牢獄
ポチャッ ポチャッ ポチャッ
水の滴る音が微かな目眩と暗闇の中から意識を徐々に覚醒させる
ここは何処だ、古い煉瓦造りの建物の一室のようだが、部屋の一面が鉄格子で区切られ長い廊下に繋がっている。
俺の手足には枷が付けられ、枷は鎖に繋がれ壁に貼り付けられている。
力づくでは外せそうもない
「おーい!だれかいるのかー?!」
返事はない
どうしてこんな所にいるんだ?ここは何処だ?ヴァルゴの商隊はどうなったんだ?ハイリッチは?
様々な疑問が脳裏を飛び交う。
しかし、最優先事項はここから抜け出す事だろう
幸い牢に繋がれるような事は身に覚えがない
すると廊下の向こうから人の足音がする
「おーい!助けてくれー!」
俺は力の限り叫んだ
そして牢の前に表れた人物、筋骨隆々の偉丈夫といった出で立ち、軽くウェーブのかかった金髪碧眼の貴族のような、騎士のような出で立ちをした男。
ダブレットを着たロン毛のシュワちゃんといった感じだ
「煩い黙れ」
シュワちゃんが怒鳴り付けてくる
「き、貴族様でしたか、申し訳有りません。私は冒険者組合より派遣された仕事で商人の護衛をしておりましたが、道中魔物に襲われ、情けない事に気を失ってしまい、気付けばここに」
「黙れ!」
ん?なんかヤバい雰囲気だぞ?
「貴様、何も覚えておらんと申すか?」
覚えるも何もさっき言った通りなんだが
「あなた様が何を仰りたいのか……」
「冒険者の癖に商人のようにへりくだった喋り方をする、気色の悪い下郎だ」
あんまりである
言い過ぎでは無いだろうか
確かに俺は元パン屋であり、冒険者となっては日が浅いかも知れない
だが、だからこそ身分の違いというのはわきまえているつもりだ
こういう貴族のような面倒な相手も怒らせ無いよう、言葉を選んで対応したつもりだが
ん?待てよ、覚えておらんと申すか?
「あの後どうなったかご存知で?」
「貴様、飽くまで覚えておらんと申すのだな。よし、教えてやろう」
嫌な予感しかしないが、俺は頷く
「俺はここの領主の次男で近衛兵隊の隊長をしている。
昨日の夕刻、Sクラスのモンスターがでたとの報せがあってな、モンスターの討伐など俺の職務では無いのだが、この領最強である近衛騎士団しか相手を出来んと思い俺が近衛兵隊を率いて向かった」
確かにS級といえば並みの者では相手になるまい、しかし近衛騎士団では相手にできるのか?この領の近衛騎士団は相当の猛者揃いなのか?
「そして魔物が発見されたという峠についてみれば山のような生ける屍体の群れ、そしてそれを率いる貴様の姿よ」
「?!」
「もちろん、リッチが出たと聞いて行ったのでな、イクソシズムを極めた聖堂騎士団、そして教会選りすぐりの僧侶どもも連れていった。そしてアンデッドどもは打ち倒したがそこに残ったのが物言わぬ死体の山と貴様というわけよ」
「ちょ、ちょっと待って下さいっ、私はハイリッチを見ております、きっとそのハイリッチの仕業でございます、私は操られていたのであろうと、」
「黙れ!ハイリッチといえばSSSクラスのモンスター、ロードヴァンパイアと並ぶ闇の帝王、その様な者がおったならば今代の魔王となっていても不思議では無い!そもそもそんな者に相対したなら貴様のような者が生き残っておられるはずが無いだろうが!
貴様の体には魔力の乱れは見られん。魔の者に操られておったならばどこかに魔力乱れが出来ておるはずであろうが!ハイリッチともなれば重い後遺症になり二度と喋る事も、いや、普通に生活を送る事でさえ無理であろう、死ぬまでベッドの上か、もしくは正気を失い夢想の向こうの住人よ」
「しかし、騎士様」
「ええい!黙れ!貴様の処刑は決まっておる!明朝より市中引き回しの後火炙りよ!」
そんな……
俺は何もしていない……
だがこれはヤバい
詰みじゃないのか?
魔力の乱れもないなら操られていたとは証明出来ない
ハイリッチの目撃者も死んでしまったのか居ないようだ
どうすればいい?
このまま火炙りにされるしかないのか?
何か証明出来るものは?
そんな事を考えながら何の解決法も見出だせないまま次の日の朝はやって来た