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四話 五万ドルの呆れ

 それで。契約書にサインし、一体どのAI搭載アンドロイドのテスターになればいいのかと質問した。返答は意外とすぐに返ってきた。E7から。


「私です」


 ……。言葉を失い掛けたが、さすがに小説家の意地で言葉は保った。つまる所、この女性型アンドロイド、E7は最新型という事になるのだが。そこでふと、俺は思った事を口にする。


「ちょっとまて。お前、所属は?」

国立人工知能研究所(NAL)です」


 ワオ。エセ外国人になったつもりは欠片もないが、思わずそんな声が出て来るぐらい驚いた。国家機関じゃねえか! まさかそんな場所からだったとは……。俺はAIとかアンドロイドへの嫌悪すらすっかり忘れて呆れ顔を晒す事になった。




 テストは何時からと聞いて、今日からだという答えにも結構驚いた。幾らなんでも唐突過ぎだろ! しかし、有無を言わさぬE7に押し切られてしまい、結局今日という事になった。K4が去り際に


「E7、くれぐれも気をつけてください。嫌悪感を抱く様な事があれば即時撤退許可がでますので」

「K4、その件に関しては三日前にも結論を出したのでは?」


 という会話をしていった。鉄屑(アンドロイド)が、破砕ごみ(アンドロイド)の心配か。お美しいこった! と悪態を吐く。無論心の中で、だが。アンドロイドにも気遣いはできるのだろうか。できるとしたら、俺はスクラップ以下なのでは――?


 浮かんだ考えをあわてて振り払う。所詮粗大ゴミ(アンドロイド)だ。気遣った様に見えるだけ。そうに違いない。俺はそう切りすてて、E7に中に入る様いった。俺の背後二メートル程の距離だ。即座に撤退できる距離? いや、俺の手が届かない位置取りか。




 俺がズカズカと部屋に入ると、そっと遠慮する様にE7が入室する。多分、俺の部屋に無遠慮に入って気分を害することがない動作だ。お前が入ってきてるだけで十分気分を害しているからどうでもいい話なのだが。


「えっと。……物静かで風情のある部屋ですね」

「普通に殺風景って言えよ。無駄なフォローはいらん」


 この辺り、言語プログラムがまだ未完成なことが分かるな。おそらくは思考アルゴリズム(どう言う考え方をしているかという方向性)が"人間に一定以上の敬意を持つ"に設定されているそうだから、その辺りも考慮しての言動なのだろう。とはいえ、違和感バリバリだが。


 まぁ、部屋は数十分前と同じく殺風景だ。みていて悲しくなる。木の台に、ペン。替えのインク、はそういえば切れたままだった。後は枕代わりにしていた鞄。そのぐらいか。うん、何もないな。だからどうした。


「それで。俺は何をすればいいんだ」


 心に積もった殺風景への慣れについては捨て置いて、自分の仕事をやるべきか。一応俺は、扱い上契約社員になっていると、E7が契約書を回収しながらいっていた。つまるところ、俺は仕事を得たと言う訳だ。だが、さすがに何も仕事内容がないと言うわけでもあるまい。テスターとして何かする事がある筈と、E7に問いかけた。


「特にございません」


 あー、なるほど? 何かの暗号か?


「……はぁ?」

「特にございません。普段通りにお過ごしください」


 普段通り、と言われてもなぁ。と、腕を組んで悩んだ。正直、やる事は何もない。仕事は無いし、何かクラブとかそういうものに参加している訳ではないし、趣味も……。


 あれほど執着していた小説は、お話は、もう書けない。


 フッと短い溜め息の後、ごろりと寝転がった。E7は何もしていない。俺を見つめているだけ、に見える。みていても何も起こらないぞ、と言いたくなる。まぁ教えてやる義理もない。そう割り切って、俺は天井を見つめた。


 結局、死ななくても良いのだろうか。


 分らない。




 ギュ、ギュィウウ……。

 自分の腹の虫で目が覚めて、自分が寝ていた事を知った。今何時だ。わからん。時計がないからだ。


「現在、午後六時二十七分です」


 と、部屋の隅から声。E7がいた。まったくの無表情のまま、俺に向かって時間を告げた。意外にねてしまった。やる事がないから、寝るぐらいしかできないんだが。


 とはいえ、食べなければやって行けない。かれこれ一週間はまともな飯を食べていない。そういえば、金がもらえるという事だったが、一体何時、そして幾ら貰えるのだろうか。金がなければ飯も食べれない。下手をすれば金が来る前に俺が飢え死ぬ。


「……空腹を感じているなら食事をすればよろしいのでは?」

「金がない。というか、余計なお世話だ」

「すでに金銭補助は行われています」


 はぁ? と返す俺。ふふん、と胸を張った、様に見えるE7。意味がわからない。あれか、既に配送を開始したとかそういう……?


「いえ。私に内臓されたクレジットカードの口座に振り込まれています」


 なるほど。契約成立と同時に金銭補助を行えるからそういう扱いになっているのか……。なら、いまからでも食べにいくか? と思い、残高を聞いた。


「五万ドルです」

「……ジンバブエドル?」

「時価にして約五百六十万円程です」


 俺が呆然としたのは、多分いわなくても分るだろう。


 久しぶりに食べたカツ丼の味は、ひどく油臭く感じた。

"私にとって、お金は人を火傷させる燃える紙よ"

(訳文のみ)

 ――ドリュー・バリモア

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