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また会う日まで

作者: 古時灯葉

妻に先立たれてから、もうしばらくが立つ。

子供も独り立ちして、これから二人の時間をゆっくりと過ごすのだろうと、思ったまさに、その時だった。

彼女がいなくなったおかげで、これからともに過ごそうとしていた計画が崩れてしまった私が再び生き甲斐を見つけるのには、そう時間はかからなかった。

私は、私の仕事を続けるしか選択肢、残されていなかったのだ。

私が今までしてきたエンジニアとしての仕事が、再び、私の生き甲斐になる。

トーマス・アルバ・エジソン。世界中の誰もが知っているような天才科学者。

彼の伝記をかつて、読んだことがある。そのときに、このような話があったのだ。

晩年、彼は霊界と交信するための機械を作ろうと考えていたそうだ。

死後の世界について思いを馳せていた彼であったが、生きている合間に彼はそれを成し遂げることは出来なかった。

一端のエンジニアである私も、同じものはできないだろうか?

エジソンが死んで、数十年になる今、彼の思い描いていた構想を現実にうつすことはできるのではないか。

私は傍から見れば酔狂な、研究に舵を切ったのだ。

もう、私にかまうような人間もいない。

私には、彼女こそがすべてで。

彼女と他愛もない話に、すべての価値を見出していたのだ。



私はすべてをなげうって研究に没頭した。

老後の蓄えも、彼女と過ごすための資金もすべて意味がなくなってしまったのだから。

息子や娘も、私の手を借りなければいけないような年頃でもない。

老いぼれの酔狂な研究も、口を挟むかと思えば、そんなことはなかった。

かつて、同じ夢を追い求めていた先達が残した文献をあさり、目の前に実体化させる。

至らない部分を思索し、対策を立てる。その繰り返しだ。

そうであったとしても、徒労に終わるとしても、私にはどうにでもよかった。

一つ一つの道程が、彼女に近づいている証なのだから。

過去、人は空を飛ぶことも、遙か遠くに情報を伝達させることも夢物語として語られていた。

だが。それは今、現実になっている、

ならば、私の研究ももうすぐ、当たり前のものになってもおかしくはないだろう。


私はうたた寝をしていたようだ。目の前の作業に取り掛かろうとして、ふと疑問を抱く。

私はベンチに座っていたのだ。頬に当たる葉はまだ若い。青々として、肉がたっぷり付いている若葉がはらりはらりと浮き上がるようにゆらりゆらりと落ちてきている。

そよ風は空気の暖かさを包み込むように、優しく涼やかだ。

昼下がりの公園のようだ。人の声がさわがしく、心地良い。

背もたれに身体を預けると、私は何故か、高揚した気分になっていることに気がついた。

数十年前に感じた、胸の高鳴りはとても懐かしいものだ。

あぁ、と私はなんとなく思い出す。

もうそろそろ、川の向こうから彼女がやってくる頃だ。

久しぶりに会う彼女に、私はなんと声をかければいいのだろう。

そう、考えるだけで、私はそわそわとしているのだった。

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