注目の一戦です、ロード!
!特設会場
「レディース&ジェントルメェーン!さぁ、次はいよいよ注目の一戦です!まずは優勝候補の一角、サターーン!!」
花道を一足飛びに飛び越え、サタンがリングに降り立つ。2回転のひねりを加えた華麗なジャンプで宙を舞い、スタリと着地を決めると腕を組んで反対側の選手入場口を見据える。
「対するは初戦で早速魅せてくれました!スペシャルゲスト、金色のバロル(ゾンビ)ーー!!」
ゲートから姿を現したバロル・ゾンビがゆっくりと花道を進む。
「解説はおなじみ、私豹の伝令官と」
「竜王でお送り致します。って、昇進したんだね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます。さぁ、早速ですが竜王さん。この試合、どう見ますか?下馬評ではバロルがやや優勢といった感じではありますが?」
「そうですね。魔職のイメージが強いサタン選手ではありますが、ボス格として恥ずかしくないstr,vitも具えていますし、そういう意味ではある程度格闘に耐えることは可能だと思われますが……あ、VTR出てますね、ハイ」
「2回戦でのバロル選手のこのラッシュ!凄まじいですね!竜の肉体がこのサイズに凝縮されたことで一撃一撃の重みが違いますもんね!」
「えぇ。流石のサタン選手でもこのラッシュを受けきるのは厳しいでしょうね。でもバロル選手もバロル選手で実はコレ、結構無理しているんですよ」
「と言いますと?」
「今現在バロル選手はゾンビ化していますから、肉体自体の強度は以前と比べて著しく低下しているんですよ。自分の攻撃の衝撃に身体が耐え切れなくなる可能性があるんです。攻撃力だけで考えたら肉弾戦の方が遥かに効率的なのに、そんな心配があるからわざわざ武器なんか使っているんです」
「なるほど。高い攻撃力が自身を苛むのですね」
「はい。万が一肉体崩壊を起こしてしまったら戦闘中に体勢を立て直すのはまず無理でしょう。ですからバロル選手には皆さんが思っている以上の短期決戦が要求されるんです。そういった点を加味して考えると実はサタン選手の方が結構有利かもしれませんよ?」
「これは熱い戦いが期待できそうですね!さぁ、そうこう言っている間に試合の準備も整った模様です。リングの両端で両選手が睨み合い……そして今!ゴングが鳴ります!!」
カーン!
「バロル選手が一気に距離を詰める!っと、その進路に地獄の業火が続々と立ち上る!詠唱はなかったように見えますが、竜王さん、これは?」
「待機がかけてあったのでしょう。しかしバロル選手、この地獄の業火をターンステップで難なく躱して行きます!ほとんど勢いが落ちていません!」
「さぁ、遂に間合いに入った!剛剣一閃っ!!」
乾いた音が高らかと場内に響く。バロルが放った横薙ぎの一撃をサタンは素手で受け止めた。もっとも、三重に重ねた物理防壁でその威力は相当に殺されているはず。受け止めた剣をそのまま掴んで連撃を封じる。砕け落ちた物理防壁の欠片が舞い散る中、両者共に不敵な笑みを浮かべる。
そのくらいやってもらわねば困る、と。
そのくらいで終わってもらっては困る、と。
そんな刹那の中に交わされたアイコンタクトの後、一瞬の均衡をバロルが崩す。
バロルが剣を引く。それにつられて剣を掴んだサタンの腕が、身体ごと引き寄せられる。バロルが力ずくで引き寄せたわけではない。剣を引くという動作に対して思わずそれを追ってしまった、いわばサタンのミスであった。軽く前のめりになったサタンの側頭部に蹴りが叩き込まれる。蹴撃――まさかの直接打撃にサタンの顔が歪む。と同時にバロルの足の甲の肉が弾け飛ぶ。腐肉を撒き散らしながらさらに拳を叩き込む。それを受けるサタンは明らかに対応が遅れている。なんとか物理防壁を展開してはいるがまったく足りていない。追いついていない。むしろ追いつかれ、追い詰められつつあった。物理防壁は出す端から蹴り貫かれ、引き剥がされ、殴り散らされ、徐々にジリ貧に陥っていた。
しかし攻めるバロルもまた確実にダメージをその身に重ねていた。殴りつける拳はもはや半分以上肉を失っている。にも関わらずその猛攻は止まるところを知らない。その様はもはや闘技と呼べるような代物ではなく、ただ猛り狂う一匹の野獣に過ぎなかった。
斬れないなら殴ればいい。
殴れないなら蹴ればいい。
殴って痛いならそれ以上相手に痛い思いをさせりゃいい。
そんな直線的で、暴力的で、そして自滅的な境地に彼を追いやったのは一体何なのか?単に飽くなき闘争本能がそうさせたのか?はたまた肉体の死を乗り越えたからなのか?
その執念が、遂にサタンを捉える。
「ぐぉっ?!」
ほとんど骨の剥き出しとなった手の平がサタンの顔面を掴み、そのままリングへと叩きつける。反対の拳も腹に突き立て、吼える。
「解放!!」
それは、バロルの本来の姿を解き放つ一声。叫び声と共にバロルの身体が大きく膨れ上がる。
20mを超す腐肉竜の巨体に石盤のリングが軋む。
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
「ぐおおおおおおおおおっ!!」
二人の叫び声に呼応するかのように、リングに亀裂が走る。バロルがさらに四肢に力を込める。
「ブッ潰れろおぁぁぁあああっっ!!」
「くっ……湧き立て溶岩噴出!降り注げ!溶岩の雨!!」
サタンの左腕だけがバロルの巨体の下から抜け出し、いつの間にか魔法陣を描いていた。赤く輝いた魔法陣からは燃え盛る溶岩が天に向かって勢いよく噴き上がり、それは散って雨となりバロルの背中へと降り注いだ。
竜王「遂にサタン選手の反撃が来たか!?」
豹の伝令官「それより何であの人、竜に踏まれても平気なんですか?百人乗っても大丈夫とでも言うんですか?」




