陛下、こんなところで何を……?
!魔王城:執政室
「おぅふ……これは見立てが甘かったか……」
「演武会が大盛況だったせいか、色々と新規事業の申請が来てるッス。サボりにサボったツケッスね」
骸骨騎士に言われるまでもない。昨日までのサボり魔な自分を軽く呪った。
扉を開けた瞬間に目に飛び込んできた書類の山、山、山……丸くする目は持ち合わせていないので、開いた口が塞がらなかった、と言っておく。
月並みな表現だが、執政室は書類の山で足の踏み場もなかった。とゆーか、まず足を踏み入れることが許されなかった。雪崩れ込む報復されないだけまだ僥倖と言うべきなのか?
「なぁ、指と指との間に持ったら片手でも4本、判子が持てるじゃん?両手で8本。そんな感じの八刀流でこの難敵をちゃちゃちゃっ!と片付けられないか?」
「やれと言うならやるッスけど……でも判子押す前にちゃんとロードが中身を確認するッスよ?」
「ぐぬぬっ……」
「中身も見ずにハンコだけ押してそれでOKなんて、そんなやっつけ仕事、ダメッスよ」
手抜きを許してくれる優しさを骸骨騎士は持ち合わせていないみたいだ。
仕方がない。入口に近いところから少しずつ切り崩していこう。
取敢えず山の半分程を持ち出そうと手にしたところで雪崩れ込む報復に見舞われた。
……これは、折れるわ…………骨も、心も。
!魔王城:執政室前
「……こんなところで何をなさってるのですか、陛下?」
「見りゃ分かるだろ?書類仕事だよ#」
分かり切ったことを訊くサタンに、苛立ちを隠せない。
「ハンコ押しのアルバイトです」
「アタシ、見守る係~」
傍らにサーシャを侍らせて、向かいにはさっきゅんも。3人で廊下に陣取って、明らかに通行の妨げになっていた。部屋から溢れ出した書類もそのまま放置されている。
なお、骸骨騎士は既に出勤していてこの場にはいない。彼の高速スタンピングは速すぎて、こちらの読み込みが追い付かなかった。正直に言えば相方がサーシャでも、判子一つに対して書類は付随資料で5枚とか10枚とかに膨れ上がるので、どうにも分が悪い。
「王サマはどーせ寝ないんだから、書類くらいその気になればいっくらでも読んでられるでしょ?」
「その気にならないから、この惨状に到るんだが。あぁ、こっちの目処がつくまで警備隊の指揮は頼むぞ、サタン」
「それは構いませんが……」
魔王軍の指揮が、等閑だった。
「ついでに、コレ」
さっき(サーシャが)ハンコを押した書類をサタンに突き出す。
「コレは……ど、どういう事ですか、陛下!」
サタンに渡したのは件のさっきゅんの中ボスへの推薦書。紙面には真っ赤な”不可”の二文字が踊っている。
「魂の饗宴の制圧力は確かに強力だけど、味方も巻き込むからな。単独なら強力な一手だが、手下を率いていながら使うモンじゃねぇよ」
その辺が全体魔法の厄介なところだ。安らかに眠れや抹消が気軽に使えないのは、敵味方の区別なく一定の範囲内にいれば平等に影響を受けるからで、それは魂の饗宴も変わらない。
「他に攻め手があれば昇格も有り得たんだけどな。魂の饗宴は出力次第じゃ全体即死と同義なわけだし。でもそれしか取り柄がなくてそれも使い処に困るってんじゃ、戦力としては全く当てにならない。よって中ボスとしては相応しくない。以上」
「し、しかし……」
「あぁっ、もぅ!分かってないなぁ!」
あ。さっきゅんがキレた?
「アタシみたいな入隊して間もないペーペーに中ボスなんて勤まるワケないでしょーがっ!大体アタシ、司令官タイプじゃないよ?援護キャラだよ?その辺、分かってんの?」
「でもお前、支配階級になりたいって……」
「ペットくらいこっそりと飼えばいいのよ!無理して偉くなったって風当たり強くてしんどいだけだって、王サマやサタン様見てたら分かるわよ!ヤだったらヤだ!」
珍しく徹頭徹尾ご立腹なさっきゅんだが、頬っぺた膨らませたアヒル口は逆に微笑ましい。
「ま、本人が嫌だってんのに無理強いしても仕方ないだろう?推薦するならするで、せめて当人の意志くらいは確認しておけっての」
嫌がるサーシャに無理矢理(金の腕輪を)ハメた俺が言うのもなんだが。それはそれ、これはこれ。こっちは一応、仕事の話なのだ。
まだブチブチと文句を言うさっきゅんはおいておいて(文句言われているのはサタンだ。俺は関係ない)、手近な書類を拾い上げて仕事再開だ。
「あ、魔王様。コレ」
「ん?」
サーシャが差し出した書類を見た途端、ハンコを押したい衝動に駆られた。
書類の署名は豹の伝令官のもので、内容は有休の申請だった。




