ランチにしましょう、王サマ!
!魔王城.3F:玉座の間
「ねぇ~ん、王サマぁ~ん?」
定例会が終わるなり、サーキュエールがしなだれかかってきた。甘ったるい声が甘過ぎてすごく気持ち悪い。なんかもう、鳥肌立ちそう。肌とかないけど。
ちっす。俺ロード。絶賛生命の危機なぅ?王様や英雄にハーレムが用意されているの法則はほんと何とかしてほしい。いや、ガチで。
「鬱陶しいから取敢えず離れろ。あと、わざとらしく甘い声出すな。気持ち悪い。小悪魔気取りか?」
「実際、悪魔ですけどね」
「うわっ、ドヤ顔ムカつく~」
「時に、小~っていうのは否定的な意味合いを含んだり、敢えてプラスの言葉に付けて貶めたり。ロクな意味じゃないことが多いみたいですね。小賢しいってのはズル賢いとかそんな意味を持ちますし、小細工なんて絶対誉めてません。小憎らしいに至っては大概の場合もはや憎くないでしょう」
「憎さ余って可愛さ百倍?」
「その通りです。もはや可愛いを導くための枕詞みたくなってます。実際にはただの生意気なのに!」
「その憤りはなんとなく共感できる」
「そこいくと小悪魔なアタシは本当に悪魔なんでしょうか?いえ、むしろ癒しの天使?あなたの身も心も癒します」
「それは絶対違う」
元を知ってるだけに癒される気がしねぇよ。ってかむしろ逝かされる気しかしない。
「それはさておき、王サマ。アタシお腹が空きました。ご飯欲しいです」
指を咥えての上目遣い。
「社食行ってこい」
「えー?それじゃアタシの欲求は満たされませんよ!」
「お腹空いたと言いつつ社食で満たされない欲求って何だよ!」
「もちろん、性欲です」
「訊いてねぇし!突っ込んだだけだし!」
「まだ突っ込んでもらってません!」
「テンプレ的レスはいらねぇぇ!」
「レスはどっちのせいですかぁぁ!!」
逆切れた!?
「ちゃんと言いつけを守って、ずっと我慢してるのに……ぐすっ」
からの、泣き落とし!?
「わ、分かった。アレ喰っていいから」
「え?」
「アタシとしてはもーひとつ隣の方がいいのですが?」
「げっ?」
指さされた二人は脱兎のごとく部屋を飛び出して行った。
「……なんでみんなして逃げるんですか……」
「……ランチ、社食でよけりゃ奢るよ……」
!魔王城.2F:大食堂
♪焼けたマシュマロその口に
強く押し付け 抱きしめたら~
「げ?!」
「あ!」
「んん!?」
食堂の片隅で、サーシャが歌っていた。丸椅子に掛けて、人だかりの中、伸びやかな声で。
同時にお互いに気付くとサーシャは人垣を掻き分けてこちらへやってきた。
「何やってんの、こんなとこで?」
「えっと、納品に来たんですけど」
「あー、パンはオットーんとこから仕入れてたんだっけ?」
ここでパンなんてどれだけの需要があるか知らないが。ってかむしろどう考えても彼女自身の方が需要があるだろう。人波に揉まれて解けてしまった肩紐を結びながらサーシャが続ける。
「それで歌ってたらいつの間にやら人だかりができてしまって。アンコールやらリクエストやらでてんやわんやになってしまって……」
「それでと言われてもどれで歌う経緯に至ったのかさっぱり分からん」
その場には結構な数が聴衆として集まっていたが、彼女が歌を止めてしまったので徐々に解散と言うか、散開してしまった。あとさっきから人、人と連呼してはいたが人なんてここには一人しかいないのでいないので、念の為。
「えーっと王サマ?この娘って……」
「あー、こちら元生け贄の小娘でサーシャ。脱ぎたがりだから気を付けろ」
「この娘が、今日のランチ?」
「この娘も摘み食い禁止な?」
「つまり真剣ならOKと?」
性懲りもない……
「わー!女の子もいるんですね!ここに来て初めて見ました。今日は」
こちらのやり取りが耳に入っていないのか、サーシャは無邪気に目を輝かせて握手を求めた。確かにサーシャと年頃や姿形が近いコイツは貴重な存在かもしれない。できれば逢わせたくなかった組み合わせだが、そう考えるとむしろこれは良縁だったのかも。
「えーと、こちら警備軍の新入隊員、淫魔のサーキュエール。舐めたがりだから気を付けろ」
舐められるだけで済むはずはないだろうけど。
互いに眼を輝かせて握手を交わす二人。
「仲良くして下さいね?」
「そりゃぁ、もうっ……もちろん!」
骸骨騎士「お前が大人しく食われてりゃ丸く収まったのに」
豹の伝令官「馬鹿なこと言わないで下さいよ!ようやくグリンの機嫌が直ってきたとこなのに……」
骸骨騎士「ちぃっ!ここにもリア充が!!」




