ロード、新入りです!
!魔王城.1F:儀典の大広間
「ロード、こちらが今回採用となった新入りです!」
「うむ」
ちっす、俺ロード。今日はこれから魔王城常備軍新入隊員の叙任式だ。新入隊員は総勢20名。加えて会場には彼らを祝福するあらゆる種族の魔族が多数集まっている。が、その前に。
「豹戦士、前に出ろ」
「へ?」
名指しを受けても訳が分からず、ただ恐る恐る前に進み出る豹戦士。大広間にざわめきが広がる。新入りの取り次ぎは正門警備の仕事だったとしても、それ以上の役割は本来彼にはない。だがいい機会なので、ついでだ。
一つ大袈裟に咳払いをして告げる。
「汝の日頃からの急を告げる報せ、見事な働きぶりである。これを認め、汝を伝令官に任命する」
ウオォォォッ!!
獣族の間から割れんばかりの歓声が上がる。突然の事態に未だ戸惑うばかりの豹戦士の左腕に官章を着けてやり、その肩を叩く。
「今後は豹の伝令官だな。ルビ持ちに昇格、おめでとう」
「ありがとうございます。でも……所属とかはどうなるんですか?」
豹戦士改め、豹の伝令官が小声で訊ねる。
「もちろん、継続」
「……それって、昇進ですか?」
「肩書きは大事だぜ?」
豹の伝令官と書いて、パンサー・ヘラルド。地の文はそれなりだが、読みはキレがあってなかなかにカッコいい響きだ。こいつには少し勿体無い気もする。
「それともいっそのことヘラルドを名前にするか?」
「いえ、私にもちゃんと名前はありますから」
「まぁ、そんなことより」
こっそり耳打ちする。
「これで彼女にちょっとはデカい顔できるだろ?」
訝しげな豹の伝令官をよそに、大広間の群集に宣言する。
「皆の者、彼の者の言葉は我が言葉と思い、心して聞け!!」
再び大広間に拍手が巻き起こる。
「うっ……迂闊なことが言えなくなった……」
そんな余興で大盛り上がりしたあとはいよいよ本チャンの新入隊員の叙任式である。
魔王城常備軍は魔王の直属の部下という位置付けになるので、それに選ばれることは非常に栄誉なこと。らしい。自分が任命する立場にあることもあって、俺にはいまいちピンと来ないが。
種族の面目にモロに関わってくると言って、自分達の種族からどれだけ選ばれるか、悪魔族と獣族たちは互いに鎬を削っている。しかし俺自身もそうだが死霊族には種族意識がない。同族同士で肩を寄せ合うことはあっても、そこに連帯感は生まれないのだ。「生命活動が停止した者達」という非常に曖昧な括りの中にいるせいだろうか?それともそういった欠如もまた死に損ないの死んでいる部分なのかもしれない。
「……以上20名を、新たに魔王城常備軍隊員として任命する」
宣言のあとに拍手が続く。新入りの代表の宣誓とかあったが適当に頷きながら聞き流す。かくして叙任式はつつがなく終了した。
今回は、と言うか今回も、であるが新入りは悪魔族が多い。総合力が高いのだから仕方が無いが、そんなだから魔王=悪魔の長みたいな間違った認識が生じてしまうのだ。今代の魔王は死霊なのだ。今代の魔王は死霊なのだ。
「おい、サタン」
散会のざわめきの中、一人の男を呼び寄せる。
「はっ」
半裸のおっさんが進み出る。ねじれた2本の角と血管の浮いた黒い翼を具えた彼こそが、並み居る悪魔族を束ねる男、その名もサタンである。大仰な式典の中、いい年こいたおっさんが半裸でいるが、これが彼の正装なので、そこはつっこまないであげてほしい。
「新入りのさ、お前ンとこのヤツ。えぇっと、名前なんつったっけ……」
名簿をひっくり返す。
「あぁ、コイツ、コイツ。あとで俺の部屋に連れてきてくれる?」
「彼女……ですか?畏まりました」
名簿の指差された名前を見て一瞬、サタンの眉間に皺が寄ったが、すぐに了承の返事が返ってきた。
新入隊員の中でも一人だけ、コイツだけは早急に手を着けなければならない。手遅れになる前に。その存在は非常に危険だ。
この時にはまだ誰も予想だにしていないのだが、後に彼女はたった一人で魔族内の勢力図を大きく書き換えることになる。
その名はサーキュエール・ティアーズ。
名簿の備考欄によれば回復魔法、補助魔法の扱いに関しては他の追随を許さなかったとある。
別紙の詳細プロフィールによるとFカップらしい。
なお、種族は悪魔族.淫魔となっている。
豹の伝令官「素直に喜べないのは何でだろう?」ブツブツ
ロード「出世しだす始めのうちはどこだってそんなもんだよ。人一倍苦労して、実績を重ねて、上へ上へって駆け上っていくんだよ」
骸骨騎士「なんかもっともらしい台詞ッスけど、ロードはそんな労苦の末にトップ取ったわけじゃないッスよね?説得力が無いッス」
ロード「間違いなく魔王になってからの方が苦労は多いよ。ったく……面倒ぃったらないわー」




