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WooTober異世界に立つ  作者: 石の森は近所です
異世界激動編
113/208

第107話、タケ、結婚する。

 カーン、カーン。教会の鐘が鳴り響く中、俺は麗華さんとの結婚式を行う。この世界にはそのような風習はないらしいが、陛下の計らいで可能になった。

 シスターたちが両手に花を持ち、両脇の礼拝椅子には侯爵家と王家の者たちが立ち並ぶ。孤児院の子供たちが先導する形で、俺と麗華さんがウエディングロードを歩く。

 麗華さんの服装は、王家御用達の店で新調したものを着ている。無垢な白を基調とし、薄いブルーの刺繍が入ったプリンセスラインのドレスだ。一方、俺の方は、公爵家の紋様が入った黒いロングジャケットに、ブルーのパンツを履いている。

 二人、お揃いの色にしようといった意見もあった。でも、結婚式だけのために新調はできないので、取りやめになった。麗華さんのドレスは王家のパーティでも着ていける。だが、俺のロングジャケットは白だと目立つ。陛下より目立つ格好の服装は好ましくない。そんな理由で黒にした。


「この子たちかわいいですね」


 先導役の子供たちの格好も、白を基調とした服装で統一した。当然、費用はこちらもち。さすがに陛下から賜った金貨の十分の一は、今回の服装に消えた。


「う、うん、そ、そうだね」


 緊張と興奮が冷めやらぬ様子で、俺は、たどたどしく返事をする。

 それも仕方がない。隣には眉目秀麗、容姿端麗、才色兼備。全てを兼ね備えた麗華さんがいるんだよ。しかも、俺の花嫁として。一生に一度の晴れ舞台だからね。


 俺たちが祭壇前に到着すると、神父が用意された祝詞を読み上げる。

 これも、この世界にはないものだ。俺たちで考えて渡してある。


「掛けまくも(かしこ)伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)筑紫の日向(ひむか)の橘の小戸(おど)阿波岐原(あわぎはら)御祓(みそぎ)祓へ給ひし時に()()せる祓戸(はらえど)の大神(たち)諸々の禍事(まがごと)罪穢(けがれ)有らむをば祓へ給ひ清め給へと(もう)す事を聞食(きこしめ)せと(かしこ)み恐も白す。二人の行く末に幸あらんことを――では誓いの品を」


 日本の祝詞と神父のせりふを掛け合わせてるが。大丈夫だろ。と思った瞬間。


 俺たちの頭上に太陽が浮かび、一気に弾けた。


「「「「おおぉぉぉぉ」」」」


 今のは何だ――。

 驚いて後ろを振り向くと、サラフィナも、アロマも、公爵も皆が驚いている。中には、俺が何か魔法を使ったと思っているものも居そうだが、それはない。

 俺は何もしてないからな。

 麗華さんも驚いて俺の方を見ているが、ここは何事もなく終わらせよう。

 手順通りに、俺は胸ポケットから指輪を出す。俺の動きを見て、麗華さんも指輪を取り出した。思わず息をのむ。俺は麗華さんの左手を掴み、そのままゆっくり彼女の薬指に指輪をはめた。同じ動作で今度は麗華さんが、俺の指に指輪をはめる。


「では、新郎、新婦は誓いの口づけを」


 そして、その時がやってきた。


「麗華さん、いくよ」


「はい」


 はにかむ彼女のベールを捲って、彼女を片手で抱きしめる。そして、俺からひと思いに口づけをした。初めての時のような余裕はない。ただ、彼女の火照った体温だけが感じられた。

 その場にいる皆が盛大な拍手をする。

 俺は、体を離して麗華さんの顔を見る。すると、麗華さんは満面の笑みを浮かべてた。俺も照れながらそれに応える。これで名実ともに、俺たちは夫婦になった。


 俺たち二人は、反転してみんなの方を向く。アロマは、うん。なんだか羨ましそうな顔してる。サラフィナは良くわからん。あんまり人前で笑わないからな。侯爵はただ頷いてるし。侯爵婦人も笑みを浮かべてる。麗華をアロマと置き換えている感じがする。陛下は満足そうだな。第一王子はニヤついてる。王妃は、ほほ笑ましい物をみたって顔か。第四王子は呼んでない。

 孤児院の子供たちも指をくわえて眺めてる。女の子は特にそうだ。

 俺が旦那さんか。自分で言うのも変だが。実感が湧かねぇな。


「麗華さん、ステキでしたわ」


「アロマさんも結婚式をされてはいかがですか?」


「私がですのッ――」


 あぁ、アロマはニヤけちゃってるし。でも、こっちの風習ではお披露目イコール結婚だそうだからな。俺たちの挙げた式は新鮮に映っていたようだ。


「おお、ムコ殿。なかなかに素晴らしい演出であったな。感動しましたぞ」


 うん。それ俺がやった訳じゃないけどね。まぁ、そう思ってるなら別にいい。


「タケ様、麗華様、おめでとうございます」


「うん、サラフィナも参加してくれてありがとう」


「ところで、先程の魔法は――」


「おぉ、タケよ。見事な式であった。これで名実ともに公爵の任を引き受けてくれる訳だな。はっは。次は、アロマとの披露宴であったな。楽しみにしておるぞ。ああっはっは」


 サラフィナの問いかけは陛下の言葉に遮られた。まぁ、後で話す機会はあるし。別にいいか……。とは言っても、俺から話せることは何もないけどな。


 こうして麗華さんとの結婚式はつつがなく終わりを迎えた。


 そして、その晩。

 俺はソファーにくつろぎながら、ノーパソで初夜の勉強をしていた。


「なるほど、新婦が初めてなら、俺が優しくリードしないとダメなのか」


 ここからは俺も未体験ゾーンだ。しっかり勉強しないとな。お互い緊張しているから和らげてと。ただし、鼻息を荒くして野獣のようにならないこと。うーん、中々に難しいな。やっぱ欲望のままにってのはダメか。


「傘問答だって! 傘なんてねぇぞ。なになに……」


 あぁ、なんだ。本当に傘を使うわけじゃないのか。新郎が傘を持ってきたか新婦に聞いて、新婦が持ってきましたと答える訳ね。で、新郎が、差しても良いかと尋ね、新婦は許可を出すと。なるほど、奥が深いな。


「他はっと。何々……中世ヨーロッパでは、新婦は新郎の前に統治者に処女をささげる! はぁ? なんでそんな事するんだ。陛下とか侯爵がそんな事を言ってきたらぶっ殺してるぞ!」


 まったく。ろくな風習じゃねぇな。ただ統治者がスケベだっただけじゃねぇか。 この世界も中世と変わらないが、地球でなかった事にホッと胸をなで下ろす。

 既に、部屋には麗華さんのベッドが運び込まれている。彼女の着替えも、クローゼットに収納してある。俺は新婚さんなのだ。ムフフ。


 そして、その時がやってきた。


「タケさん、お待たせしました」


 バスタオルを頭に巻いて登場してきた麗華さんも、なんだか熱っぽい。風呂上がりだから当然か。薄いピンクのネグリジェが妙にそそられる。うん。俺の息子も準備はできている。だが、焦ってはダメだ。野獣になってはいけないと書いてた。


「麗華さん、傘は持ってきたかい?」


「えっと、雨なんて降ってませんけど」


「――――――――――――――――」


 あれ、どうなってんだ。初夜のしきたりじゃないのか?

 しばし、見つめ合う二人。


「あぁ、えっと。そうだよね」


「くすくすっ。タケさんも緊張しています?」


 楽しそうに笑いながら、そんなことを言ってくる。


「う、うん。俺も初めてだからね」


「なら一緒ですね」


「あ、風呂上がりなら喉が渇いてるよね。といっても。冷めた紅茶しかないけど」


 俺はテーブルの上に用意しておいたカップに紅茶を注ぐ。手が震えて、カチカチと鳴った。隣に座った麗華さんの体温が、やけに艶めかしい。


「ど、どうぞ」


「あ、ありがとう」


 ゆっくりとした所作で、彼女がカップに口をつける。思わずその行動を目で追う。麗華さんの喉がコクリと震えた。俺も、唾を飲み込む。


「はぁ。お風呂上がりなので助かりました」


 うっとりとした彼女の視線に、俺も酔いしれる。麗華さんは、俺に体を預けるように近づく。そして、彼女が瞳を閉じたタイミングで、俺は薄いピンクの唇にキスした。そのまま、彼女をお姫さま抱っこでベッドへと優しく運ぶ。彼女の吐息が首筋にあたる。俺の息子も彼女に当たる。


「それじゃ、いいかな?」


「はい、明かりは――」


「恥ずかしいよね」


「――はい」


 うわぁ、いよいよか。俺が麗華さんと、麗華さんと。ついに――。

 麗華さんの全てを見たかったけど。今日は我慢だな。焦らず、野獣ではダメだ。襲いかかってはダメだ。あくまでも紳士に。タケはジェントルマンになるのだ。


 布団の上に麗華さんを下ろした俺は、サイドテーブルの蝋燭を消した。

お読みくださり、ありがとうございます。

本日はここまでです。


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