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三話 E7&K4

今回はあとがきにお知らせがあるので

偉人の名言はないです。ご注意ください。

 絶望に似た何かに打ちのめされている俺の耳に、ノックの音が転がり込んできた。しかし、返事すらせずに、俺はボーっとしていた。あまりに衝撃的であったのだ。自分がもう小説を書けないという事が。


「……E7(イーセブン)、留守なのでは?」

「いいえK4(ケーフォー)。生命反応があります」


 独特な電子音声が聞こえた。男性型と女性型の声のそれだった。産業廃棄物(アンドロイド)? 何か俺に用だろうか。まぁ、何でもいい。鉄屑どもにしてやる事など何もない。何もできないと言ったほうが正しいが、どうでもいいだろう。


 しばらくして、どんどんと、再度強くノックの音。だが、無視した。お前らにくれてやる時間などない。さっさと何処かへいってしまえ。


「寝ているのでは?」

「いいえK4。バイタルサインから"苛立ち"の感情を感じます。恐らく居留守かと」


 バレてる。出る気は無かったのだが、このまま出ないと面倒な事になるのだろうか。まぁ、明日死ぬのも今死ぬのも同じ気がする。結局、怖かったので出る事にしたが。


 ガチャリ、と開けた扉の先にいたのは、二体のスクラップ(アンドロイド)。どちらも第一印象が"白い"なのは実に特徴的であった。マネキンの様な姿の大柄なアンドロイド――恐らくK4――に、可憐な少女の様なアンドロイド――多分E7――だ。


 ニ体をジロリと一瞥する。K4は恐らく、護衛的立ち位置だろう。マネキンの様なボディの関節部分から、太いワイヤーが束ねられた様な人工筋肉が見える。その力強い見た目とは裏腹に、あまりならない駆動音。そこから察するに、恐らく最新型のマッスルシリンダーを使用していると見えた。


 逆にE7と呼ばれた少女型のアンドロイドは、完全に人工筋肉の音が聞こえない。その為、恐らくは静音式だろう。完全に音が聞こえない代わり、同じ大きさの筋肉と変わりないパワーしかない、道楽としか思えない代物だ。という事は、"愛玩用"と言ったところだろうか。馬鹿馬鹿しい。


 しかし、そう見れば頭部パーツについた銀色の人工毛髪や、単なるカメラではない両目にも納得がいった。まぁ、俺としては苛立ちしか湧いて来ないのだが。頭の中で吐き捨て、努めて無表情に二体に話しかけた


「何の用だ」


 K4はE7を見た。E7はK4に対して頷き、俺に向き直した。


「貴方はアンドロイドのテスターに選ば」

「帰れ」


 E7の言葉を途中で遮って、ドアを閉めようとした。しかし、即座に隙間に挟み込まれたK4の足によって、それはできなかった。何だよ、とジロリと睨む。お前らのテスターなんかクソ食らえってんだよ。機械質な目は、俺をしっかりと捉えていた。


「社会的優遇処置もございますが」

「いらん、帰れ」


 そんなものいらん。優遇ったって、何をだよ。そもそも、明日死のうって俺だぞ。優遇なんて受けたって意味はない。それどころか、今日死のうかなとすら考え始めている。そんな俺に、今更そんな物を出しても引っ掛かりはしない。


「金銭的な補助もございますが」

「いら――」


 いらん、と言おうとして、押し黙った。金銭的な補助。死ななくて良くなる――?


 俺だって、死にたくて死ぬ訳じゃない。死ぬしかないなら、楽に死ねる方がいい。死なないならもっといいとも思う。


それに、親不孝のまま死んでいいのだろうか。今両親は七十五、六歳だが、まだ存命だ。親より先に死ぬのは不孝だと言う話は、まだ俺の頭の何処かにこびり付いていた。こんな惨めな死に方で、しかも親不孝。本当に良いのだろうか? ドアを閉めようと力を込めたまま、考える。


 K4もE7も、俺の決断を待っている様で、直立不動でたったままこちらをみていた。どうする。どうする?


「あ……明日にしてくれ」


 一瞬だけ俺の声に反応しなかったアンドロイドは、次に困ったような顔――K4は動きの雰囲気でだが――を浮かべて、お互いの顔を見た。そして、「少々お待ちください」と俺にいってから、二体で話しているようだった。しかし、その間も足を挟み込まれた状態だったから、俺は仕方なく、ドアをそのままに部屋に引っ込んだ。


 アンドロイドのテスターか。「絶対に嫌だ」と叫んでいる俺がいて、その反対方向に「でも本当にここで死んでいいのか」と囁く俺がいた。まさに板ばさみ状態だ。どうすればいいんだよ。胡坐を掻いて考え込んだ。


 親不孝のまま死んで、本当に良いのか。何一つ楽な暮らしさせてやれずに、堂々と出て行ったのに小説家にすらなれず、このまま死んで良いのか。良い訳がない。俺だって人並みに親への愛はあるつもりだ。せめて良い思いをさせてやりたい。だが、だが。これ以上、アンドロイド共がもっと発展していいのか?


 だが、奴らにとって俺の存在など木っ端に過ぎない。俺が(くみ)しようが与しまいが、大して変わる事はないのではないか。しかし、しかし……。


 そうして悩んでいる間に、アンドロイドが再度ノックして俺を呼び、E7がいった。


「決定を明日にできないか、という事でしたが。それでいいとの事ですので、明日に契約書等をもって再度訪問します。よろしいですか?」

「あ、あぁ……」


 結局答えの出ないまま、翌日になってしまった。




 俺は、契約書のサインの欄に、インクをたらした。


 


前作をお読みいただいている方に。

K4の名前はそのままですが、E9の名前をE7に変更しました。

と言うのも、最近出たPS4のソフトに似た名前のキャラクターが出ており、

作者が混乱するのを防ぐ為です。ご了承ください。

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