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帰ることが幸せだとは限りません

 家を出たのは、帰還してから半年くらい経った後だった。

 二年間も行方不明で一切消息がつかめずにいた私のことを、家族がどれだけ心配したかなんて想像するだけで胸が痛い。しかも唐突にひょっこり帰ってきて、明らかに誤魔化していることがわかる言い訳をした私に、怒りを感じたって仕方ない。

 心から私の身を案じてくれていたからこそ、あれほど泣きながら怒ってくれたことはちゃんとわかってる。お前なんてもう知らないと言われたら立ち直れなかったかもしれないけど、しっかりと感情をぶつけてくれたから、安心してたんだよね。まさか家族も、私が怒られながら安心してるだなんて想像もしてなかっただろうけど。

 でもね、ちゃんと感情をぶつけてくれる家族に対して、私は本当のことも言えずにたくさんのことを誤魔化した。たぶん、私と家族の中にある深い深い溝は、行方不明そのものよりも誤魔化したことが一番の原因なんだと思う。

 しかも、二年間別の世界にいたら、日本での生活もだいぶ曖昧になってたんだよね。物慣れない感じで行動したり、雰囲気や性格もある程度変わっているであろう私を、家族はどう思っていたんだろうか。ワケありなのはひしひしと伝わっていたはずだ。

 友達だって、二年も経てば進学するか就職するかしてたよ。仲の良かった子と何度か会いはしたけど、懐かしくはあっても昔みたいにとはいかなかった。そりゃあそうだよね。

 他に残念だったことは、高二の途中で行方不明になった後も一応籍は残されていたけど、また通える根性があるわけもなく中退した。大学に進学するつもりだったのに、高校すら卒業できていないって地味にショックだったなぁ。

 家も外も居心地が悪くて、あのままウィルの手をとっていればよかったと考えたことがなかったとは、悔しいけど言えない。でもそれは、ずっと行方不明のまま家族を苦しめ続けることだとすぐに思い至って、ものすごく反省した。

 家族との関係を築きなおそう。改めてそう決意したからこそ、私は家を出ることにした。距離を置いて、少しずつ交流を重ねていきたかった。

 二年の空白と、大きな隠し事をしているがために生まれた深い溝は、どうしてって存在する。なら、今まで通りにしようとするから居心地が悪くて、うまくいかないんじゃないかなって思ったんだ。

 家族もそれに同意してくれた。またいなくなることに母は不安を見せたけど、住んでいる場所をちゃんと報告して、定期的に連絡をすると約束してくれるならって言ってくれた。

 最初は、電車で一時間くらいの場所に引っ越して、バイトをしながら夜間学校に通い高卒資格をとった。その後、他県で正社員の仕事を見つけてさらに引っ越したんだよね。就職難の時代に、よく正社員になれたよねぇ。運がよかった。まぁ今回の件でクビになるだろうけど。

 家族とも、家を出た後のほうがうまく付き合えている。定期的な連絡はしているし、お正月やお盆以外にも家に顔を出している。それなりに関係は回復しているんじゃないかな。

 だからこそもう裏切れない。いなくなるなんてこと、できない。したくない。早く帰って、家族に顔を見せに行きたい。


 王様とレオン様に話したことは、それを踏まえた、帰還した巫女の状況についてだった。


 今から思えば、私も周囲も勘違いをしていたんだろう。帰還した後はそれまで通り生活ができるだなんて、どうして思えた?

 少なくとも私は、召喚されたその時間に帰還できると勝手に思い込んでた。実際はきっちり同じだけの時間が流れていたと知った時は、茫然としたなぁ。

 それから一人で暮らすようになって日常が馴染んできた頃、ふと思っちゃったんだよね。

 今までの巫女達は? 記録では、留まった巫女もいれば帰った巫女もいるって聞いた。帰った巫女は、家族のもとに帰れたんだろうか。昔の時代ならそれは難しいんじゃないかな。たとえ家族に会えても、受け入れてくれるほどの裕福さも余裕もなかったように思える。あと、神隠しにあったと思われて忌避される存在になっていたのかもしれない。どちらにせよ、それまで通りの生活なんて無理だ。私は今の時代だからどうにかなっただけだ。

 戻っても取り戻せないものがある。戻ったほうが不幸。その可能性を、私を含めた巫女達は理解していた? 少なくとも、私は理解していなかった。帰れば今まで通りの日常を取り戻せると思い込んでいた。

 そして今回、王様とレオン様にも聞いてみたんだ。帰った巫女がどういう状況にいるかわかりますかって。そしたら、帰った巫女はみんな日常に戻って幸せにしていると思っていた。

 そりゃあさ、私みたいに二度目の召喚された人なんていないみたいだし、帰った後のことなんてわかるわけもないよね。

 でも勝手な理由で召喚をしているのはこの世界の人達だ。知らなかったで済まされては困る。少なくとも、これから先は見過ごせない。

 だからこそ、召喚の責任者となる王様とリオン様に伝えた。さすがに王様、今回の残念すぎる召喚理由に改めてものすっごく反省してたけどね。もっと反省しろ。

 そりゃあね、帰ること自体が不幸ってわけじゃないよ? 私は別に不幸じゃない。いろいろ思うところはあるけど、帰ってよかったと心から思う。

 だけど、事前に覚悟は決めたかった。同じ期間があちらで経過しているんだと知らせてほしかった。まぁレオン様達もその辺のことあんまりわかってなかったみたいだけどね。帰還ができることが自体が重要で、どういう戻り方をするかなんて考えたことがなかったらしいよ。信じられない。まぁ確認しなかった私も同じなんだけど。

 どちらにせよ私は帰っていたし、今回も帰ろうとしている。

 そして今後の召喚されるかもしれない巫女には、同じ期間が経っていると自覚したうえで選んでほしい。

 もっとも、次の時までに他の世界から巫女を召喚しなくてもすむ方法を見つけ出せってことのほうが重要だけどね! そこは思いっきり強調した。


「ハナ様」


 夕方の儀式を終えたところで、水晶の輝きはあの時のように強くなった。それを見たリオン様は、私を見つめて告げる。

「明日の朝の儀式がすめば、いつでも帰還の儀を行うことができます。いつ、行いますか?」

「明日の夕方でもいいですか?」

「ええ、明日の夕方でございますね」

「よろしくお願いします」

 儀式の予定を決めた後は、細かいことを話し合う。そしたら普段よりも時間がかかってしまった。聖石の間の外で護衛として立つウィルを待たせて申し訳ない。

「ごめん、遅くなった!」

 話し合いが終わって速攻で外に出れば、ウィルがなぜかホッとした顔。なんでホッとするの? 遅くなったけど、聖石の間にいるのに心配するようなことはないと思うんだけど。

「ウィル?」

 私の手をとって、改めてウィルは安堵の息を吐いた。

「俺にも言わず帰還してたらどうしようかと思った」

 ……まぁ確かに、二、三日の間に帰還の儀ができるようになるってことはウィルだって知っている。だからこそ、普段よりも時間がかかった今、そんな不安に襲われたんだろうなぁ。

「そんなに薄情じゃないよ。ちゃんとみんなにお別れしてから帰るに決まってるでしょ」

「ああ、わかってる」

 でも不安だった、ってことなんだろうなぁ。

「今日は打ち合わせしてたの。明日の夕方、帰るよ」

 掴まれていた手に、力が加わる。サラッと言いすぎたかな。

「朝の儀式でお役目完了なんだって。お別れはちゃんとしたいから、少し時間もらって帰還の儀は夕方にしてもらったの」

 私を見ていたウィルの目線が、ゆっくりと下に落ちた。

「……お別れ、か」

「うん、だから明日は朝から一緒にいてほしい」

 朝のうちにウィルは副隊長としての仕事を片付けているから、だいたいは他の隊員が来てくれる。でも明日は、明日だけは一日中ウィルがいい。

「当然だ」

 まだ顔を上げてくれないし、声だって震えてる。こんなに私のことを想ってくれる人なんて、ウィル以外に現れるんだろうか?

「さあ、王様のところに明日帰るよって報告しに行こう!」

 明るく言って、ウィルの手を私が握り返して歩き出す。それに引っ張られたウィルも逆らわずについてきて、繋がった手と私を見比べてから、改めて彼も握る手に力を込めてくれた。

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