エイプリルフール:私、嘘を吐きますとキャロライン
完結後二日で追加エピソード。
優柔不断ですいません。
エイプリルフールネタです。
「首が着脱自在です」
と、彼女から明かされた衝撃の事実。人間模倣用として思いっきり人間離れしていないか、それは。
「嘘です」
キャロラインはフフーン、と騙せた事が嬉しいのか、胸を張っている。一瞬マジに信じかけた。腹立つなこいつ。というか、なぜ唐突に身にならない嘘を?
「四月一日。エイプリルフールです。ちょっとした嘘を吐いても許される日ですから」
あぁ。そう言えば、もう四月一日だったか。早いもんだ。まだ一ヶ月も経っていない気がするのになぁ。と思っていると、何かE7が期待を込めた目で此方をみていた。
「貴方は嘘はおつきにならないのですか?」
「嘘ォ?」
何だ、そんな事か。そうだなぁ……例えば。
「俺は実は女、とかどうだ?」
「あからさまな嘘ですね。つまらないです」
クソ、こいつ。中々言うようになりやがって。じゃあもっと特大球の嘘をかましてやるぜ……!
とはいったものの、特にこれといった物が思い浮かばない。そう嘘を吐く訳ではないし、最近は人付き合いも少なかったから、正直あまり思いつかない。そう言えば、あれを忘れていた。
「……そう言えば、この前いってた海外旅行、中止だぞ」
一瞬、キャロラインがビクリと硬直した。
「嘘だ」
当たり前だ。海外は俺だっていきたいし中止する理由など事故以外にない。嘘と告げた瞬間、キャロラインの顔色がコロコロ変わって、赤に変わってから後頭部を叩かれた。態々回って叩かれた。さすがにシリコンが入っていても金属製のフレームが使われた手によるビンタは滅茶苦茶痛かった。
「いっていい嘘と悪い嘘があるでしょう……!」
常にすまし顔なE7にしては大分珍しく微妙に怒っている様に見えた。
"つまりお前は旅行を楽しみにしていたんだよな?"と揚げ足を取ると、プイッと顔をそむけてしまった。こいつは最近、本当に人間臭くなったな……。
「はいはい、俺が悪かったよ」
ここらで適当に降参しておく。最初は事務的な会話もそれなりに多かったが、最近はこうしてふざけあう事もままある。本格的に感情の取得とか情緒や優しさの理解を始めたと聞いた。正直、何時人間として追い越されるか戦々恐々といったところだろうが、別に何でもいい気がする。
彼女がこのままもっと賢く、人間らしくなって、それでいて俺と仲良くしてくれるなら、何も恐れる事はないと思う。
反逆とか、そういうのは考えない。頭の中からポイッだ、ポイッ。万が一、万が一、とかを毎日考えて生きてたら、何時か床が抜けて死ぬんじゃないか、とか、このブロック塀がくずれて来て死ぬんじゃないか、とか。そんな意味のない思考に支配されてしまう気がした。
「所で。海外旅行ですが、結局何処に行くのかは決まったのでしょうか?」
「あー」
キャロラインから振られた話題に、思考を引き戻された。そう言えばあの時明後日、つまり今日予定すると言っていたのに、何処にいくかまるで決めていなかった。
「……忘れてた」
「なるほど。……では、フランス、等如何でしょうか?」
フランス? と首を傾げると、キャロラインがうなずいた。まぁ、異論は無いが。何故唐突にフランスになるんだ。と聞こうと思って顔を挙げると、頬を赤くしたキャロラインが見えた。
「大好きな貴方と向かうなら、フランスがいいです」
……はぁ? と、一瞬呆れた。その一瞬後、ポッと赤くなった頬を押さえる仕草をした。……はぁ? また呆れるように声を出した。大好きっつったか? 恋愛感情を知るには少し早すぎるんじゃないか? おい。いや、おい。
頭が真っ白になって、よほど間抜け面をしていたんだろう。しばらくして耐え切れなくなったかのように、キャロラインがクスクスと笑いながら
「嘘です」
と言った。
「……てッ!?」
俺は思わず、言葉が頭からできらない内に息を吐いていた。
「てめェこそ言って良い嘘と悪い嘘があるだろうがッ!」
「すいません、よく聞こえません」
その後、キャロラインと俺が、せまい部屋で盛大に追い掛けっこをしたのは言うまでもあるまい。
ちなみに、フランスに行きたかったのは本当らしいと、キャロラインをひっ捕まえて暫くしてから知った。
四月一日って、面倒臭い日だなぁ。
"人生において何よりもむずかしいことは、嘘をつかずに生きることだ。そして自分自身の嘘を信じないことだ。"
――ドストエフスキー