まぁ、そーゆーモンだ
頭が、割れるように痛む。
身体を捻って仰向けになると、少しだけ楽になった気がした。俯せに伏せっていては、胸を潰して、詰まらせてしまうということなのか。大きく息を吐いて、天を仰ぐ。
――気を失っていた?
こめかみに手を当てて何があったのか、記憶を辿ろうとすると、再び頭痛に襲われた。でも、それで全てを思い出した。
気を失っている間に捕らわれてしまったのかとも思ったけど、果てしなく広い空間に置かれているのを見れば、どうやらそうでもないらしい。右を見ても左を見てもただただ暗い場所だった。
ふと、胸先に一対の小さな光の粒が浮かんでいるのが目に入った。これまた懐かしい物が出て来たもんだ。
光は尾を引いて互いを追うように円を描いている。
これに何度命を救われたことか分からないが、そもそもこれがなければ、そんな危険な目にあうこともなかった筈。感謝よりも僅かに嫌悪が勝っていることに気付いた時、光の粒は静かに自分から離れて行った。上へ、上へ、と昇り、遠ざかっていく光を追って、気が付けば立ち上がり、手を伸ばしていた。
「あれの、せいか」
突然の声に驚いて振り向くと、そこには何時からいたのか、丸テーブルについてこちらを眺めている骸骨がいた。慌てて剣を取ろうとして気付く。
「アタシ、何でハダカなのーっ!?」
一切合切の装備品が、気持ちのいいくらいに綺麗サッパリ消えて無くなっていた。ついでになんだか身体がちょっぴりキラキラしているように見える。
「あー、うん、まぁ、そーゆーモンだ。細かいことは気にすんな。そんな身構えンなって」
そんな風にさも当然のように言われても。全然細かいことじゃないし。それに、身構えるなと言われても、それは無理な相談だ。目の前の相手はどう見たって只者じゃない。いや、骸骨が喋ってる時点でただ事じゃないんだけど。
大粒の宝石が嵌まった王冠。
豪奢な金刺繍で縁取られた黒衣。
何より、頬杖ついて偉っっそーな態度。
骸骨は骸骨でも、ただの骸骨じゃないのは一目瞭然だったし、何となくその正体に察しはついたけど、一応、訊いてみる。
「あんた、何者?」
「俺?L.D.オールドウィロー。49代目、魔王」
相手はあっけらかんと答えてみせる。あー、やっぱねー、と思う傍らで、気さくというよりも緩過ぎる口調に骨を抜かれてしまっていた。目の前にいるコイツを倒しに来た筈なのに。勧められるままに、丸イスに腰かける。
こうなったら取敢えず、いつものアレだ。両腕を組んで、谷間を強調しつつ、上目遣いで。
「ねぇ、アンタ、死んでくれないかなぁ?」
「死ねって言われた!?初対面の奴に!俺、魔王なのに!」
「いや、魔王だったらそういう言い合いはしょっちゅうしてるでしょ?」
あぁ、魔王まで辿り着くヤツがいなけりゃ言われることもないのか?
ちょいと凹み気味な魔王に吹き出しそうになる。意外なところで大ダメージを叩き込めて、ちょっとした満足感に浸ることが出来た。
満足、か。
上を見上げてもやっぱり真っ暗な空間が果てしなく広がっている。だけどきっと、アタシの果ては、ここだ。
「……これって、アレでしょ?肉体は死んじゃったけど魂は辛うじて生きていて、精神世界っぽい所で漂っていて。それを「未練があるなら我が僕として蘇るがいい!」とか何とか言って、アンタお得意の呪術で蘇らせて使役しようって、そんなスカウトなんでしょ?だったらアタシはあんたに死んで欲しい。魔王がいなくなって、みんな幸せ、アタシも幸せ。それにはアタシが蘇る必要はないんだわ」
「あー、何かイイ感じに黄昏てるとこ悪いんだけど、違うんだな。むしろ逆」
「にゃんですと!?」
人が珍しく殊勝なこと言って見せたのに、それじゃぁこっぱずかしいだけじゃん!?見せ損じゃん!?




