ウワサ話
回想回。
ロードが留守の間に、魔王城で何があったのか?
!魔王城:警備兵詰所
「なあ、聞いたか?例のウワサ」
「あぁ、ロードのあれ、な」
「何だ何だ?」
下位悪魔の振りに鷲獅子が眉をひそめ、小鬼の略奪者が興味深そうに尋ねる。
「一ヶ月くらいロードが休暇取ってるアレ、人間の娘といちゃラブ旅行に出掛けてるって話だぜ?」
「はぁ?骸骨の身でリア充かよ」
「随分前に生け贄の娘が来てただろ?アレらしいぜ」
「あ~、そんなのもいたっけ。ってか、まだ生きてたんだ?w」
「ロードのお気に入りなら大切にされてんじゃねーの?何処に幽閉してるか知らねーけど」
「ま、俺等じゃご相伴にあずかれねーやな」
緋色の悪鬼がカカカッと笑い飛ばす。牛人軍曹もどかっと腰を下ろして話に加わった。
「そんな理由で公務を放り出すロードもロードなら、それに嬉々として従うサタンもサタンだな」
「確かにあの姿は見てて情けないよな。あんなのが悪魔族のトップかと思うと、何だかみじめになってくるよ」
真夏の夜の夢が首を振る。テーブルの向こうで騒乱のイフリートが憤る。
「大体ロードもサタンも侵攻に消極的過ぎるんだよ!」
「ロードは死霊族だから日の下には出られないし、他の大陸に遠征するのは難しいんでないの?しっかりと拠点を固めていかないと……」
「骸骨騎士さんも死霊族だし、54さんは活動限界があるし。そうなると海外遠征行けるのってサタンさんくらいなのか?」
薄暮に這うものが小首を傾げて訊ねるのを無視して、冷血漢が話を戻す。
「いや、そもそもロードが遠征しないのって、所詮は元ニンゲンってことなんじゃないの?どっちにしろサタンはそれに対抗しなきゃいかんのだけど」
「まだ真っ向からロードに挑んだヴェルウッドの面々の方が男らしいし、悪魔族らしいよ。ボロ負けだったけど」
「サタンはゾンビ化にビビりすぎw」
「でもヴェルウッドの今の当主とサタンとどっちがマシか?って聞かれても困るよな」
「それならいっそのこと俺が!って言いたくなってくるぜw」
「分かる分かるww」
責め苦のトロルも三鈷杵尾の災い魔も手を叩いて笑い囃すのを裏切りの女魔術師がたしなめる。
「中途半端な実力で下剋上を決めたところで的にされるだけですよ」
「お疲れ―!何盛り上がってたの?」
扉を開けて入って来た淫魔――さっきゅんが訊ねる。
「海外遠征とか、下剋上とか?」
「うわー……分相応にしときなよ」
「それ今裏切りの女魔術師にも言われたw」
「大体今王サマいないじゃん」
「あー、最初はそんな話だったっけか?生贄娘といちゃいちゃしてるってんだろ?」
「それが事実ならあたしは断固として抗議する!なんであたしも交ぜないの!!」
さっきゅんが目を吊り上げて叫ぶ。その脳内でどんなイメージ図が描かれているかは兎も角、その場に加わりたいというのは一切の嘘偽りのない、心からの本心だ。
「やっぱ元ニンゲンだからニンゲンには甘いんかねー?あの人、就任以来一度も侵攻してないっしょ?魔王歴浅いにしてもここまでないってのは異常なことだよ?」
「んー、それは……王サマとしてはまずは魔族内部をしっかりと束ねたいみたいだよ?その割にはしょっちゅう仕事サボってるけどさw」
「ロードの意図がどうかなんて知らねぇよ。外で暴れる機会がないからみんな鬱憤が溜まってんだよ」
「滾ってるねぇwちゃんとヌイてんの?ww」
滾る騒乱のイフリートを笑って野次る。
「だから溜まってるってんだろ!せめてサタンがもっと外部侵攻を進言してくれりゃぁよかったものを……あのふにゃチンがっ!!」
「ふにゃっ?」
「ゾンビ化にビビっちまってロードにいいように使われてるタマ無しには――んがっ?!」
がなり立てる騒乱のイフリートの下腹部をさっきゅんの右手がそのまま握り潰してしまいそうな勢いで鷲掴みにする。
「誰がタマ無しだって?陰でブツブツ言うしか能のない奴らがサタン様のことをふにゃチンとかタマ無しとか早漏とか好き勝手言うな!」
「早漏は言ってな――ふぐぅおぁっ!?」
さっきゅんの右手が白く光ると騒乱のイフリートの身体はみるみる干からびていく。あっという間に枯れ木のように涸れ果てて崩れ落ちた騒乱のイフリートには目もくれずに啖呵を切る。
「サタン様に文句のある奴はあたしが聞いてやる!その代わり十日はベッドの上でおねんねだよ!!」
さっきゅんの大ボス級の気迫に気圧され、その場にいた魔物たちは皆一瞬怯んだが、すぐに誰からともなく怒号を上げて雪崩うって襲い掛かった。
さっきゅん「以下、三日三晩の連戦に次ぐ連戦でした」
ロード「いくら吸精があるとはいえ、無茶にも程がある……」
さっきゅん「あ、でも途中から手籠め……じゃない、手駒にしたうろの下僕さんや裏切りの女魔術師さんたちにも手伝ってもらいましたから」
ロード「お前の身を案じてるんじゃねぇーよ」




