またですか?……陛下……
天使像が放った目映い光にサタンが一歩、二歩、よろめく。あのバカ、反撃があるって教えてやったのに、忘れちまったのか?気を抜いてる暇なんぞないぞ?
目が眩むほどの閃光は、予兆に過ぎない。本命は光が過ぎ去ったあと、サタンのすぐ目の前にあった。
赤と黒が混じりあった斑模様の小さな小さな光球がサタンの胸先に浮いていたのだ。その存在を認識した刹那、サタンの顔面から血の気が引く。
「んなっ!?ま、まさか……っ!?」
反射的にサタンが防御態勢をとりつつ飛び退く。それと同時に光球の表面に赤い雷光が迸り、音もなく爆ぜ、爆発が大地を抉る。一瞬のうちに先程のサタンの攻撃で出来たものよりは一回り小さなクレーターがそこには形成されていた。
「りゅーやん、大丈夫か?」
「ん……へーき」
りゅーやんが肩の土埃を払い落とす。サタンが攻撃した時と違って、今度は爆心地がとても近い。とっさに展開した三方を守護する水晶壁で被害はほとんどなかったが、展開した防壁は根こそぎ持っていかれた。それが魔法本体の威力ではなく、あくまでその余波の威力に過ぎないというのはにわかには信じ難い。この距離でしかも余波でこの威力だというのなら、直撃ダメージはどれくらいのものになるやら……
「しっ……信じられん……」
前方でサタンが膝をついていた。地面の抉れ具合から見て、反射的に前方に多重障壁を展開して直撃は避けたものの、薄い障壁は何枚重ねようがまとめて薙ぎ払われてしまったようだった。更には渦を巻いた爆発の横殴りの爆風の方はモロに喰らってしまったようで、ガードしていた腕と翼が著しく焼け爛れている。
「あれは……縮小複製……?いやしかし…………」
再発のように、発動中の魔法をそっくりそのまま複製してしまう魔法はいくつかある。別段、特殊な魔法ではない。さっきの|三方を守護する水晶壁《クリスタル・ウォール-3Way》や多重障壁といった同種の魔法を同時に展開する時には普通に術式の中に組み込まれてくる、むしろありふれた魔法と言える。しかし、天使像の反撃を”魔法を複製した”と解釈しようとすると一つの謎にぶち当たってしまうのだ。
それは、サタンの崩れゆく煉獄山が、単純な魔法ではないという点。発現した炎魔法と闇魔法のそれぞれをお互いに掛け合わせてその結果得られたのがあの破壊力なのだ。俺があくまで技と評したように、崩れゆく煉獄山という魔法は存在しない、という言い方もできる。つまりあれが崩れゆく煉獄山の複製だとするならば、サタンがそうしたようにまずは炎魔法と闇魔法を発動させるところから始めなければならない。それを操作し、融合させる手順を魔法で処理することもできるが、そういった手順を踏んで初めて崩れゆく煉獄山として完成するのだ。なのに天使像はその手順の一切を無視して成果物のみをポンと送り出してきた。サタンが当惑するのも当然だ。反射されてた方がすんなりと納得できただろう。天使像が一度攻撃を受けきっている以上それはないけどな。
なんにせよ、天使像に一撃見舞って、その反撃をしのぎ切った。これで任務完了だ。釈然としない顔のサタンだが、もう時間切れだ。どこかでピーンという甲高い音が鳴り響いて、3人は元の幽玄の間へと強制転送された。
!魔王城:幽玄の間
「力を試す計測器のようなものだとすれば、頑丈に作られていてしかるべきだけど、やりすぎだよね。絶対に破壊不能とかヘンな特性持ってるよ、アレ」
一仕事終えてみればりゅーやんはえらく上機嫌だった。ちょっと鼻息が荒い。天使像について新たな情報が得られた上に、オマケでサタンの崩れゆく煉獄山も見られたのだ、そりゃ興奮もするだろう。分析とか解析とか、謎解きとかはコイツの大好物だからな。ほんと、竜王じゃなくて解説者でもやってろよと、常々思う。まぁ、そういった面で話せる奴だから意気投合したってのは確かにあるんだけどな。
「でも崩れゆく煉獄山は着弾点の破壊力こそ抜群に高いけど、範囲攻撃として見たら抹消の方が確実性が高いよね?」
言われるまでもなく、崩れゆく煉獄山は実戦向きな技ではない。そもそも手間がかかりすぎだ。遠くから城を吹き飛ばすような大雑把な攻城戦なら使えなくもないが、それだって抹消の炎の大洪水ですべて飲み込んでしまえば事足りる話だ。
ご機嫌で饒舌なりゅーやんは放置して、サタンに今後の予定を伝える。
「こっちはこれで良しとして。それじゃぁサタン、またしばらく頼むぞ」
「頼むぞって……?」
「ちょっと出掛けてくるから。代行よろしく」
竜王「術式を複写するんじゃなくて、魔法エネルギーそのものを生成……?」
ロード「おーい」
竜王「でもサタン君の攻撃は攻撃として機能したうえで完結してるから反射や吸収はないし……どっからそのエネルギーを……?」
ロード「おーーい…………閉めていいか?」




