ロード、何か非常によろしくない気がするのですが……
サーシャの提案というのはなんてことはない。プレゼントなんてどうでしょう?という、非常にシンプルなものだった。堅っ苦しく言えば、記念品贈呈。いや、記念品どころか記念碑の一つも立って可笑しくない吉事なんだが。
言われて思い出したけど、サーシャが来た時にも服をプレゼントしたんだよな、俺。まぁ、アレはサーシャの着ていた生け贄の装束がナシではないにしろ、街中を歩くにはややお勧め出来ない衣装だったから、ってのが大きかったからなんだけど。
その流れというワケでもないけど、りっちゃんに贈るのも服がいいな、ってところまであっさり決まった。
いや、だって。りっちゃん、普通の服は着れないし。
腐蝕に耐性のある衣類なんて、そうそうないぞ?「毒完全無効」だってけっこうレアな装備なんだからな?
察しのいい奴なら気付いたかも知れないが、りっちゃんが今着ているやつ、実は俺とお揃い――漆黒の法衣(幼女用)なのだ。伝説級のアイテムを惜し気もなくカットして縫い直したお手製品。カットした布地で作ったバッグは控えめのフリル付きでちょっぴりキュート。落ち着いた色合いの中に可愛さが鋭く刃を光らせる、作った本人(俺)も「これ以上の逸品はもう、死んでも作れないだろう」と言い切った名作中の名作だ。勿論、全てはそれを身に纏うりっちゃんの可愛さあってこそなのだが、それは最早言うに及ばないだろう。
兎も角そんなワケで、りっちゃんが着れる服は少ない。一応、あのバッグの中に着替えが一着あるはずだが……アレは駄目だ。アレだけは絶対に駄目だ。反則にも程がある。早急に新しい服を用意してりっちゃんにアレは着ないように言いつけないと……
「早急にグリンに発注しないといかんな」
「グリンがどうかしましたか、ロード?」
何時の間にか豹の伝令官が帰って来ていた。早すぎるだろ、お前。
「ま、丁度いいや。グリンに一仕事頼もうと思ってな」
「仕事……ですか?」
え?なんでそんなあからさまに嫌そうな顔をされにゃならんの、俺?
「グリンさんは今、ちょっと大変な時期なんですよね。今日の有給だってそれで……」
「でもコイツがフラフラしてるってことは別にケガとか病気ってワケでもないんだろう?」
「それは……まぁ、そうですけど……」
コイツの性格上、もしそうだったら家で付きっきりの看病に勤しんでいるに違いない。行きずりの幼女>同棲相手とゆー判断なら、コイツの評価を改める必要がある。
「他の仕事が忙しいとかだったら強権発動するまでだ。詳しいことはまた後でグリンに伝えるとして、こっちはこっちで――」
りっちゃんの両脇から腕を通して抱き上げる。ほえっ?とあどけない顔で振り返るりっちゃんだが、もう既に手遅れだ。逃がさないようにとロックはがっちり決まっている。
「それじゃー一緒にお風呂、入ろっか?」
!魔王城:大浴場.脱衣場
何時からそうなのか知らないが、りっちゃんはお風呂が嫌いだ。まぁ、熱い湯船にゆっくりと浸かれないのには同情しないでもないが(お湯も腐る。なんかこう、ヘドロみたいになる)、女の子が不衛生というのは如何なものか?そんな感覚でいるから、手持ちの服は少ないし、多分、ロクに洗濯もしていないのだろう。
「そんなこと言っても死霊族には代謝とかないですし、汗もかいたりしませんから、必要ないと思いませんか?」
「つっても、長旅で随分とホコリ被ってるだろ?ほれほれ、さっさと脱げ」
「女の子は身綺麗にしなきゃダメですよー?」
サーシャにたしなめられてしぶしぶ服を脱ぐりっちゃん。脱いだ服はその場で語らぬ従者に洗濯しておくように命じる。
「あの……やっぱり、僕がここにいるのは何か非常によろしくない気がするのですが……」
戸口の所で豹の伝令官が狼狽えていた。魔王様権限で連行され、ここまで来ておきながら未だに肝が据えられないとは、情けない。
「わざわざりっちゃんを送ってくれたんだ。お前も一っ風呂浴びてきゃいいだろ?」
「そんなの帰ってからにしますって」
「え?帰っちまうの?」
「家でグリンが待ってますから。それに、気遣う風に言って見せて後で「幼女とお風呂に入ってた」とかゆー根も葉もある事実を流布してからかいたいだけなんでしょ、ロード?」
見抜かれていた。チッ!
「兎に角、さっさと入ってこいよ。腰タオルくらいは勘弁してやるから」
浴場の引き戸を開けると、湯船の中にいた先客と目があった。
「あぁ、さっきゅんか。お疲れー」
「あ、お疲れ様でーす。んっ!?何っ、その子?超可愛いっ!」
さっきゅんが湯船から飛び上がるのと同時に有刺障壁、水晶の防壁、鋼の防護壁を重ね張りする。
「何だ、お前聞いてないのか?今度からココで暮らすことになったりっちゃんだ。触れたら死ぬからな。間違っても手を出すなよ?」
「アタシがそんな脅しに屈するとでも思ったか!?」
「いや、脅しとかじゃなくてだな……」
「遂に雌雄を決する時が来たのね!」
「いや、決するも何も誰がどー見てもお前がメスだろ」
ん?淫魔って、オスにもなれるんだっけか?
「問答無用!アンタを倒してついでにその子も押し倒す!」
「落ち着けと言っている」
ふんぞり反って浴槽の縁に立つさっきゅんを二重の衝撃で湯船に沈める。
「だから。りっちゃんに手を出す奴は俺が~とか、そんなんじゃないの。そのまんまの意味で、りっちゃんがそーゆー体質なの」
「えーっ!?それじゃぁ、アタシの滾る想いはどこにぶつければ……」
「知るか。っつーか、こっち見んな」
想いと書いて性欲と読ませるパターンだろ、コレ。
「あ、そこに丁度都合のいい生け贄が……」
戸口を振り返るとそこには旋風だけを残して、豹の伝令官の姿は消えてなくなっていた。
※なお、骸骨騎士ははりっちゃんのパンツを気にした罪で異次元に放り込まれました。




