spears into purning hooks
!魔王城.1F:儀典の大広間
「全く、急な話だったな」
「寝耳に水って、このことだね」
蜥蜴の槍使いが立ちはだかる怪物に同調する。その横でさっきゅんが憤っていた。ってかお前ら、人が真面目に仕事しようとしてんのに、ぺちゃくってんじゃねぇーよ。
今日はこれから少し畏まった式典だ。いわゆるシリアス回。なのに開始前からコレだよ……
ガン!っと睨みを利かせて黙らせたいところだが悲しいかな、骸骨の身では眼光も何もあったものではない。よく死んだヤツの眼から光が消えるとかあるが、そもそも目ん玉自体無いのである。
「ってか、アタシにまで内緒にして……水臭いよ!」
「ま、プライベートな話だからね」
「それにしたって!クロちゃんはそれでいいの?」
「私は一応、相談受けてたから。口止めされていたけどね」
「んがあぁぁっ!そうじゃなくってぇぇっ!」
宥める一つ目巨人にくってかかるさっきゅんだが、喚いてみたところでどうにかなるものでもない。今回の件は正式に決定済みの事で、書類上の手続きももう既に済んでいる。
最前列に目をやった蜥蜴の槍使いが呟く。
「本当に、辞めちゃうんだなぁ……」
壇上、向かい合って反対の端には豹の伝令官が落ち着きなく控えている。
これから始まるのは、退任式典。長年魔王城に勤めあげた者の労をねぎらい、その任を解くもの。
まぁ大抵の奴、特に下っ端だとあっさりと二階級特進で終了することが多いし、そうでなくても上に行けば行くほど戦闘狂が多くなるこの職場だ。役職にまで就いたのに生きているうちに離職する奴はかなり稀なはず。実際、俺も魔王に就任して長いが退任式典を執り行うのは初めてだ。そりゃもう、古い儀典とか調べまくって沢山勉強したぞ?
そうやって入念に準備を進めてきたのに、周りはみんな、いつもの朝礼と変わらないノリなの、流石に凹むわ……自分だけ張り切って、何か空回りしちゃってるカンジ?
もういい。もう始めちまおう。
顎先でサタンに合図を送る。
「静粛に!」
サタンの一声で広間のざわめきが治まった。それもそれでなんかモヤっとするなぁ……
なお、彼も今日は珍しく半裸ではなく、仰々しい衣装をその身に纏い、厳粛な雰囲気を醸し出している。似合う似合わないで言えば似合うのだが、どうにも窮屈そうに見えて仕方ない。
「これより退任式典を執り行う。荒天のチャンピオン、前へ!」
「はっ!」
サタンに呼ばれて城門警備隊隊長にして新人監督官の荒天のチャンピオンが壇上へと進む。眼前で一礼すると、携えていた豪奢な細長い布袋を差し出してきた。
「お預かりしておりました”獅子吼”、お返し致します」
「うむ」
一つ頷いて布袋を受け取り、その中身を検める。紐解かれた袋の中から顔を覗かせるのは、吼え猛る獅子の頭部を象った、金色の刃だ。
この見るからに猛々しいハルバート、黄金刃の獅子吼は、代々城門警備隊長に貸与される名誉ある逸品だ。勿論、当人の戦闘スタイルもあるので隊長は必ずこれを使わなければならないというようなことはなく、今では儀式的な意味合いの方が強い。そうは言っても、十分に高い殺傷力を具え、様々なステータス強化の特典まで満載のレアアイテムだ。
返還された槍を豹の伝令官がふらつきながらもなんとか傍らの台へと安置している間に、壇上の二人だけで会話を交わす。
「短い間だったけど、ご苦労さん」
「いえ、この度は私事でご迷惑をおかけして、何とお詫びすればよいやら……」
畏まる荒天のチャンピオンを片手で制する。
「しゃーねーべ?それよりおとっつあん、大事にな」
「はっ!勿体ないお言葉、痛み入ります」
そもそも今回の事の発端は、田舎で暮らす荒天のチャンピオンの父親が身体を壊してしまったことにあった。荒天のチャンピオンはこれを機に実家に戻り、家業の農場を継ぐことに決めたのだった。
隊長に就任してから一年足らず。まだまだこれからという時期の出来事に、当初荒天のチャンピオンは現職に留まるつもりだった。しかし、「肉親を大事にできない者に何が護れるというのだ?」と問い詰められてはぐうの音も出ず、考えを改めるに至ったのだそうだ。
そうこうしているうちに、豹の伝令官が舞台裏から荷物を運んで来る。受け取ったそれを高々と掲げて宣言する。
「彼の者の労を讃え、ここに記念の品を贈る」
白い布にくるまれた包みは先端が直角に曲がってL字になっている分、先程の布袋よりも大きい。荒天のチャンピオンが包みを解くと、中からは持ち手のついた大きな草刈り鎌が出てきた。これから農業に就こうという者への、粋な計らいというワケだ。荒天のチャンピオンがまたまた畏まる。
「おおっ!有難き幸せ!」
うん、いちいち声が大きい。しかし喜んでもらえたようでなによりだ。彼のような脳筋ファイターが歓喜のあまり肩を震わせ、目を潤ませる様は、見ていて悪くない。
感涙を呑み込んで荒天のチャンピオンが吠える。
「寛大なるオールドウィロー陛下の治世よ、常しえにあれ!今この身は戦線を離るるとも、陛下の大望の為とあらば、いつでも馳せ参じましょうぞ!」
「あ、んん、まぁ、よろしく?」
もう少し平和的に締めたかったのだが、どうもそんな流れではないらしい。
……仕方がない。
一つ咳払いをしてから、魔王の威圧も忘れずに発動させておく。
「陽に縛られるこの身では海の外へと版図を広げゆくことはおろか、この大陸一つ統べることすら、未だにままならぬ」
一つ思わせぶりに溜め息を吐いて頭を振る。もちろん、ちょっとでもそれっぽく見えるようにという演技だ。
「故に。余は己が立つ地を固めることを殊の外、欲する。其方の振るう鋤の一つ、払う鎌の一つが我が世の礎となることを努努忘れるでないぞ?」
勿体つけた言い方だが、要は「開墾頑張ってね」という話である。
それでもものは言い様で、恐縮した荒天のチャンピオンが一回り小さく見えるのだった。
ロード「正味、版図拡大とか微塵も興味ないのだが」
豹の伝令官「ぶっちゃけた?!」
ロード「でもまぁ、それっぽい話の一つもしておかないと示しがつかないってゆーか?面倒ぃけど」
豹の伝令官「ホント、なんでこの人魔王なんかやってるんだろう……?」




