大鎌にしましょうよ?ロード
!森林の深淵:夜営地->ジストピア:鐘楼前
祟られた杖に注いだ魔力で4本の飾り布がはためき、逆立って先端の宝玉を覆い隠す。更に魔力を込めて飾り布をコーティングすることで祟られた杖は槍へと変貌する。
「って、何で唐突に槍なんですか?いえ、別に唐突に武装するのはいいんですが、何でよりによって槍なんですか?ここは大鎌とか、そんなんじゃないんですか?死霊王として!」
豹の伝令官がなんかもう、必死だった。言いたいことは分かる。俺の得物として槍が不似合だってのも、自分を差し置いて槍を振るってくれるな、って言いたいのも。だが残念ながらこれから使う魔法は大鎌状態では非常にやりにくいのだ。
「まぁ、そこそこ刃渡りもあることだし、薙刀だとでも思っとけ」
充分に魔力のこもった飾り布には無数の線と文字が輝き浮かび上がっている。準備オッケー。
ちぇい!っと掛け声をかけて槍を空間に突き立てる。突き立てた先からその穂先は空間に呑まれて消えた。怪しい色の炎が残された槍の先端から漏れ、うねって渦を巻きながら楕円形に拡がる。
「開け!次元の裂け目!」
怪しい色の炎は楕円の中心から縁へと引いていき、怪しい色の炎に縁取られた楕円の中には見慣れた景色が広がっていた。
空間魔法次元の裂け目はその名の通り次元を裂いて1週間以上かけて歩いた距離をゼロ距離に繋げたのだ。
物珍しげにあっちからこっちからと覗き込むサーシャに言う。
「ほらほら、さっさと通れ」
「あ、はい」
「くれぐれも縁には触れるなよ?」
おっかなびっくりのサーシャに続いて豹の伝令官、最後に俺も裂け目をくぐる。降り立ったのはジストピアでも城壁の間際、鐘楼前の小広場。王都の片隅はまだ夜も明けないが(そもそも日が昇ることもないが)、それでも鬱蒼とした森林の深淵よりは随分と明るく感じた。
「魔王城じゃないんですね?」
祟られた杖を元に戻している傍らで、豹の伝令官が呟く。
「あぁん?お前もサーシャも家はこっちだろ?」
「でも私、サタンさんに帰還報告しないといけませんし……」
「あー、そっか。すっかり忘れてたけどお前はサタンの命令で動いていたんだったな。グリンに顔見せてかなくていいのか?」
「まだ寝てるでしょうから、いいですよ」
「……長期出張の予定だったのが急遽切り上げての帰還……トラブルが待ってない方がおかしいな」
「ちょっ!?グリンに限ってNTRとかないですから!」
「そんなら行くか。じゃぁなサーシャ、お疲れさん。ゆっくり休めよ。」
手を振って別れを告げるとサーシャはぺこりと一礼して大通りの方へと駆けて行った。思っていたよりも元気そうな姿に胸を撫で下ろす。いや、だから撫で下ろすようなムネなんてないんだが。
もうすっかり立ち直ったように見えるのはやっぱりこの街に帰って来たから、なのだろうか?
その姿が街角の向こうに消えるまで見送ってから歩き出す。
「……って、歩くんですか?転移魔法は?」
「使わねぇよ、アホ。さりげなく魔王をアッシーにしようとしてんじゃねぇよ」
「……ひょっとしてロード、わざと歩いていません?帰って仕事するのが嫌で……」
「試合で随分と魔力を垂れ流しちまったからな。本当は帰りだって使う予定じゃなかったんだぞ?でもまぁ、サーシャのあんな様を見てたら居た堪れないだろ」
その言葉に手を打ってすっかり納得の豹の伝令官だが、そもそもそんなムダ遣いしなければだけの良かった話だ。
そして恐らくは山積みになって俺の帰りを待ち構えているであろう決裁書類が怖いというのも、確かになくはない。魔王にだって怖いものはあるのだ。
!魔王城:正門前
「あ!」
「えっ?」
「お帰りなさいませ」
城門の前にいたのはUW54-Pだった。周りを見ても他の警備隊員がいるわけではない。つまり、彼(?)が城門の守備に当たっているということだ。
UW54-P――正式名称「あるてぃめっとうえぽんごーよんぴー」は普段は魔王城でも最深部にいることが多い。その名の通りの最終兵器。そんな、豹の伝令官とはまた違った意味で戦闘場面に恵まれない彼(?)が最前線にいたのだ。そりゃ驚きもする。
なんなんだ、この配置は?
なんなんだ、この配置は?
「今更いつぞやの埋め合わせってこともないとは思いますが……詳しい所はサタンさんに直接聞いて下さい」
ムネなんて、ないと繰り返し言ってきているのに、胸騒ぎしかしない。
俺のいない間に、魔王城の中で何かが起きているようだった。




