第106話、タケ、剛人さんに報告する。
「そ、それじゃ、つなぐよ。心の準備はいい、麗華さん」
俺は全身を硬直した格好で、ノーパソのモニターに視線を落とす。隣には、同じくガチガチに緊張した面持ちの麗華さんが座っていた。
「はい。いつでも良いですよ。タケさん」
麗華さんの合図とともに、俺は文字を打ち込む。
タケ:剛人さん、こんばんは。
タカト:やぁ、タケくん。昨日の動画はすごかったね。そして勝利おめでとう。麗華もそこに居るのかな。
タケ:ありがとうございます。はい。います。それでちょっとLIVEでお話したい事があるんですけど。今から大丈夫ですか?
タカト:わかった。今からテストサーバーを立ち上げるから。少し待ってね。
いったん、接続が切れる。俺は、深いため息を吐いた。アロマと結婚するにあたり、麗華さんの兄である剛人さんにも、話さなければいけないことがある。
そのために、今日、この時間を設定したのだ。
しばらくして、テストサーバーが立ち上がった。俺は、緊張した状態のままLIVE動画に切り替える。これで、向こうへは動画で伝わるはずだ。
タカト:それで、これはどういった話なのかな。
剛人さんからのチャットが入る。なぜかは分からないが、向こうからの映像は届かない。だが文字なら届くため、この方法を取っている。
カメラの前で緊張した様子の二人を見て、剛人も訝しがる。
タカト:うん? なんだかいつもの様子と違うね。どうしたのかな。
「はい。あっ、いえ。実は、結婚する事になりまして」
タカト:ほう、それはおめでとう。で、お相手は、前に聞いていた侯爵家の息女さんかな。名は確か……アロマくんと言ったか。
俺は、そんな話をしたことがなかったので驚く。で、隣の麗華さんを見ると、首肯していた。どうやら、アロマの事を麗華さんは兄に話していたようだ。
タカト:それはおめでとう。タケくんが結婚か。先を越されてしまったね。
俺は焦りながら何とか言葉を返す。
「ありがとうございます。ただ、その前にもうひ……」
タカト:うん、どうしたのかな。
先にアロマと結婚の話をしちゃったら、不愉快な思いをさせるんじゃないのか。そう思った俺は、なかなか言い出せなくなってしまう。
「お兄様、私もこのたび、け、結婚をする事になりました。きょ、今日はそのご報告をしようと――」
タカト:なに。
タカトさんの入力が、ここで一瞬止まる。やべぇ、やばいよ。これ完全に怒った感じじゃねぇのか。どうする、どうすれば。隣を見れば、麗華さんの表情も強張っている。これ、反対されるパターンじゃねぇのか。
「いや、剛人さん。必ず幸せにしますから。許してください!」
タカト:ちゃんと順序立てて話しなさい。それと、何を許せというのかね。
今、俺の頭の中には、写真で見た男前が、青筋立てている顔が浮かんでいる。インテリ風の色男が激怒しているそんな感じだ。ひえぇぇぇ。
「お兄様、これにはいろいろありまして」
タカト:麗華は黙っていなさい。さぁ、タケくん。どうして、そんな事になっているのか話してくれるね。
俺は、陛下から言い渡された褒美の事。それを麗華さんに相談した結果、今にいたる事を全て話した。そこからタカトさんの入力がまた止まっている。麗華さんも、ジッと入力されるのを待ってる。部屋の中がシーンと静まりかえる。
ピコッと、音が鳴る。タカトさんが入力を開始した音だ。
タカト:話はわかった。それで、タケくん。何か言うことはないのか。
そうだ。俺はそれを言うために、この機会を作ったんだから。
「剛人さん、いや、お兄さん。俺に、あっ、僕に麗華さんをください。絶対、異世界で幸せにしてみせます。泣かせるような事もしません。だから――お願いします」
「お兄様、私からもお願いします。私にはタケさんが必要なんです」
はぁ。子供だとばかり思ってた麗華が結婚とは。いや、違うな。先日の動画を見て、大人になったと感じたばかりだ。だが、結婚とは。ふぅ、歳を考えれば、こちらの世界では早くもない。そして、画面の中で仲睦まじい姿を見せられては――ダメだとは言えないではないか。思えば、タケくんを初めて見たのは私が最初だったな。その時は、こんな未来を予想していなかった。そんな彼が、俺の弟になるとは。傑作だな。私は、モニターの中で照れながら会話している二人に祝福を送ろう。おめでとう。
タカト:タケくん、君は麗華にふさわしくない。だが、麗華がそれを望むならば。私は二人の結婚を許可する。
「ありがとうございます。剛人さん」
「お兄様――」
ふっ。少し冷たく突き放したつもりだが、悪い気はしない。だからといって私の前で抱き合うとか。全く……困った妹だ。
タカト:こらこら、そういう事は二人だけの時にしなさい。それと、これから君たちはどうするんだ。ちゃんと結婚指輪は用意したのか。結婚式はあげるのか。そもそも式自体はあるのかな、こちらとは、何もかもが違うからわからないな。新居はどうするんだ。アロマくんのご両親はなんと言っている。結婚式があるなら、その動画を撮影するんだぞ。
「「はい。お兄さん」」
気づけば、タカトさんとの通信は切れていた。麗華さんは認めてもらえたのが嬉しかったのか、頬を涙が伝ってる。俺も、嬉しくて泣いた。結婚式の動画は、剛人さん経由で実家に送ってもらおう。うちの親も驚くだろうな。
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