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マージナル・ソードマン  作者: 節兌見一
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剣狂、巌流、魂魄、エルフ。の巻 八

 ハルトロンと名乗る銀の青年は、涼やかな声で述べる。

 

「僕は武蔵の魂魄を僕の国に連れ帰り、戦士として転生させるためにこの国に来た。

 戦いを渇望している武蔵が、僕を呼び寄せたのさ。

 僕は彼に活躍の場と新しい身体を提供し、彼は僕らに武力を提供する。

 双方、納得した上での取引だ」

「そんなことが……」


 呻いたのはツバメであった。その傍らで景虎が手を打った。


「なるほど、よく分からんが分かったぞ。お前、地獄の鬼か」


 ハルトロンは、はにかんだ。分かっているようでまるで分かっていない景虎が面白かったのである。


「ちっ、馬鹿が。黙っていろ」


 小さく呟いたのはツバメである。


「あ?」


 景虎は無造作に刀に手を掛けるが、ハルトロンが咳払いをして間を外した。


「コホン。とにかく、武蔵はこれから戦士として僕の国に生まれ変わるんだ。で、武蔵が君たちを呼んだのは、儀式をしたかったからだそうだよ」

「儀式?」


 二人して怪訝そうな顔をすると、ハルトロンは宙を仰いだ。

「ああ、『儀式』という言い方はちょっと違うかな。

 ミソギ……ハライ……ハラキリ……ああそうだ、『ケジメ』。

 彼はケジメを付けようとしている」


 日本語は難しいなぁ。はにかみつつ、ハルトロンは景虎を指差した。


「阿刀景虎。武蔵は君との約束を果たせなかったこと、そして、太平の世に向かうこの国に置いてきぼりにしていくことを深く案じていた。

 平和な世界に一人残されれば、君のような狂人はより狂うだろう。

 武蔵も、多くの先人たちに導かれなければ狂っていただろうと、僕に語ってくれたよ」

「……」


 思い当たる節が無いワケではなかった。

 武蔵の死体を前にして感じた、暗く空いた穴を覗くような虚しさ。あの穴に、果たして底はあったのだろうか。



 ハルトロンは続ける。


「それに、巌流佐々木ツバメ。君の目的はただ一つ。養父、小次郎の復讐だろう?

 君は巌流島より這い戻り廃人と化した小次郎に拾われ、稽古を授けられた『巌流』唯一の継承者。

 だが、敵討ちの相手たる武蔵が亡き今、人生の矛先を見失いかけている」


 ハルトロンは、何でもお見通しと言わんばかりのすまし顔で、微笑みを浮かべた。


「武蔵の果たし状とはつまり、『転生した武蔵を見事打ち倒し、それぞれ本懐を遂げて見せよ』という武蔵からの挑戦さ。もちろん、二人共を僕らの国にご招待しよう。武蔵との約束なのでね」

「……なるほどな」


 景虎は、身体の中から熱が噴き出すのを感じた。武蔵と戦える。それだけが彼を熱くしていた。その為ならば、どんなに胡散臭い事態でも飲み込む覚悟はあった。

 ハルトロンはほくそ笑んだ。


「付け加えておこう。僕たちの大陸はそれはそれは広いんだ。生前の武蔵より強い者もいる。例えば、僕のように」

「あ?」

「む?」


 景虎とツバメは同時に眉をピクリと脈打たせた。

 武蔵を倒すべき強敵と認識している二人にとって、それは明らかな兆発である。

 ハルトロンは悪戯好きの子供のように口の端を釣り上げると、


「ちょっと、試してみようか」


 錫杖を両手で振りかぶり、二人を打ち据えにかかる。


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