第104話、タケ、女心に翻弄される。
くそっ。宗っち、どこまで喋ったんだ。まさか、異世界から来たとか……。きっと喋ったろうな。他のヤツらも命と引き換えに。とか、言われたら。喋るかぁ。
「はい。その様ですね」
おっ、陛下の表情が驚きに変わった。って事は。
「なるほどな。タケよ」
「何でしょうか?」
くっ。焦らしやがる。この静寂の間が胃に来るんだよな。
「お主、海の向こうから参ったと言わなんだか?」
「いや、そんなこと言ったか? 気のせいだろ」
ここはごまかすしかねぇ。王さまはジッと、俺を見つめ嘆息する。
「ふぅ。まぁよい。この世には詮索すべきではない事も多い」
あぁ。俺もそう思うぜ。深く突っ込んでも良い事なんかないからな。
「それで、あの者をどうしたい?」
あの者? あぁ、宗っちかぁ。うーん、確かに宗っちは俺の目標だったけどな。だからといって無罪放免はないだろうよ。あんだけドンパチやったんだから。
俺は返答を躊躇った。大先輩だからな。処刑されるのも見たくねぇ。かといって、罰もなしでは、陛下の顔もたたないだろうからな。
「それで、陛下。宗っち、いや、アイツは今どこに?」
「はっは。あの者なら魔法使いだというので――あそこだ」
そして、陛下が指を指したのは、俺が幽閉された塔だった。なるほど。あそこなら魔法は使えないから安心だな。最悪は、俺とサラフィナ、麗華さんでも勝てるか。なら倒せるが、ここの兵士では力不足だ。しばらく反省の意味も込めて、幽閉でいんじゃねぇか。ただ俺の時みたいに食事なしは止めてほしいが。
「あぁ、わかった。あそこなら安心だな。罰でしばらく幽閉してやってくれ。ただし、ちゃんと三食は付けてくれよな」
「あいわかった。でだ、他の者はどうする?」
うーん、見た感じ全員白人だったしな。別に一生、牢屋でもいいんじゃねぇのか。俺には関係ないし。ただ、アイツら武器持ってるんだよな。もう陛下の手に渡ったんだろうけど……。あれ見て、使い方を知れば俺の正体も既にバレてるか。
「うん。俺とは関係ないんで、陛下のお心のままに」
ニヤってしたよね。今、確実に。
「で、あの者たちが使っていた、おい! ここへ――」
兵士が数人で大きな木箱を持ってやって来た。その中には自動小銃と手榴弾が入っている。あらら。結構な量があるな。当たり前か。五〇人近くいたしな。
「これだが、タケよ、これの使い方は分かるか?」
そんなもん素人が知るか。軍人とか武器マニアに聞けよ!
「いや、知りません。使いたいなら、牢屋の連中に聞けば良いかと」
もう仕方がねぇからな。はぁ、次から登城の際は結界でも張るか。でも、あの連中が素直に教えるかねぇ。脱走に使われるんじゃねぇのか。
「おぉ、そうであったか。ならそうするとしよう」
「ただし、そこの丸いのは迂闊に触らない方がいいですよ。それと、棒のようなものは、連中には渡さない事です。脱走に使われますからね」
おっと、一気に険しい表情になったな。当然か。
「うむ、取り扱いには気を付けさせよう。それで最後に一つ。あの門を破壊した魔導砲に関してだが――」
* * *
「はぁ、疲れた。一気に疲れた」
俺たちは侯爵邸へと戻ってきた。それにしても陛下にしてやられたぜ。動かなくなった戦車も、王家に献上しろとかいうんだもんな。まぁ、いいけどさ。アレどうやって運ぶつもりなんかね。一台で、大型トラック七台分の重量はあったよな。
どうでも良いけど。俺たちの魔法と宗っちが、電気系統は破壊したからな。俺からしてもただの鉄くずだ。王都を守り切ったシンボルにでもなるだろう。
「お疲れさまですわ」
「あぁ、アロマ。ただいま。ごめんね、城に連れて行ってあげられなくて」
「いえ、よろしいですわ。それで……」
あぁ。期待のこもった面持ちだわ。そりゃ当然か。
「それに付いては私から説明しよう」
「お父様が?」
ホッ。助かった。この場は侯爵に任せるか。アロマは不可解そうな視線を向けてるけど、仕方ないよな。これだけは譲れねぇ。
「タケくんと麗華さんの結婚式を最初にする事になった。アロマの式はその後になる」
あぁ、ドストレートだな、侯爵。きっとアロマも凹んで……いねぇ?
「まぁ、では、麗華さんとも身内になるんですのね。楽しくなりますわね」
おっ、これは予想外だな。なんでだ?
「アロマよ。不服はないのか?」
うん。俺もそう思ってる。でも、やせ我慢にも見えないしな。
「なぜですの?」
「いや、その……」
あちゃ。侯爵まで答えづらくなっちまった。
「私、麗華さんもサラフィナさんも好きですわよ。毎日のお茶会も楽しいですし」
あぁ。考え方によってはそうなるのか。でも、サラフィナは関係ないからね!
「アロマさん――」
「麗華さん――よろしくお願いしますわ」
麗華さんとアロマが見つめ合って、俺の取り越し苦労かよ。
まさかこうなる事を見越して、毎日、お茶会していた訳じゃないよね。
でも、みんな幸せそうだからいいか。
「でも、そうなるとサラフィナはどうすんの?」
そうだ。サラフィナは迷い人が、人族に理不尽な扱いをされないようにって付いて来てたんだから。俺が公爵になったらもう用済みじゃ。
「はい? どうもしませんけど。私はタケ様の師匠として居座るだけです」
えっ。新婚家庭に入り浸る?
それってどうなのよ。これから、しょ、しょ、初夜だって迎えるのに。
「まぁ、これからも皆さんとご一緒できますのね」
なんで、うれし泣きするのかねぇ。アロマは。もしかして、雪が溶けたら出て行くって話しを気にしてたのか。そうなら心配掛けてたんだな。
「はっはっは。ではムコどの。さっそく子作りを――」
気が早いわ! 侯爵。
お読みくださり、ありがとうございます。
ここで第二章終わります。
次からは第三章に入ります。