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追憶の欠片  作者: 幸村光舟
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再会

プロローグ


「かずまく〜ん!早くしないと公園とられちゃうよ〜」

春の日差しが降り注ぐ4月10日ー。僕の家からおよそ10分、彼女の入院する病院からおよそ15分の場所にある虹の丘公園に向かい、桜の木が顔を覗かせる住宅街を僕たちは歩いていた。

「わかったわかった。ったくあすかはせっかちなんだから…」

ため息まじりにそう言う僕の本心は、久々に病室から解放された明日香の笑顔を見れて嬉しかったのだろう。そして柄にもなく大人ぶってみたいと思ったのだ。当時11歳だった僕は同い年の明日香を意識していたし、明日香に意識されたかった。

「あっ 見て見て!あっちに猫ちゃんいるよ♪」

住宅街を抜けた先にある坂道の道路、その真ん中に一匹の黒猫がいた。黒猫は僕たちをじっと見つめた後、道路を渡った先にある細道の方へ足を進めていった。

「待って〜」

明日香は黒猫を追いかけた。無邪気に、夢中に、そして楽しそうに。そんな彼女を見ていた僕はこの時、まさかこの直後あんなことが起きるとは思いもしなかった。なぜもっと早く彼女を止めなかったのだろう。今になって思えば最初から2人で並んで歩いていればよかったのかもしれない。一歩引いて大人ぶった自分を明日香に見てもらいたい、そんなくだらない考えは捨てていればよかったのだ。なぜ等身大の恋をしようと思わなかったのか、僕は未だに自分を許せない。

「おいあすかそっちは道路だから気をつけ…」

黒猫を追いかけて道路へ飛び出した明日香に対し注意を喚起した僕だったが時はすでに遅かった。坂道を猛スピードで下って来た大型トラックが彼女に当たった瞬間、彼女は僕の視界から消えた。

「あすかっ!!!」

僕は無我夢中で明日香の元へ走った。小さくて軽かった明日香の体は思ったよりもずっとずっと遠くへ飛ばされていて、遠目で見ても手遅れだと分かるほど静かに眠っていた。そう、本当に眠っているようだった。

そこからの出来事は覚えていない。気がついたら僕は、大切な友人であり初恋の相手であった人を失っていた。

それからの6年間、僕は何事にも無関心だった。物事に対しての興味が湧かなかったのだ。友人の誘いにも滅多に乗らず、恋人も作らなかった。そして、明日香を想う気持ちだけが6年間変わらずに僕の心の奥に存在していた。


「一真〜早くしないと遅刻するわよ〜降りてきなさ〜い」

1階から母の呼ぶ声が聞こえる。

今日は明日香の命日だ。毎年お墓参りには行っているし今日も学校帰りに寄る予定だった。その準備等(といってもそんなに大それた準備ではないのだが)もあり下に降りるのが遅くなってしまった。

「今行くよー」

4月10日ー。あれからちょうど6年が経った。高校2年生となっての初日。いつもと変わらない1年が、そして1日がまた始まるのだろう。

この時僕はそう思っていた。


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