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紫草を、草と別く別く伏す鹿の、野は異にして心は同じ

初投稿となります。他の作者様のお話と違い地味目な内容ではありますが、最後まで読んでくださると嬉しいです。

サブタイトルは和歌からお話の内容に合っていると思ったものを引き抜かせて頂きました。

紫式部やほかの人々のことを調べていくといろいろと面白いと感じたので、それらを元にお話しを想像しました。

紫を、草と別く別く、伏す鹿の野は異にして、心は同じ


「ねえ、あの話の続きは何時できるのかしら?

 あの先が気になってきになって・・・。」

身を乗り出し、キラキラと目を輝かせて眼前の漢文の詩をそらんじていた女性に声をかける。

「中宮様、そのようなことを言われましても。

 私の務めはあなた様に漢文をおしえることですので・・・。」

少し困惑した様子で漢詩の暗唱を止めた女性が答えた。

「こんな大昔のおじいちゃんが作った詩より、

 貴女の書いた話を読んでたほうがもっと有意義だと思うのだけど。

 ああ、あの先、光源氏はどうなるのかしら?」

「そうでしょうか。

 ・・・中宮様が今日のお勉強の分を早くお済ませになれば、

 私も続きを考える時間ができるのではな いかと思うのですが・・・。」

「!そうね!頑張りましょう!さあ、紫式部。続けてちょうだい。」

暗唱を急かされた此の女性、

紫式部は自身の仕える方の薄情さに苦笑いを浮かべつつ、暗唱を再開した。


紫式部が今日の授業を終え、宮中にある自室に戻ってきた。

部屋にある文卓の前に座り、彼女らしい繊細で流麗な文字で紙に何か書きつけていた。

すると、二人の女房が入ってきた。

一人は活発で明るく、華やかな雰囲気の女性、もう一人は柔らかな雰囲気の女性。

二人は慣れた様子で部屋に入ってくると、熱心に何かを書いている紫式部に声をかけた。

「あら、紫式部。またあのお話の続きでも書いてるの?」

「中宮様の授業を終えたばかりでしょうに・・・。

 無理はなさらないでくださいね。」

紫式部が二人が話しかけていることに気づくと、

走らせていた筆を止め、書き付けていた用紙をたばねながら、

「いえ、あの話ではありませんよ・・・。日記をつけていたのです。

 ・・・和泉式部さん、伊勢大輔さん、お待たせしました。」

この三人は共に中宮彰子の女房として仕えている三人であり、

いろいろなきっかけがあった後、このように自室に赴く程の仲になったのだ。

「へえ、あの悲観的な紫式部が遂に日記をつけ始めたのねえ。

 どんな恨みつらみが書かれているのか想像するとすこしこわいわねー。」

和泉式部が少し大げさに肩を抱くと、

それに対して紫式部がムッとした様子で、

「別にこれは私以外の人に見せるわけではございませんので。

 あと、紫式部、と呼ぶのはやめていただけませんか?

 最近中宮様やあなたたち以外の方からもそう呼ばれて、

 恥ずかしいことこの上ないのです・・・。」

なにを隠そう彼女はこの“紫式部”という呼び名を気に入ってはいないのである。

彼女が宮仕えをし始めた当初は実家の氏から、藤式部、とよばれていたのだが、彼女が仕える中宮彰子が、あの後世に残る傑作となった源氏物語の登場人物である紫の上からとり、紫式部と呼んだのである。

名付け親の彰子に呼ばれるのはともかく、この呼び名を知り、女房や奥方、果てには殿方にまでよばれる始末である。

恥ずかしいことこの上ない。

何より、ほかの人たちが自分を源氏物語の作者として一線を引いているように感じられるのがこの上なく居心地が悪かったのだ。

そんな胸の内が顔に出ていたのだろうか、伊勢大輔が、

「私たちは別にあなたをからかおうとしてこの名で呼んでいるわけではないのです。

 ただ、友人であるあなたが書いた物語が多くの人に楽しまれているのが誇らしいのです。

 この名はある意味あなたの誇りだと思いますよ。」

伊勢大輔が優しく微笑み、隣で和泉式部もそうだと言わんばかりに頷いている。

それを見た紫式部は頬を朱に染めながら、

「あなた方がそうおっしゃてくださるのは嬉しいです。

 ・・・紫式部でも、いままでのように仲良くしてくださいますか?」

二人はただ優しく、かつはっきりと頷いた。

そして和泉式部が、

「さあ!この話はこれぐらいにしておいて、今日はね、すんごく面白い話をもってきたのよ。」

「ええ、紫式部さんも絶対面白いと言うと思って。」

「あら・・・。それは楽しみですね・・・。」


紫草を他の草とは特別扱い伏す鹿の野とは違うけれども、私たちもお互いに大切に思う気持ちは同じですよね。

                        万葉集 3099番より

読んでいただきありがとうございました。

このような駄文におつきあいくださるとは、感謝しかございません。

物語の三人は同じ時代に同じ人物に仕えていたのでこの物語のように交流があったらなあ、と思いつつ書いていました。

機会があれば、この三人の書きたい話がまだまだあるので、かいていきたいなあ、と思っています。


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