ロード……いい加減、やめませんか?
!暗黒大陸:西方.森林の深淵
楽しんだ後には後片付けをしなきゃならない。面倒臭いことだけど、仕方がない。今回の演武会は非常に大盛況だった分、後始末も一苦労だった。
中でも一番厄介な問題に片を付けに行こうと、ミスターXと繋がれた歌姫と豹の伝令官の3人は今、目的の地に向けて森の中を歩いているのだ。
「――って、なんでお前が付いてくるんだ?」
「魔王代行の命令ですので」
ツンとすました顔で豹の伝令官が応える。
「俺は命令してないけど?」
折角サーシャと二人きりの予定が(歯軋り
このために小細工を弄したというのに。
エクストラ・マッチで活躍を見せたミスターXと繋がれた歌姫は、魔王からとある後始末を命令された、ということになっている。そういう体なのだ。魔王でミスターXに命令を下すとか、何とも回りくどい話だが。サーシャにも魔王様権限で出頭命令を出しちゃってるし(サーシャは今、魔王城にいることになっていて、ここにいるのはあくまでも繋がれた歌姫。ここもそういう体なのだ)
なお現在は人目をはばかることもないので、装備品は鮮血のドレスでもなければ戒めの鎖もアイマスクも身に着けてはいない。いつも通り普段着の銀刺繍のワンピース姿で、どっからどう見てもサーシャその人。繋がれた歌姫要素は全くもって皆無だった。
それにしても……豹の伝令官が邪魔だ。コイツの同行だけは俺の予定にはなかった。はっきり言って邪魔者だ。
「私も必要ないかとは思いますが、二人を護衛せよとのご命令ですので」
豹の伝令官に同行を命じたのはサタンの精一杯の嫌がらせだろうか?ミスターXとしてはそれを拒絶することはできない。ぐぬぬ。コイツに罪はないのは分かっちゃいるが、八つ当たりの一つもしたくなる。
「護衛って言うか、お守りですよね。豹の伝令官さんがいれば遭遇戦はないでしょうから」
「甘いな。中途半端に強いのが出てきてコイツのことも庇いながら戦うハメになるのがオチだ」
何があっても豹の伝令官の戦闘シーンは展開されないのだ。
「そ、そんなことよりも……」
若干、ダメージを受け気味の豹の伝令官が話題を変える。
「最近オットーの機嫌がすこぶる悪いですよ。店が繁盛して忙しいのに、サーシャを取られちゃってるから……」
サーシャの顔がわずかに曇った。仕事を放りだしてのお出掛けが今頃気が咎めたのだろうか?
「商売やる奴にとっちゃ、人材の確保・育成は生命線だぜ?財産の「財」の字をあてたりもするくらいだからな。それを全うできない奴が悪い」
「魔王様権限で連行しておいて、横暴な……」
「ん~……オットーさんはともかく、アンナちゃんには随分と仕事押し付けちゃってるし、どこかで穴埋めしないといけないなぁ~」
「アンナちゃん?」
すっとぼけて尋ねてみる。
「ほら、演武会の出店で一緒にいたじゃないですか。半吸血鬼の」
「あーあー、居たっけか、そんなのも」
名前はおろか台詞すらなかったMOBを覚えておけという方が、酷な話だ。
「何かいいお土産があるといいんですけど……」
「観光気分かよ……俺はともかく、お前なんかは無事に帰れるか……」
「そんな危険な任務だったんですか!?」
豹の伝令官が目を丸くする。……コイツも(恐らくはサタンも)俺がサーシャとしっぽり二人旅を楽しもうと企ててたとか、そんな認識だったんだろうな……
「あのな、お前も聞いていただろう?魔王様が「西の地で世の意にそぐわぬことが起こる。それを解決して参れ」って命じていたのを。魔王様が事態を案じるほどの案件を俺たちは預かっているんだ」
両手を広げて仰々しい声を響かせてみる。ちょっとは緊張感を持って貰おうと授賞式での魔王の威厳を再現する。が、やればやるほどに豹の伝令官は冷めた目になる。
「…………ロード……いい加減、やめませんか?一人二役」
「……うん」
本音を言えば、自分でもちょっと面倒くなってきていたのだった。
骸骨騎士「この魔王城、留守率高過ぎッスね……」
サタン「言うな……」
さっきゅん「さーちゃんばっかり、ずぅーるぅーいぃーー!!」




