エクストラ・マッチです、ロ……ミスターX!
†西の荒野:特設闘技場
昼休憩を挟んで会場の熱気は冷めるどころか徐々に、しかし確実に、着実に増していた。多くの観客たちが、ミスターXの登場を今か今かと待ちわびている。先の試合で一部消滅したリングは昼休憩の間に新品に差し替えられていた。その上では、サタンが仁王立ちで対戦相手を待ち構えている。胸元で組んだ両腕にはファウスト戦のダメージはもう残っていない。
リングの中央、マイクを握り締めた豹の解説者にスポットが当てられる。本人に自覚はないが意外と色んな所、それも結構目立つところにいることが多いMOBだった。
「数々の名勝負を制して!その頂点に立った男、サタン!」
豹の解説者の声と共に歓声が響き渡る。
「しかし、我々実行委員会はそう簡単に彼を最強とは認めない!」
そうだ!そうだ!と野次が飛ぶ。その熱気が荒れ狂う中、更に豹の解説者が続ける。
「彼の力は最強と呼ぶに相応しいのか?それを問うべく実行委員会は一人の刺客を用意した!」
割れんばかりの歓声で観客席が揺れる。熱狂は今まさに頂点へと達しようとしていた。
「ご紹介しよう!ミスタァァァ、エーーックス!!」
豹の解説者の紹介の下、遂にミスターXその人が会場に姿を現した。ボロボロのフードの下は深く暗く、窺い知ることはできない。その正体はあくまで秘密なのだ。ただ唯一、禍々しい杖を握る右手だけが衆目の下にある。だがそれで十分だった。その朽ち木のような骨の手が、フードの中の人物が誰であるかを雄弁に物語っている。
歓声の中、静かに対峙する両者。口を開いたのはサタンだった。
「死んでも恨まんで下さいよ?」
「愚か也。貴様なぞ、我が直接手を下すまでもない」
応えるミスターXのその声が低く響く。
そのやり取りをよそにそそくさと放送席に戻る豹の解説者。
「それでは!エクストラ・マッチ、仕合開始です!!」
「「来たれ、夢幻の付添人よ、束の間の契約!!」」
両者の召喚魔法束の間の契約の詠唱が重なる。消費MPも詠唱も非常にお手頃なこの魔法は、その分召喚できるものに結構な制限が付いてしまうので基本的には支援要員――回復・防御役か、あるいは相手の弱点を突く特殊能力持ちの召喚くらいしか使い道がない。なのでサタンは安心すると同時に困惑していた。
――骸骨騎士でも、竜王でもない?
術者と召喚体のレベル差制限によりサタンが予想していた本命と大穴の2者は消えた。
ついでに束の間の契約では1体しか召喚出来ないので骨の軍勢もない。
開始早々、試合は完全にサタンの想定外の方向に向かっていたが、困惑してばかりもいられない。何せ彼には強力なカードがあるのだ。サタンが召喚した者を見てミスターXが低く呟く。
「……本気で殺りにきたな……」
それは死霊族である彼にとっては一撃死をもたらしかねない危険極まりないスキルを有する、まさに天敵。更には回復や各種支援魔法も高いレベルで使いこなす厄介者だ。リングに降り立ったその者はぷるるんっと身体を震わせて伸びをすると大きく翼を広げた。即ち、さっきゅん降臨の瞬間だった。
「んっふふぅ~♪そいじゃ頂きま~……って、うわあぁぁあ!?」
上機嫌で舌なめずりするさっきゅんだったが、眼前の敵に――ミスターXが召喚した者に目を丸くしてしまった。
大きく顔を覆うアイマスク。ふくよかな胸元で掴み留められた宵闇色の衣。その上から緩やかに身体に巻きつき、四肢にまで絡む鎖。廃退的で背徳的な出で立ちにさっきゅんが生唾を飲む。
「あれも食べていいの!?」
「バカもん!本体が先だ!」
サタンがツッコミを入れている間にもミスターXは着々と防壁を展開し、更には攻撃の手立ても整えつつあった。
「この身の深淵より分かつ力を絆と成せ、魂の共有。乱反射にて静寂は二度と見えず。かくて忘却の最果てまで無限の減衰を、きえないこだま!!」
描かれた魔法陣が地面で、或いは空中で互いに腕を伸ばし合い、連結する。幾つもの魔法陣が複雑に絡み合い、ミスターXとその従者を包む。準備が完了したと言わんばかりにミスターXが杖を振りかざす。
「さあ存分にやれ!繋がれた歌姫!!」
さっきゅん「むぅっ!むしろ淫魔のアタシがあのカッコをするべきでは?」
サタン「私の趣味が疑われるわ!」
さっきゅん「?いいじゃん?そしてあんな腕だけよりも、従者の方が美味しそうなんですけど」
サタン「おい……」
【作者より】
就職決まったよ、ひゃっほ~ぅい!!
ってことで2ヶ月振りに執筆再開です。
またすぐに止まっちゃうかもですが……
どうぞ、お楽しみ下さい




