どうかしましたか、ロード?
!魔王城.3F:玉座の間
「……ふぅっ……」
「どうかしましたか、ロード?」
「んっ、ん~……まぁな」
ちっす、俺ロード。ホネホネな王様は死せる者たちの支配者。第49代魔王でもあるけど、これは魔族の王様とゆー意味であって、悪魔の王様って訳ではない。ましてや、悪魔な王様でもない。
「最近さっきゅんに振り回されてばっかりな気がするわ……」
「何気にその愛称、定着してますね」
サーキュエールじゃ語路が悪いもんな。サーちゃんとかだとサーシャとごっちゃになるし。それでもサーxサーと言えばどっちがどっちか容易に断定出来るけど。
「悪態ついてる割にはすごくイキイキしていましたよ、ロード」
「なんだよ、イキイキしている骸骨って」
悔しいけど楽しかったという事実は否定できない。
「そーいや、あーゆー駄々っ子は最近周りにいなかったし、新鮮な感じはあるかな?」
それでfreshか。むしろこの場合、fresh to ~で~に対してなれなれしい、生意気な、ってな意味の方が当てはまってる気がするけど。
それはさておき。
「さて、コイツの処分、か……」
こいつとはチルチルこと、剣士(♂)のことだ。さっきゅんの魅了魔法にやられて自我を失ったチルチルは涎を垂れ流して白眼をむいている。コレもう、精神破壊の域だよな?ついでに言えば彼をこんなにした張本人は一身上の都合によりとっとと支配権を放棄してしまっており、下僕たる彼にしてみれば傷心もいいとこ。正しく失心状態。
「ちょっと哀れになってきたかも……」
冷静に考えると、今のチルチルはなかなか稀有な存在と言えそうだ。
撃ち込まれた魅了魔法はチルチルに深く突き刺さり、その魂を千千に引き千切っていた。普通なら相手の精神に干渉するための接続の一手が、思いもよらぬ会心の一撃となり、それはある意味では死に至る一撃であった。ある意味――精神面で、である。
肉体にはなんら問題なく、精神が先に死んでしまっている状態。精神、心――すなわち魂だけが死んでいて。しかし、肉体は生きている。死に損ないだ。そんな彼もまた、死霊族と呼べるのだろうか?しばらく考えを巡らせてみたが、辿りついた答えはNOだった。
彼の場合、死に損ないと言うよりも、死に体だ。彼の砕かれた魂は既に散り始めており、自然の摂理により肉体の死も時間の問題でしかない。摂理から逃れているわけでも、摂理に逆らっているわけでもない。肉体と魂、その死ぬ順番が通常一般とは逆であったが、俺たちのような猶予期間が許されているわけでもないのだ。瀕死で、必死だ。(魂が)いつ死ぬと知れない俺たちとはその点で決定的に異なっていた。
もっと簡単に言えば。持論になってしまうが、自我を持たないものは生きているとは言えない。生きていないのであれば、それは死んでいる。よって彼は死んでいる。つまり死に損ないではない。
もっとも、世の中には自ら進んで己が心を殺す者たちもいると聞く。無我などと言ってそういった教えを説く宗教もある。肉を無くした身では心を亡くすなど、空恐ろしい。とは言えその境地に至ったと知ることも己なくしては叶わないだろうし、そもそもその境地を目指すこと、志すこと自体が自我でなくて何であろう?それこそ正しく自我と言えよう。サーシャじゃないが生きているものは全て余さず己の意思を持ち、(現実に屈するか否かというレベルから)自分で取捨選択し、それ故、生きていると言えるのだと思う。遂行することが出来なくとも、示すことさえ出来なくとも、そこに意思さえあれば、それは立派に生きている。逆に言えば、意思の無いものは死んでいる。
「生きてりゃ語り手として帰してやったんだがな。まぁ、運が悪かったな」
杖を手に呪文を唱える。傍らでは豹の伝令官が手を胸に目を瞑っている。
「有為転変も理の導き、必滅の定めに迷うなかれ。そは先達、そは送る灯火――」
死に瀕した哀れな若者に、せめてもの手向けだ。
「――火葬」
チルチルの足元から黒ずんだ炎が立ち上る。すぐに炎は彼の全身を飲み込み、灰へと変えた。
豹の伝令官「今気付いたけど、蜥蜴の槍使いって、使用武器が被ってる」
ロード「いいじゃん、お前の槍は使われないんだし」
豹の伝令官「使いますって!!」
ロード「ってか、槍ってかなり一般的な武器じゃん?んなもん独占すんなよ。だいたい武器でキャラを縛ってたら骸骨騎士とかどーなんだよ?」
豹の伝令官「あ……それもそうですね……」




