する兵器がゴロゴロありますからね」
ルジアースは自分たちが欲する戦車ですら、一撃で破壊する兵器がある事を知り顔色を悪くするのであった。
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