陛下……何ですか、これは……
!魔王城:秘密の通路
冷やりとした空気の流れる石造りの通路を進む大ボス4体+MOB1体の影。
「授賞式ではなんかそれっぽいこと言ってましたけど、要は自分の仕事をサタンさんに押し付けて、自分は楽したいだけですよね?」
豹の伝令官の鋭いツッコミに対してりゅーやんがフォローを入れてくれる。
「まぁまぁ。実際問題、健全な組織であるためには特定の者にしか出来ないことがあるって状態は改善が必要なのだよ。権限はともかく、作業としては誰かしら別の者が対処できるようになっていれば不安は少ないからね」
「現に今は演武会で魔力かなり使っちゃったからさ。流石にこれ以上はいざと言う時に困るからサタンにお願いするってワケだ」
繋がれた歌姫こと、サーシャ経由で散々魔力を垂れ流しにしたからな。
「……演武会、もう少し自重すれば良かっただけの話じゃないですか……」
「てか、陛下に準魔王級のおっさん、それに竜王さんまでいて困るような事態ってちょっと想像つかないッス」
螺旋階段を下り、通路を更に進む。やがて見えてきたのは黒い鋼鉄製の扉。硬く閉ざされているはずのその扉からは重く澱んだ空気が漏れ出している。
「なんか……怖い……」
豹の伝令官が一歩後退る。見事なまでにしっぽがヘタレているが、それも無理ない。サタンだって何か感じるところがあるのだろう、緊張と警戒で気が張っているのが一目瞭然なのだ。そんな不吉と威圧感に溢れた存在を前に一MOBが平然と立っていられるわけが……ってか、そもそもなんでお前が付いて来ているんだ?
目配せでサタンにその扉を開かせる。澱んだ空気が通路に雪崩れ込み、豹の伝令官が更にもう一歩後退る。
「んじゃ、行ってくるわ」
「ウィッス」
俺、サタンの後にりゅーやんが続く。その後を追って恐る恐る部屋に入ろうとする豹の伝令官の首根っこを引っ掴んで骸骨騎士が引き止める。
「止めとけ。死ぬぞ?」
!魔王城:幽玄の間
外から骸骨騎士が扉を閉める。扉の軋む音が重く鈍く、耳に障る。まぁ、俺には耳なんてないけど。
カビ臭く、辛気臭いちっぽけな部屋のその中央には台座が一つ。質素な台座の上には三本爪に支えられて黒い水晶球が鎮座していた。禍々しいオーラを纏った黒水晶は時折、黒い稲光のような閃光を放つ。
「あれに魔力を込めてみろ」
「こうですか?うおっ?!」
サタンが黒水晶に手をかざし、魔力を込めた瞬間、部屋中に白い光が満ち溢れる。眩い閃光の後には目の前には見渡す限りの広大な草原が広がっていた。
「こっ、これは……?転移……?」
戸惑いながら青空を、その彼方に輝く太陽を仰ぐサタン。それをよそに足元の花を摘んでみる。紫の小さな房をたくさんつけた花が可愛らしく揺れる。残念ながら鼻なんてない俺にはその香りを楽しむことは叶わないが。風になびいて足を撫でる草の感触にサタンの戸惑いが増す。現状が現実味を帯びれば帯びるほどにサタンの中ではそれを否定したい気持ちが溢れてくるだろう。幻影だと思いたくなるのだろう。大ボス3体がまとめて幻術にかけられている方がよっぽど、今の光景よりも理に適っていると考えるのが普通だ。
「今は細かいことは気にするな。それより――」
「うん、来たね」
いつの間に接近されたのか、上空から降下してくるものがあった。ゆっくりと音もなくそれは草の上に着陸した。
翼を広げ。膝を折り。手を取り合い。額を寄せ合って。どこか哀しげな表情で祈る、向かい合う2体の天使像。磨き上げた大理石のような滑らかな表面には所々黒いまだら模様が入っている。「闇に蝕まれる天使たち」とでも題したくなる背徳的な様相だった。
「やっぱりちょっと早かったかな?」
「みたいだね。ま、サタン君がやるんなら丁度いい頃合いなんじゃない?」
降り立った天使像は何をするでもなく、ただ静かに佇んでいる。
「これはいったい何なんですか、陛下?」
「う~ん……何て言ったらいいんだろうね?」
説明に困ってりゅーやんに振る。
「通説では。人族に庇護を与える神像だとか。これが100%機能していれば人間は神の加護を得て魔族や竜族にも匹敵する力を得るんだとか」
「人間がそれほどの力を?」
「神族から人族へ力を……魔力や竜気に相当するようなものだろうね。それを分け与えるパイプのようなものじゃないか?って言われてはいるけど……」
「俺はその説には否定的なんだけどな」
「確かにまーくんの言うように腑に落ちない点はいくつかあるんだよね。大体これについては情報が少なすぎて分かっていることがあんまりない。その分かっていることだって本当に正しいのか分かったもんじゃない」
何せ、魔王、竜王クラスのトップシークレットなのだ。
ロード「ちなみに竜宮殿にも同じようなのがある」
竜王「ウチのはまたちょっと仕様が違うけどね」




